戦争&紛争映画
ムードが醸成されていることが危険
戦争が好きなのは新聞に代表されるマスメディアだ、と内田樹氏の街場のメディア論でお勉強しましたが、よくもまぁ毎日火種を探しちゃあ、人々を焚きつけてるなと感心してしまう。夕飯時に点いているTVニュースを横目で見る度にそんな気になります。ただ映画で情報を溜め込んでいる私めの認識は、第二次世界大戦に関して“まだまだ分かっていないことは山のようにある”でして、今年もいくつか作品が加わった。
「アンブロークン/不屈の男」、「アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち」、「いしぶみ」、「この世界の片隅に」などが新規加入で、「ディファイアンス」を再見しただけでも“無知な自分”を発見してしまう。「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」のような授業を受けていたら・・・と五十路を間近にして愚痴っても仕方なく、流されそうになったら、“口に苦い良薬”を観るしかない。
村上龍氏の「星に願いを、いつでも夢を」が参考になりますが、日本が戦争できる状態にあるのか?はその通りだと思う。お金無いのに鉄砲やら戦闘機やら都合つくはずないもんね。ただし、日々TVニュースで繰り返されている煽り文句=“近隣諸国の驚異”を真に受けて、絶望した人々がヤケクソになるかもしれない、と心配になるのは合衆国大統領選を経ているがゆえ。
ムードは醸成されていると思う、後はカリスマ的な指導者の登場を待つばかり。という嫌な気分が払拭できないから、「シークレット・オブ・モンスター」で確認したい。既に「帰ってきたヒトラー」でうんざりさせられたし。嫌な予感は戦争という悪夢の再現ではなく、違った形をとるのでは?なのです。戦争は人口調節という側面がある。企業だってさ、従業員を削減出来た人がエラいわけでしょ。
(11/27/2016)
明るみにされていないことは山ほどある
2作品だけでどうこう言うのもナニですけれど、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」、「カティンの森」を見ただけで第二次世界大戦の見方は変わります。より複雑になり、“明るみになっていないことは山のようにある”ことだけは間違いない。ただ疲労を伴うけれど、現在のことを分かる手がかりにもなる。国家機密は功労者をも隠蔽できるし、国家が命じた虐殺は宣伝に最大限利用される。
単純に“人間とは殺し合う動物なのだ”と納得した気になって思考を停止すると、懲りずに再開する気運というか、雰囲気はすぐに醸成されてしまう。戦争映画は派手に描くと、集客力が出せても、お客さんが次の週にはその事を忘れてしまう。いつまでも考え続けるのはしんどいですが、心の片隅に残しておくのが肝心。クリント・イーストウッドが「アメリカン・スナイパー」を淡々と描くのもうなずけます。
(3/18/2015)
戦争&紛争映画(ごくわずか)
戦争映画と言えば高射砲が敵地を砲撃、戦車を先頭に歩兵が突撃。ところがそれは完全な思い込みで、ただの側面でしかないことを数を観ていくと気づかされる。確かにその種の戦闘も「マイウェイ12,000キロの真実」では展開するが、戦場を転々とすればゲリラ戦だってある。21世紀の戦争は市街戦が中心になることは昨今の作品に接すると痛感(「英雄の証明」)。しかし「ナチスが最も恐れた男」などを見るとヨーロッパでは第二次世界大戦時、既に人里で戦闘が行われていたことを露呈、「ネイビーシールズ」が描いたものに近い。ただ対テロ組織の部隊が展開しているのは全世界で、各地の米軍と連携して敵と戦う。
もはやスパイ映画なんだか戦争映画なんだ区別がつかない。「ゼロ・ダーク・サーティ」にしてもそうで、確かに戦う相手がいるからそれは敵なんだけど、味方とてシビアに描いていて容赦がない。“命も金も惜しみなくドブに捨てる”戦争に資本主義もその菌糸を張り巡らし、軍隊の民間委託へ移行。「ルート・アイリッシュ」でも「ヤギと男と男と壁と」でも触れられている。ひょっとすると、既に世界規模の戦争に突入している時代なのか?後の歴史にはそう記されるのか?少なくとも猜疑心が蔓延していることは明らか。一発逆転したい者は戦争を欲し、そんなものまっぴらごめんと思う者はコツコツ日々を生きるしかない、昨今ほんとに痛感します。もちろん戦争起こしたらどうなるかを「ソハの地下水道」に至るまでナチを描いた映画は警鐘を鳴らしている。
