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彼らが本気で編むときは、

彼らが本気で編むときは、  彼らが本気で編むときは、

 

 新宿で「アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発」終了後、さっさと小田急ロマンスカーに乗り海老名に移動。そのまま留まって観るという選択は捨てなければならない。なにせ夜勤明けで寝てないし、終わったら家までたどり着かないといけないし。観光者向けの電車内で仮眠を取るとはアホです。とは言ってもお気に入りの荻上直子作品ですから体調は整えないと。

 

 「レンタネコ」から5年経過、楽しみだったので前情報は一切入れてない、ホームページも見ていない。というのは頑なな姿勢からではなく、ホントに時間がない。それこそ5年前だったら“待たされた”と愚痴っておりましたが、「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太も「永い言い訳」の西川美和もお気に入り登録されており、身体は一つしかない、人生は残り少ないを痛感の昨今。

 

 

 余計な情報に費やす時間はない21世紀、まっさらな状態で本作に臨む。始まって“荻上直子は新しい段階に進んだな”と感じる。それまでの作品が“浮世離れ”していたとは思いませんが、軽さと笑いは特徴の一つ。今回は一変して、“我々が目を背けがちな”現実から入っている。室内に干された洗濯物、一人で食事している女の子、夜中に帰宅する母親。これらが示しているのは育児放棄。

 

 最悪のケースは「誰も知らない」ですけれど、「メイジーの瞳」でも腹が立つ。まさか「かもめ食堂」の監督がこんな描写を入れてくるとは。年こそ子供ですけれど、主人公のトモは荻上直子の分身。演じる柿原りんかは既にベテランの旨さだ。トモに語らせているけど、監督の言いたいことでは?コンビニのおにぎり吐いちゃうトコなんてオジサンやりきれないですよ。ただもう一つあるテーマは、話題になっている“セクシャル・マイノリティ”について。

 

  

 

 もはや育児放棄が日常で新味もなく、新しいイジメ対象を血眼になって探しているTVピープルの前に現れたネタ。とは偏った見方ですけれど、映画か本で摂取しないと、デマを真に受ける愚を犯すことになるデリケートなイシュー。副次的ですけれど、“身体と心が一致しない”人に関して丁寧に描いていて、正確に理解することができる。巷に溢れているLGBTが、何を意味するのかサッパリな私めにとっては貴重な情報。

 

 早い話が避けてきたわけで「プリシラ」なども見ますけど、「リリーのすべて」をパスしているし、自分の中に生理的に受けつけない偏見があるのを認める。しかし差別はもっと虫唾が走るし、“みんな”という概念は大便以下だと思っているしね。「キッチン」を再見しても時代の変化は明らかだし、男尊女卑がそもそもデタラメ。その辺りは「ベートーヴェンはなぜ女性性を否定するのか」と呟くシーモア先生の教えがあってこそかな。

 

 

 

 主流の日本映画はほとんど観たことがないので、リンコを演じている生田斗真という役者さんは初めてだが素晴らしい。宣伝だけは見たことがある「土竜の唄」で、確かパンツ一丁になっていたような。「リリーのすべて」未見なので、エディ・レッドメインと比べようがないけど、過度に女性らしさを出してはテーマに即しない。彼女の伴侶となるマキオ役の桐谷健太、トモの叔父としても抜群のお芝居。

 

 女性監督は男優に好意的な一方、怖い役を女優陣にお任せ。一見リンコの理解ある母親なんだけど、田中美佐子は我が子を守る怖い顔を見せる。「ダイヤモンドは傷つかない」から幾年月、この人もおばあちゃん役になっちゃうのか・・・。女優としての小池栄子は知らなかったけど、典型的な“フツーの人”を悪役にしている。あの洗剤かけられちゃうとこなんて、思わず「もっとやれ」と言いそうになった。

 

