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海よりもまだ深く

  海よりもまだ深く

 

 最新IT機器に振り回され、若い人にぜひその付き合い方を教えてもらいたい昨今。ただ一方的だと悔しいから、コチラから何か伝えられるコトはあるかな?と探すと、ヤバい、ヤバくないの見分け、分別くらいかなぁなどと思うオッサンです。ところが程度問題なんだけど、分別なさすぎるよね世の大人たち。平気で歩きながらモノ食ってる。あれじゃあ“こんな人間にはなりたくない”と軽蔑されたって仕方ない。

 

 その“ああはなりたくない”典型の大人を、阿部寛が絶妙に演じている是枝裕和の最新作。顧客満足度の高い監督=映画作家の技は冴えまくっております。「海街diary」の次には「歩いても 歩いても」に直結する、無視されがちな現代の大人をコメディ仕立てで描く。この選択は大切で、シリアス作にするとホントに追い詰められちゃって、観賞がしんどくなります。

 

 離婚していて、養育費もろくに払わず、作家の夢も捨てきれず、ギャンブル好きにして私立探偵で食いつないでいる。ダメ男の結晶みたいですけれど、自分の中に同じような面は必ずある、自分に嘘はつけません。成功している人間はほんの一握りなんです、後は敗者なんです(「ラストワルツ」をご参考までに)。という現実を思い知らされるけど、体裁がコメディだからニヤニヤしながら観ちゃう。

 

 金の無心も高等遊民なる人種が存在した「それから」の時代とは違います、やけに生々しい。樹木希林演じる母親との会話もいかにも日本人的で、「アレしてるでしょ」といった感じ。それにしてもまともな若い人から「なんで競輪なんかするんですか」と問われて、「全国〜万の競輪ファンを敵に回したぞ」は弟も似たようなコトを言ってたな、と思い当たることばかり。

 

 キャストはもう信じられないくらい自然で、やはりリリー・フランキーは是枝作品に欠かせなくなった。前作からは豹変の海千山千の悪いオヤジ。また彼と「そして父になる」で夫婦役だった真木よう子も申し分なし。ま、私めの目玉は小林聡美だったけど、荻上直子作品は「かもめ食堂」「めがね」で卒業、常連になっていくのか?橋爪功も絶妙な配置で手堅い。

 

 そして月日があっと言う間に経ったことを教えてくれたのが池松壮亮。「ラストサムライ」「鉄人28号」を昨日のことのように記憶しているオッサンからすると、いっぱしの若者になっていて驚く。彼がなんといっても主人公のダメさ加減を引き立てていて、他の若手俳優は悔しいに違いない。でもやはり阿部寛と樹木希林の母と息子が、本作に不可欠のモチーフだったのだろう。

 

 いつもの是枝作品なら輝いている子役が控えめなことも、今回は大人を中心にしていることが分かる。団地の描写が急所で、“自分が歩まなかった、もう一つの人生”を観ている気にもなる。私めの場合、中学を出るまでは住んでおりましたが、社宅だったものですから当然引っ越すことに。ただもしあのまま住んでいたら、主人公のようになったかもしれない。運が良いのか悪いのか、親父は博打好きではなかっただけ。

 

 ただし、トシをとってもう一度東京に住んだ時には良多のアパートと寸分たがわぬ部屋に住んでいた。暮らしぶりも似たりよったりで、実に恥ずかしい。20代にはピンとこないけど、40代にはストライクゾーンのこんな作品を撮れる贅沢さは是枝裕和にしか許されないのかも。やさぐれ中年の探偵ったって「不良探偵ジャック・アイリッシュ」とは雲泥の差。それにしても探偵業のいい加減さは見ものだった「Shall we ダンス?」と見比べるのも一興。

 

 TVドラマが決して描かない我々の隣人を、恐ろしく実態に沿って描いた得難い物語。「奇跡」から継続していますけど、画面から可能な限りIT機器を排して描いていますから、昭和時代生まれの人にとって目に優しい。アメリカ映画にいっぱいありますけど、離婚した夫婦のお話としても日本映画ならではになっていたし、50年前だったらあの家族の年齢は10歳若いハズだったことも後の資料になる。

 

 東京の団地、路地裏、商店街の中にある雑居ビルなど描写はたまらなく魅力的で、溢れんばかりの情報量がタップリ込められている。また“朽ち行く東京”が図らずも映っていますけれど、ニュースで取り上げる場合は“悲惨な情景”に仕立てられますけれど、コメディの体裁を利用して淡々と描き切っている。もう今後は存続しなくなる可能性が高いしね。

 

 ぜひご覧になってご確認いただきたいんですけれど、台風が去ってごみ箱に捨てられている折れた傘が印象的だった。アレは昭和時代の人やモノなのか、それとも劇中語られるように、時代のせいにしたって仕方ないのか。またIT機器は出てきませんが、介護の風景も本作からは排されている。コメディには不要ながら、老いた親と暮らせば良多はそれほど不幸ではないかも。

 

現在(5/24/2016)公開中
オススメ★★★★☆

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関連作

  チーム・バチスタの栄光

 

 確かTVドラマ化もされ、それが劇場版になったような。本作はTBSが制作していて、TVドラマの方は「海よりもまだ深く」も手がけているフジテレビ。で、ずいぶん前に見ていて、阿部寛扮する厚生労働省の官僚=白鳥が、傲慢かつ切れ者であること、「うどんをオカズに、そば食ってるんです」などという変人で、主人公の田口先生(竹内結子のボケっぷりが可愛い)が引っ張りまわされるお話だとして記憶。

 

 阿部寛の変身ぶりをアチラと比較して楽しむこともできますが、他のキャストもそれぞれ芸達者で巧い。ただ犯人は誰だ?がキモのサスペンスなので割愛します。原作が良く出来ていた証拠に、スリリングな謎解き以外の部分が見る価値を残している。厚生労働省の役人にお医者さんたちは平伏してしまったり、病院内の人間関係とか、困難なバチスタ手術に関して知識を得るだけでなくね。

 

 お医者さんに関してのテーマは続編の「ジェネラル・ルージュの凱旋」と似ている。“天才医師よりも堅実な人こそ求められる”は作者が込めたメッセージでしょう。犯人に向かって「こいつはもう人間じゃない」と白鳥は言い放ちますが、“他人の不幸を消費する”TV視聴者に向けているとまで昨今は思うようになった。人が必死に右往左往している様がカーニバルとはふざけている。
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