(2/17/2013)
絶対にあってはならないことなのに、必ず人類の歴史に登場する“戦争”。もちろん映画の題材として、苦々しく何度も取り上げられております。戦争映画として秀作かどうかは正直分からないけれど、「プラトーン」は10代で観たのでホントに怖かった。少なくとも戦争映画の機能は果たしている。機能とはもちろん反戦を訴えること。殺されるところにわざわざ行くもんかと心底思った。しかし「大いなる陰謀」に出てくる志願兵の2人を否定するなんて人間としては絶対に出来ない。
戦争映画ではその悲惨な現象を描き、訴えますけれど(「シンドラーのリスト」、「戦場のピアニスト」)、更に突っ込んで命令する連中(「ブッシュ」、「大いなる陰謀」)、喜ぶ連中(「ロード・オブ・ウォー」)も残らずバラす貴重な情報源。ま、張本人は最新作の「ミックマック」のように懲らしめないと。
で、数こそ少ないですけれどページに載せたものを集めて、おおざっぱに分けてみました。数が少ないだけに“第二次世界大戦”と“以後”、傑作が多い“潜水艦映画”はページを作るほどは観てないから、ここにひとまとめ。ほとんどは戦争映画の棚に並んでいますけれど、“反戦映画”はヒューマン・ドラマとかシリアスな映画がならんでいる所にあるはず。人に戦争をやらせている“東西冷戦”を描くとほとんど諜報戦かポリティカル・サスペンスになって、“紛争地域”を描いたものと同様に古くないだけに生々しいニュースを見ているような感じがするものが多い。“戦争コメディ”「戦争のはじめかた/バッファロー・ソルジャーズ」からこのサイトを始めましたけれど、この類は笑いもあるけど毒がバッチリ含まれています。“その他”は戦争を中心に描いてはいませんけれど、背景にキッチリ影を落としているもの、「ロード・オブ・ウォー」は必見。「それぞれの空に」はドラマとしてなかなかの秀作だと思います。
正直第二次世界大戦を描いた作品は古い方が傑作に決まっているんですけれど、載せるの止めときます(「大脱走」も「史上最大の作戦」も好きだけど・・・)。だって笑われちゃうからね。
(10/20/2010)
第二次世界大戦 50音順
スターリングラード(合衆国版)
父親たちの星条旗 沈黙のレジスタンス〜ユダヤ孤児を救った芸術家〜
ヒトラー最期の12日間
ヒトラーに屈しなかった国王
ヒトラーのための虐殺会議 ヒトラーの贋札
ヒトラーへの285枚の葉書
第二次世界大戦以後 50音順
アイアン・ソルジャー アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場
ディア・ハンター トップガン
トップガン/マーヴェリック ドローン・オブ・ウォー
潜水艦映画
眼下の敵 ローレライ K-19 U-571
クリムゾン・タイド レッドオクトーバーを追え! Uボート
ファントム開戦前夜 ブラック・シー ハンターキラー
潜航せよ
U・ボート オペレーション・シーウルフ デシベル
反戦映画
ある愛の風景 ミックマック サラエボの花
さよなら。いつかわかること あなたになら言える秘密のこと
アワー・ミュージック アンダーグラウンド あの日の声を探して
ディバイナー 戦禍に光を求めて 二十四の瞳
消えた声が、その名を呼ぶ 名もなき生涯
ガーンジー島の読書会の秘密 涙するまで、生きる
東西冷戦の影で
フェアウェル さらば、哀しみのスパイ K-19
チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 13デイズ
レッドオクトーバーを追え パトリオット・ケーム
マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙
裏切りのサーカス ファイヤーフォックス
紛争地域を描いた映画
キラー・エリート ルート・アイリッシュ ノー・マンズ・ランド
マシンガン・プリーチャー 5デイズ プルーフ・オブ・ライフ
ミラル 君のためなら千回でも 灼熱の魂
グアンタナモ僕たちが見た真実 ウェルカム・トゥ・サラエボ
ブラッド・ダイヤモンド ティアーズ・オブ・ザ・サン
戦場カメラマン 真実の証明 エネミー・ライン
ビン・ラディンを探せ! スパー・ロックがテロ最前線に突撃!
