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 “非ドラマティックこそドラマティック 「午後8時の訪問者」 サスペンスが日常を駆動させ、人によっては退屈だが、分かる者には極上の人間ドラマ”

 いい加減クドい始め方ですけれど、時代の変化はアチコチで進行中。更新されるニュースが飛び交い、アレもコレもと追いかけるだけで疲れる。本作が出品されたカンヌ映画祭にまつわるネタもいろいろと尽きず、映像配信会社が台頭してきているんだそうな。既にWIRED VOL.26でAmazon.とNetflixが取り上げられていたけど、レンタル屋の業界動向を知るためにチラ見しているCDVNETでも、“カンヌ映画祭があぶり出した問題点”と称して取り上げている。

 Amazon.comが宅配レンタルからスタートしたNetflixを追い上げているのが現時点。再度WIREDの記事を読み返すと、Amazon作品は今年になって「カフェ・ソサエティ」「ネオン・デーモン」を既に観ていて、ジム・ジャームッシュ「パターソン」は観賞決定済み。2012年の「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」で映画とは?を考えさせられて、「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」は配信で済ませて、「君の名は。」もリリースが今から楽しみで・・・。

 電車の中で漫画も映画も買っていて、リアル店舗に行く習慣が古臭く感じる。外は暑いしちっとも身体は休まらない。そんな時にのこのこ東京まで出ていって、ウザさ大爆発の人混みをかき分け、劇場に行くなんてもはや考えられない。たった1年前は東中野まで「いしぶみ」を観に行っていたくせに。ただその10日後に「マジカル・ガール」を拝んだアミューあつぎ映画.comシネマが、私めに映画館通いを続けさせてくれてます。

いしぶみ

 今後のライン・アップも期待作ばかりで、見逃した「マンチェスター・バイ・ザ・シー」、アンジェイ・ワイダの遺作「残像」などなど。現在上映中は「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」「LION/ライオン ~25年目のただいま~」で、「オリーブの樹は呼んでいる」も「わすれな草」も暑くてしょーがない今時分には助かる。宣伝過剰の超大作はひたすら疲れるだけ。

ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命 LION/ライオン ~25年目のただいま~

 さて、前おきが長くなりました、ジャン=ピエール&リュックのダンデルヌ兄弟の新作です。「サンドラの週末」で初体験の監督ですけれど、“何もかもが過剰”な今こそ求められる。物語は予告編通りで、この劇場の前説でも“人を救う医師が、呼び鈴に応えなかったことで死なせてしまったら”が基本命題なのだそう。店で仕事をしていた時は“閉店直前にモメ事が起きる”と肝に銘じていて、帰りたい時こそ気の緩みがあるもの。そういう“魔が差した”時は危険です。

 たまたまドアベルに応えなかったために、その少女は遺体で発見されてしまう。カメラに映った彼女の“死の真相”を診療所の女医ジェニーが探っていく。通常のサスペンスだったら激しく悔恨に悩まされ、スリル満点の謎解きがあり、あわや命を落とすかもという場面も想定されますが、アデル・エネルが演じるジェニー・ダヴァン先生は実在する診療所の町医者そのもの。直近で「ディア・ドクター」もよく出来ておりましたが、本作に比べればドラマティックな仕掛け満載。

 TVのサスペンスではありませんから、地味に調べている最中でも担当している患者から電話がかかってくるし、往診も日常で、ベルギーですからワッフルもらってきたり。驚かされるのはそんな中にちゃんとこのジェニーが優秀な人であること、町医者の決意を固めていること、インターンのことを気にかけていることなどが、ごく自然に描き込まれている。

 “目を開けて見てりゃあ”分かるのが映画で、音楽も一切かからないし、外の音が自然に聞こえてくるのは「未来よ こんにちは」とご同様。画でコチラが感じられるように描くのは、役者としても見せ場で主演のアデルはさすが、前作のマリオン・コティヤールに負けず劣らず。知らない顔ばかりで新鮮で、グイグイ入ってしまいましたが、この監督が連続起用しているジェレミー・レニエ(「ジェヴォーダンの獣」とのギャップは楽しめます)がある意味シグナルで、ぜひご覧になってご確認を。

未来よ こんにちは ジェヴォーダンの獣

 もっとも“観客それぞれが違った感想になるための作品”ですから、サスペンスじゃないという人がいてもおかしくない。でも伏線がラストになって生きて来るわけだから、ちゃんとそちら方面としても成立する。移民が抱える問題も背景に入れて浮世離れしていないし、町医者として彼女が生きていく物語でもある。けっこう盛り沢山な要素が詰め込まれているけど、あえて方向づけをしない親切さはこの監督ならでは。

 この兄弟が“新しいものを血眼になって探し回っている”評論家とかメディア関係者の心を掴んでいるのは当然で、本作は昨今の流れに逆行していて素晴らしい。観客が好き勝手に想像を巡らす余地を設けるため、可能な限り人工的なものを排する努力はさすが。「わたしは、ダニエル・ブレイク」なども、なるべく我々に近い存在として登場人物を描こうとしていた。

わたしは、ダニエル・ブレイク

 昨今完結しましたが「白暮のクロニクル⑪」もサスペンスが物語を駆動させるけど、命題(=描きたいこと)は日本とイモータルな存在の悲しみについて、のような気もします。大人向けの作品とは大雑把な位置づけですけれど、“分かるトシになったものだ”を日々実感。非ドラマティックこそドラマティックな1本で、まるで退屈しないし、過度にお勉強にもならなかったし、得難い映画体験でした。

現在(7/18/2017)公開中ですけれど、7/21までです。 オススメ★★★★☆
Amazon.com

DMM.com

カフェ・ソサエティ

午後8時の訪問者


その他の関連作

ライク・サムワン・イン・ラブ 珈琲時光 ドクソルジャー ワンダーランド駅で

しあわせはどこにある   いのちの子ども  そして父になる ブラック・ジャックFinal

女のいない男たち

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白暮のクロニクル11

 ゆうきまさみの「白暮のクロニクル」が完結。現在「木根さんの一人でキネマ」「A.Iの遺電子」も継続して購読中、3作のうち一つが終わったわけだ。すべてkindleで読んでいる。電子書籍での読書が常態化すると、忘れてしまうので記しておく。マンガを同時に何作も読むなどというのは何年もご無沙汰。この辺は新しいディバイスが過去の習慣をよみがえらせた現象の一つかも。

 これの前に「良心をもたない人たち」があって、サイコパスに対する知識が増した状態で臨んだ結果、このラストがサスペンスではなく、イモータルな存在の吸血鬼が遭遇する悲しい物語に映った。サイコキラーの茜丸をとっ捕まえて、スッキリするならありがちで安っぽいTVサスペンス。ところが共犯者が判明する部分に、作者の真骨頂がある。最終巻は第二次大戦直後のエピソードが挿入されているし(「火垂るの墓」)。


 この作品は“羊殺し”を追う体裁で進行するが、背景の日本史、我が国の実情が何より読む価値を生んだ。しれってしているようで、「究極超人あ~る」の頃とはまるで違う。なにせ主人公は88歳だ、年を取ると別れも積み重なり、それが死ねない“オキナガ”となればなおさら。さすがに88歳の心境すべてを理解することはできないが、映画館のサイトを別に設けたり、変わっていく世の中を眺めて寂しくなる時が増えた。もっとも生活も苦しく、せっせと働かなければならないから、そういう感傷はたまになんだけど。
オススメ★★★★☆
Amazon.com



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