ネオン・デーモン
朝の9時に仕事の終わった小田原からわざわざ新宿までやって来て、本作を拝むハメになった。なんでかって言うとココのTSUTAYAに来ないと「キッチン」を借りれないため。「ヒッチコック/トリュフォー」で触れていますが、“あっても良いのに”という作品は次々に消えている。「彼らが本気で編むときは、」の関連作としてどうか、「コンビニ人間」と比較しても面白そうと思ったがゆえなんだけど。
で、フラフラ歩いて向かっている先の歌舞伎町には、消防車がけたたましくサイレンを鳴らして急行中。4、5台は横づけしているビルの近くには、パチンコの新装開店に並ぶ人々の列ができている。皆さん微動だにしないところは、さすがの土地柄と感心。昨年の「帰ってきたヒトラー」を観たのもココTOHOシネマズ新宿で、けっこう入っておりましたが、パチンコに並ぶ人の数には及ばない。
さてニコラス・ウィンディング・レフンの新作だから7割入っているのか?エル・ファニングが主演だからか?題材に惹かれたのか?は不明ながら、若い人を交えつつバラエティに富んだお客さん。ニコラスの前作「オンリー・ゴッド」は固定客を生み出す作品とは思えなかったけど、「ドライヴ」から彼のテイストを楽しみにしている人はいるのかも。デヴィッド・リンチは「マルホランド・ドライブ」からアレだし。
監督の持ち味は色彩と音楽で、冒頭はグッときた。妖しいムードを醸し出し、人工美そのもののモデル世界を描く。ただし、「ロスト・ハイウェイ」と比較しても意味なくて、女優さんの変身を楽しんだ方が怖さが増すかもしれません。主演のエル・ファニングは「SOMEWHERE」以来、今この年齢でしか演じられない少女が多かったけど、「Virginia/ヴァージニア」の延長線上にある雰囲気を出している。
少女の面影を残しつつ、恐ろしさを秘めたエルだけでなく、可憐な過去作を持つ共演者も見所。ジェナ・マローンを「コンタクト」、「ハンガー・ゲーム FINAL: レボリューション」を経由して見ると、印象はまるで違う。彼女はメイクアップで、死体安置所でも働いていて、ひょっとすると?と思っていたら「キスト」の方面になるんだよね。
「ダーク・シャドウ」、「Re:LIFE〜リライフ〜」も合わせてオススメのベラ・ヒースコートも、整形美人に変身でサイボーグみたいだ。80年代生まれの彼女たちが、この種の役を演じる時代なんですね。ミア・ワシコワスカ(「マップ・トゥ・ザ・スターズ」)とかシアーシャ・ローナン(「ロスト・リバー」)とか次から次へと新しい人は出てくる。「ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー」のフェリシティ・ジョーンズもしかり。
当たり前ですけれど、彼女たちの女優根性は座っていて、監督が本作で目指したエロティックな描写にも果敢に挑戦。是枝裕和にだって「空気人形」があるんですから、ニコラスだって凄いことしてる。ポルノを見慣れた観客が食い入るようになって、唖然としまうラストも用意されている。タイトルにデーモンが付くわけで、その辺の解釈はお客さんに委ねていると思う、ぜひご覧になってご確認を。
観ていて和んでしまう「聖杯たちの騎士」とは正反対で、確かに女のグロテスクな面が出ている。デヴィッド・リンチの女優に対する扱いが素っ気なくて(「ワイルド・アット・ハート」とかさ)、その感じを埋めているようなのは気のせいか。ただ去年「マジカル・ガール」があったんで、インパクトで若干控えめな気も。実際のファション業界は「マドモアゼルC 〜ファッションに愛されたミューズ〜」みたいだし、ヤり過ぎるとファンタジーになる。その手前ってとこなんじゃ?
現在(1/17/2017)公開中
オススメ★★★☆☆
関連作
ファッション業界の一端を垣間見られるし、今後存続が危ぶまれる雑誌創刊のお仕事を眺められるし、子育てをしながらも自らの仕事を貫くカッコいい女性=カリーヌ・ロワトフェルドのドキュメンタリーだったりする。読み取れる情報はいっぱいあって、スタートが2012年、ファッションブロガーと話すカリーヌ。「99分、世界美味めぐり」同様に、ブロガーは無視できない存在。
また食とファッションに関しては日本が出てくるのも共通項。「プレタポルテ」とか「ズーランダー」だと茶化されるファッション業界だけど、仕事場の風景は「マイ・インターン」に近い。「プラダを着た悪魔」は若き女性にアピールしましたが、取り扱っているのが“美にまつわるモロモロ”だから華麗なんで、カロリーヌが言うように中身が肝心。
表紙の撮影現場は我々が目にする雑誌に載る写真が、どれだけ技術と労力が凝縮されているかを映し出す。もちろん新しいことには艱難辛苦が待っているけど、孫を授かったカロリーヌはイイんだよね。派手だけど儲けたらそれっきりじゃなくて“エイズ基金”のチャリティもやるし、パッとしてなきゃダメな業界だけど、上っ面だけじゃダメってことをストレートに描いている。
グラフィックボードを増設したので、本作と「七人の侍」と「シチズンフォー スノーデンの暴露」を並行して見ている。確か映画館と観客の文化史にはビデオの登場で“映画は読むものになった”と記されていたような。本作の映像に疲れたら、目に優しい黒澤明の傑作、年代確認のためスノーデンのドキュメンタリーを見始める。21世紀の視聴環境は忙しい。
オススメ★★★★☆