特攻野郎Aチーム THE MOVIE ブラディ・サンデー
オーガストウォーズ アメリカン・スナイパー
おやすみなさいを言いたくて 13時間 ベンガジの秘密の兵士
虐殺器官 ロープ 戦場の生命線 プライベート・ウォー
ロック・ザ・カスバ! モスル〜あるSWAT部隊の戦い〜
戦争コメディ
ヤギと男と男と壁と 戦争のはじめかた M★A★S★H」
戦略大作戦 博士の異常な愛情 生きるべきか死ぬべきか
その他
カルラのリスト それぞれの空に ブッシュ 告発のとき
大いなる陰謀 ロード・オブ・ウォー 華氏911 英雄の条件
ア・フュー・グッドメン 世界侵略:ロサンゼルス決戦 英雄の証明
バトルシップ ネイビーシールズ ゼロ・ダーク・サーティ
麦の穂をゆらす風 戦火の馬 ヨルムンガンド
ヨルムンガンド/PERFECT ORDER わたしは生きていける
劇場版 幼女戦記 1917/命をかけた伝令 彼らは生きていた
パンズ・ラビリンス トップガン トップガン/マーヴェリック
現在(9/21/2013)“世界の軍事事情”を知るにはうってつけのお話が、日本アニメーションによって的確に描かれると恐れ入ってしまった。主人公はナィーヴとは無縁の“怨嗟を飲み込んだ少年兵”ヨナで、とても“人の子”には見えない武器商人ココ・ヘクマティアルと世界を旅する。ヨナのキャラクター設定は「イン・ディス・ワールド」、「それでも生きる子供たちへ」、「ブラッド・ダイヤモンド」などを経ているだけに唸ってしまった。無表情にマシンガンを撃ちまくり、無表情に敵を倒す。「パリより愛をこめて」で、陽気に人を殺して回るスパイも「ソマリアで子供に銃を向けられたら・・・」と言っていたくらいで、訓練された兵士より子供の方が恐ろしいのだ。
もちろん武器商人と言えば「ロード・オブ・ウォー」を観ていて、知った気になっていたけれど、その思い込みを覆す結末が待っていそう。死の商人のはずが、強者の傭兵を引き連れているココには、何やら企みがあるようだ(DVDの4までしか見ていないので、結末は不明)。アフリカ上陸の前に海賊に襲われたり、パイプラインをめぐる戦闘でロシアの秘密兵器ハインドが出てきたりと、「シージャック」も「5デイズ」も見てきただけに、いちいち“おっ、なるほどこうきたか”とうなずいてしまう情報量が込められていて舌を巻く。旧ユーゴスラビアに関しては実名を避けているみたいだけど、間違いなくラドヴィン・カラジッチを思わせる人物が出てきて「ハンテイング・パーティ」、「カルラのリスト」を再見することになった。
漫画が原作だけに、結構きわどいと思われる設定でも気にせず描いてしまうのか?「RE:CYBORG」の原作「サイボーグ009」も、最初の敵は死の商人=ブラックゴースト。悪いことは秒進分歩の21世紀だから、ここに描かれていることは既に過去のことかもしれないけれど、実に役に立つ情報が込められている。文学に比べて表現の自由を謳歌できる漫画なれど、息苦しい世界の現実だけではなく、けっこう笑える場面を挿入できるのも強み。機関銃の雨あられにさらされても、笑いを絶やさないココが一番だけど、研究成果を武器に転用されてしまうDr.マイアミがお気に入り。女性キャラはナイス・ボディが揃っていてオッサンには嬉しい配慮です。「ゴルゴ13」の系譜に連なることになるのかな?
