関連テーマ 

 

 

 

 

 

 

 


サイドボックス

ここにテキスト


出し

裸足の季節

   裸足の季節

 

 「セルフレス/覚醒した記憶」のターセム・シンは、ヴィジュアル部分の心臓=石岡瑛子を欠いてしまったので、今回はそれほど映像面で斬新さはなかった。なかなか映画で“かつて見たこともない光景”に出会うのもマレな昨今、ラーメン食べてても店の中でかかっているのはパンク調の贈る言葉だったり、“新しいもの”ってどこに行ったら・・・。

 

 でも心配ご無用、19:20の海老名はビナウォークに行けば、目撃することができます。なんと中央広場に60人くらいはスマートフォンやらタブレットを持って立っている。“何かの追悼集会か?”と思ったら、皆さんポケモンGOをやってらっしゃるんだね。バッテリーが売れまくっているわけで、外に出れば視野も広がります。もっとも“ゲームをやっている”わけだから、外で引きこもっているとも言えるんだけど。

 

 そんな海老名を後にして、ふた駅先の本厚木にあるアミューあつぎ映画.comシネマにやって来るのも3回目。観賞した2作品は確実に満足させてくれて、今回はトルコの新鋭による処女作なのだそう。トルコの現在に関しては「トラブゾン狂騒曲」で知るのみで、昨今のニュースもまるで掴めない。掘り下げて知りたいわけではないけど、この機会にファティ・アキンの「消えた声が、その名を呼ぶ」も見てみたりして。

 

 かの国に関しては3月に「ディバイナー 戦禍に光を求めて」があったけど、オーストラリアからの視点。正直に吐きますが、私めは48歳だけに国名がそのまま風俗店を喚起させてしまう。「の・ようなもの」が公開されていた1981年までは通用していた認識だったはず。でも今から思えば、とんでもないことだよね、国名を風俗店に付けちゃうんだから。咎めるのではなく、日本人の特性を知る一事です。

 

 で、実際の中身はというと興味津々の1本となっております。allcinemaの解説“美人5人姉妹の葛藤と決死の反抗の行方をほろ苦くも瑞々しいタッチで描き出す”という見方が真っ当です。もちろん封建的な旧態依然とした世界が継続している地なら、決死の冒険譚に見えるし、自由を奪われた女性がついにそれを獲得する物語としても成立する。またホームページを覗くとマリオン・コティヤールもコメントを寄せている。

 

 ただし48歳のオッサンはもはや爺様の目線でして、姦しい娘たちに手を焼くお婆ちゃんに感情移入しちゃうんだよね(「ルーム」しかり)。親を亡くして不憫だから好き勝手にさせてたけど、花嫁修業が始まると、資本主義ガジェットを取り上げなければならない。困ったもので、一度その味をしめたらIT機器やそれらが出現させる快感から脱するのは至難の業。

 

 そこに家長の威厳を当然のように思っている叔父が登場。ま、どう見ても監禁に等しい生活を彼女たちに強いる。もし私めが20代だったら、“諸悪の根源”とばかりにワルの叔父から逃げなくちゃ、と頭に血が上ったかもしれない。しかし「メイジーの瞳」などを経ているから、引き取って育てているだけマシなんじゃ?とも昨今は思うようになった。合衆国にもやり過ぎの人はいて「ステイ・コネクテッド〜つながりたい僕らの世界」をご参考までに。

 

 しかしトルコの婚礼風習は初めてお目にかかるだけにビックリした。当事者が会ったこともないのに、親が結婚決めちゃうんだもんね。オマケに初夜は親が隣で待ってたりして、ぜひその部分はご覧になってご確認を、目が点になりました。ただ世界にはまだまだ現存していて、旧態依然かもしれないけど悪いと断ずるのはいかがなものか?その辺は「恋人たちの予感」でいろんな夫婦が馴れ初めを話すシーンが参考になります。

 

 ただしこの監督は家長の権威が、暴力を背景にしたモノである描写をキッチリ入れている。拳銃を常態していて、結婚式でぶっ放している。“アレ空砲だよな”とビビりました。TVやインターネットで嫌というほど世界を知ってる子供たちには、監禁に等しい生活に耐えられるわけもなく、三女は悲劇的なことになり、末っ子は脱出を決行する。末っ子のラーレを演じるギュネシ・シェンソイはまさに主役の面構え。

 

 彼女がイスタンブールに至るところで物語は幕となりますが、やはりいろいろ考えさせられます。物語の中で末っ子が都会で生き延びられるヒントが一つもない。監督のさじ加減は大したもので、“暴力を背景にした監禁からの脱出”という素材提供に徹している印象。「わたしはマララ」を回避したのも“宣伝に利用されているのでは?”というシグナルが点滅したため。

 