 トモの母親役なんだからミムラもひどい人を力いっぱい演じている。言ってはいけないことを感情に任せてぶちまける、薄っぺらなジョーシキを盾にして“平気で人を踏みにじる”フツーの人。トモの祖母にあたる役のりりィも“この状況に無責任ではない”ことを暗に示している。「東京無国籍少女」とはまた違っていて、認知症を演じる年齢ではないのに。

 

 

 タイトルは“編むときは”ですけれど、トモ、リンコ、マキオが編んでいるモノは映画史上になかった。宙に舞う編み物に笑ったのは初めてだ。テーマは今日的で重かったけど、“荻上作品を観るとビールが飲みたくなる”というサービスは入っていたし、河原でお弁当食べてるシーンは「チチを撮りに」とダブるけど、なくてはならない。ロケはひょっとすると、鴨居のららぽーと付近だったのでは?

 

 

 もし人々の理解が進んだ状況なら、あのラストはなかったかもしれない。ただし現段階では“どうにもならない、やはり実の親と暮らす”ことが採用されるのでしょう。この“やるせなさ”は、本当に“胸が張り裂ける思い”にさせられる。感動ポルノではない証拠に、児童相談所の職員が出てきますけど、腕をまくらせて確認するんだもんね、そういう時代だということを知らなければいけない。

 

 

 

 本作の予備知識はありませんでしたが、関連作になるかもと思い「キッチン」を再見。日本の凄まじさはさびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ「コンビニ人間」などが参考になるかも。ただし、「そして父になる」「湯を沸かすほどの熱い愛」は“生物学的には他人同士”の家族が成立している。“服従の心理”から解放されると、それほど解決策は難しくないとは短絡的ですかな?

 

現在(3/2/2017)公開中
オススメ★★★★★

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  キッチン

 

 “吉本ばななの大ベストセラーを、森田芳光が映画化した”のも今を去ること28年前。当時21歳の若造だった私めは“原作を読んでから映画を観る”時間的余裕に恵まれていた。恥ずかしながら“文学の方が映画より上等”という狭い視野しか持っていなくて、即座にダメと決めつけ、特に橋爪功が演じている絵理子さんはイメージと違うじゃんと片付けた。

 

 月日は流れ、「彼らが本気で編むときは、」の関連作として再見してみるかと思い、近所のTSUTAYAで探したらなくて、わざわざ渋谷まで行くことに。配信で視聴可能ですけれど、大ベストセラーといえども、時代の流れには抗えないのか。でも見直してヨカッタ、原作はすっかり忘れていて、ひとつの映画として十分に楽しめるし、映っている事物にも味わいがあったりする。

 

 イメージと違うハズの橋爪功が泣きそうなくらい素晴らしくて、トシは取るものです。また彼女たちの仕事が水商売だけでなく、介護職もあり得るという時代の変化は救い。まだまだ偏見が覆っているけど、少しずつ闇は明けていくのでは?川原亜矢子と松田ケイジの組み合わせも、今では廃れたオシャレな風情が良い。ただし、今の若い人と比べると大人だよね。

 

 主人公のみかげはおばあちゃんを亡くしたばかりという冒頭で、すぐに「レンタネコ」が思い浮かび、荻上直子森田芳光から受け継いでいるものがあるかも?と言う気になった。肝心のキッチンは今でも通用する洗練度があるけど、やはり進んだのがIT機器だと痛感。置物みたいなワープロが最新で、人々は携帯電話すら持っていなかった。電車の描写は後の「僕たち急行 A列車で行こう」を予感させる。

 

 恋愛劇としても成立してますが、当時の若造にはそう見えなかった。雄一と暮らす、かけがえのない2人になったシーンは見せ場で、なにも濡れ場にする必要などないのです。「彼らが本気で編むときは、」と最大の違いは“家族の絆”でしょう。絵理子さんは息子だけでなく、家族の一員になったみかげが去っただけで倒れてしまう。“昔の映画を懐かしむ”余裕が今の我々にはなく、“失ったもの”の深刻さを思い知らされたりして。
オススメ★★★★☆

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