オススメ★★★★☆
私にとって“抜け落ちていた世界史の一部”を埋めてくれる傑作。加えてなぜエミール・クストリッツァが評価されているか?一発で理解できる反戦映画です。物語は1941年から始まり、1992年に至るまでユーゴスラビアの歴史を辿る。冒頭はナチが侵攻している時期で、連中はユダヤ人だけでなく、スラブ民族を絶滅させようとしていただけに情け容赦ない侵略を敢行(愛と幻想のファシズムに書いてあったp113〜p114をご参照ください)。ただし「生きるべきか死ぬべきか」のようなコメディの体裁があるし、陽性なのがあの民族の持ち味なので笑いながら鑑賞ができる。「オーケストラ!」でもスラブ系民族に音楽の才能があることは描かれますけれど、全編に渡って鳴り響くテーマ曲は絶品で、見終わったあとも心地よく耳に残る。
ナチに抵抗するためスチャラカでも地下に潜って抵抗したボスのクロながら、第二次世界大戦終結を知らずに時は流れる。時代は冷戦に突入して、仲間をだまくらかしたマルコはちゃっかり英雄の仮面を着けた武器商人になって、元女優のナタリアとウハウハの地上生活。ナタリアに扮したミリャナ・ヤコヴィッチが実にジュリア・フォーダムに似ていて完全にワシのストライク・ゾーン、デレデレと見てしまうのは「アイアンスカイ」と同じ。それほど金髪フェチではないけれど、やられてしまいました。大戦時に生まれたクロの息子も成長して、結婚することになったりして。式の様子は人によっては冗長と捉えられるかもしれないけれど、実は後半のための仕掛け。冷戦時は戦火から遠い国にとっては束の間の穏やかな時期で、チトー亡き後に地獄の蓋が開く。
ユーゴスラビアが分裂解体して、戦争が始まる。前半から中盤に至るまでニヤニヤして見ていたのに、それが凍りつく。終盤は生々しい戦争映画に変貌、ぜひご覧になってご確認を。「ノー・マンズ・ランド」よりもっと突っ込んで、国連軍の実態なども描かれいていて、どーしてDVDのリリースないのかな?と思っていたけれど納得。確かにこれはやばいや。ラストはジャン=リュック・ゴダールの「アワー・ミュージック」に近く、監督の願いが込められている。「黒猫 白猫」から観始めて、「それでも生きる子供たちへ」の一編に唸り、マラドーナが好きで、役者としても見せるけれど、映画監督エミール・クストリッツァを知るには最適の1本です。
オススメ★★★★☆
実は後半はサッパリ分からなかったと言うか、ピンとこなかったベトナム戦争映画。公開当時は絶賛の嵐だったから、学生になったばっかしだったし、難解な映画を知ったかぶりしていた。しかし「前半だけやけに面白かった」が本音。もうビシバシと新兵を訓練していって、人格を剥ぎ取る過程が笑っちゃうけど狂気じみていて凄かった。後に「ジャーヘッド」を観ても新兵訓練のシーンではこの作品には適わない。殺人マシーンに育てられて、ほとんど機械化した主人公のマシュー・モディーンは実戦配置されるんだけど、ジャングルじゃないだよなぁ。ベトナム戦争映画と言えば“むしむしジトジト”のジャングルが相場だったんだけど、さすがスタンリー・キューブリックだなぁと感心したのもココ。
オススメ★★★☆☆
敗戦国が描くとたいてい戦争映画は悲惨なものになります。日本の戦争映画の殆どがそうであるように、“二度とこのようなことは繰り返すまい”という思いが込められています。このドイツが作ったスターリングラードの攻防もまた然り。極寒の戦場で逃げ出すこともままならず、物資も不足し、ついに撤退するまでが描かれます。ほんとに寒そうで、身動き取れない様子に背筋も凍ります。歴史の一ページを学ぶにはもってこいの一品。
オススメ★★★☆☆