 監禁に等しいけど、そこに金を投じているということは教育熱心で、日本でのそれは塾通いに相当する。かつて帝国だった国に共通する部分かもしれない。そしてもし権威が失墜した場合、我が国のような状態が出現するんでしょう。ところが無制限の自由を手にしたにもかかわらず、人々がIT機器によって束縛されたがっているのは海老名で見た光景が・・・。

 

 「銭湯の女神」には“下品になる競争”に関しては中国より先に行ってると記されている。20世紀に繁栄を誇り、資本主義に乗って上手くいったはいいけれど身動き取れずに死にかけている日本。恐らく「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」に出てきたスロベニア、ノルウエー、アイスランドのように“21世紀を模索している”国の方が今後は生き延びられるのかもしれない。まずTVニュースでは取り上げられないけど。

 

 なお5人姉妹がやらされている花嫁修業ですけれど、刺繍と料理は男の子こそ身につけるべき。監禁はやり過ぎながら、生き延びる術としてそこんとこは重要です。人間は一生家事という労働からは解放されない。炊事、洗濯、掃除これをしていれば少なくともボケてる暇なんてない。一日の大半をTVを見て過ごしたり、家に帰らずスマートフォンでポケモンGOをやりながら立ち尽くすってのは不憫に見えちゃうんだよね。

 

現在(9/8/2016)公開中ですが、9/16までです。
オススメ★★★★☆

Amazon.com

DMM.com


前のページ      次のページ

 

top

 

関連作

  消えた声が、その名を呼ぶ

 

 ファティ・アキン渾身の歴史超大作は大げさなれど、まさか「ソウルキッチン」の監督がココに至るとは5年前には想像できませんでした。昨今のトルコに関してではなく、アルメニア人について知る機会をくれる。迫害を受ける民族はユダヤ人に限ったことではない、国家には少数民族を弾圧する習性がある。知らばっくれても、何年か後になってバラされるくらいなら、認めた方がベターなのに(「カティンの森」)。

 

 戦争は難民を生み、家族を分断する。「ディバイナー 戦禍に光を求めて」とテーマは似ているけど、“執念で家族を探し求める”物語に「そんなの当たり前だろ」と我々は言えるのか?悪くすると“いつまでもこだわっていないで”と軽く一蹴してしまう人だっているのでは?と勘ぐりたくなる21世紀の世界。監督が伝えたかったことはココなんじゃ?

 

 主演のタハール・ラヒムは「サンバ」で印象に残り、「ある過去の行方」で唸らされるという実力の持ち主。ただし全体に悲壮感を漂わせるのではなく、ひたすら娘を追って長い長い旅を続ける。その旅路を支えるのが人情で、脱走兵を束ねる集団も、石鹸工場の持ち主も「気をつけていけよ」と送り出す。またまるで手掛かりがつかめないのではなく、民族の連帯も重要な要素。

 

 出演者の中で識別できるのは「ミケランジェロの暗号」のモーリッツ・ブライブトロイくらいだけど、もし見知った顔ばかりでは物語に集中できないもんでヨカッタ。戦争によって声を失うは「あの日の声を探して」もそうだけど、ままならない日常をどうして暴力で解決しようとするのか。9.11以後「もし始めちまったら取り返しがつかない」って声が届かなかったから、今の世界がある。元通りにはならない、でもせめて取り戻さなければ。しかしその我々に課せられた旅は未だ始まっていない。
オススメ★★★★☆

Amazon.com

DMM.com

top

 

  銭湯の女神

 

 「戸越銀座でつかまえて」に続いて、世間様の流れを知る機会をくれる星野博美のエッセイ。トシが近いから目線を共有できるのかもしれない。村上龍氏の仕事「ラストワルツ」は私めにとってジャーナルであり、お勉強になるものだ。ファミリーレストランには行かないけど、店で働いていたわけで、逆からの描写がなかなか考えさせてくれる。

 

 タイトル通り銭湯に関する部分はなかなかに興味深い。そこに居つかないと書けないもので、役に立つ云々ではなく、銭湯の今(2001年当時)を知る手掛かりとしても成立する。ドイツや中国、香港にいた経歴を持つこの人が帰国して目にした光景は、比較対象があるだけに輪郭をある程度浮き彫りにする。最終チャプター“キレる若者より怖いもの”にはファシズムと記してあり、現在はさらに進行中。

 

 2001年段階の日本を知る資料として大変役に立ち、それから15年経過して威厳などは雲散霧消した挙句に、気が触れているとしか思えない暴力が日常になっている。TVニュースは“他人の不幸”を垂れ流して視聴者の鈍感さを助長。「裸足の季節」がハッピーエンドに見えなかったのは、今の日本があったからゆえ。やっとたどり着いたイスタンブールが似たような世界だったら、彼女は故郷に帰ろうとするのだろうか?
オススメ★★★★☆

Amazon.com

 


ホームページ テンプレート フリー

Design by

inserted by FC2 system