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いしぶみ

いしぶみ  いしぶみ

 

 今の仕事場(Amazon倉庫)で「明日ポレポレ東中野に行って映画を観てくる」と自分(48歳)より年上の人に話すと、「名画座に行くんだな」と返される。真知子ちゃんではないけれど、「名画座はもうなくなったに等しくて、ミニシアターすら怪しいんだよ」などと面倒くさいことをほざいたりして。皆さんホントに映画館から遠ざかっておられる。

 

 そんなご時世にわざわざ東中野まで赴いて、元はTVのドキュメンタリーを観るというのも酔狂なんですけれど、是枝裕和の仕事だから勝手に予定はGoogleカレンダーに組み込まれている。それと行ったこともない劇場での観賞は、いつものシネコンより記憶に残るもので、悪くない。昨年の8月には「天皇と軍隊」を伊勢佐木町の横浜ニューテアトルで拝みましたが、案外忘れないもんなんだよね。

 

 で、第二次世界大戦を題材にした作品は、「黄金のアデーレ名画の帰還」「ミケランジェロ・プロジェクト」などナチ絡みで絶えることはありませんが、日本は忌避する方向にシフトしている。「不屈の男/アンブロークン」なんてモロに時期が外れていてるしね、というのは意地悪ながら、最近はかの大戦に関して“判明していないことは山のようにあって、自分はホントに何も分かっていない”ことが身に染みる。

 

 原子爆弾が投下された直後の光景は「火垂るの墓」でも描かれますが、今回採用された“殺された中学生たちと遺族の手記”を朗読するという形式は、ちょっとやそっとでは記憶から遠ざからない効果がある。さらに爆心地に近い場所にいた子供たちの目を通して、我々は自分の脳内にその光景を映像化できる。“爆撃機からドラム缶のようなものが投下され”というのは実に生々しい。そしてその威力は被爆して助けに行った家族すら見分けがつかない火傷を負わせる。

 

 爆撃機が広島市内上空に侵入できるということは、日本軍に制空権がなかったことの証で敗戦は濃厚。連合軍司令長官とて原子爆弾を当てにしていなかった。それは「妙なもん作りやがって」と「マッカーサー」で描かれている。今年合衆国大統領が広島を訪れましたが、武器としても“限度を超えている”原子爆弾に関して、まだまだ人類は理解していないし、映像化する必要はありそう。

 

 ただし本作が示しているのは“既存のものに目を向ける”姿勢を強調している。最初に映像化されたのは1969年で、杉村春子による朗読なのだそう。優れた原典があるのだからそれを見ても良いのだけれど、21世紀の人が入りやすくするために“作り直す”ことも重要な仕事。もう覚えている人がどれだけいるのか怪しい「山のあなた 徳市の恋」などもコピーだった。

 

 「秋刀魚の味」にも出演の大女優杉村春子による仕事を継承するのが綾瀬はるか。「日本の伝統行事 Japanese Traditional Events」の表紙を飾った彼女をすぐに拝むことになりましたが、「海街diary」でも風情ある上品さを身に着けておりますな。彼女の淡々としたナレーションは、観客に強烈な感情を喚起しない。しかし機械的に事実を述べているのでもない。

 

 この辺は監督是枝裕和の真骨頂で、場内では泣いている人もいたけど「誰も知らない」の時に近いです、身体に応える。予告編に“本作を貫いているのは悲しみではなく怒りです”とコメントがあるけど、その通りですね。「マネーモンスター」にはTVの残された機能が描かれましたが、人によっては毛嫌いされるかつてのメディアには、未だ出来ることがある。ただし広島県民でなければ“ああまたか”でスルーされてしまう可能性もある。

 

 今回の劇場公開は本作にとって幸運で、ちゃんと開館する前に人が並んでいる。熱が逃げない都内だけに、ダラダラと汗かいて待ってましたが、団体で観に来ている中学生がいた。見かけからは分かりませんが、挨拶は韓国語。日本人は何をしてんのか?とは申しません、描かれていることは“人類に共通する災厄”ですから。なお初めて来ましたけど、ポレポレ東中野のライン・アップはアレを拝んだ渋谷のアップリンクともどもなかなかに濃い内容です。

 

現在(7/19/2016)公開中
オススメ★★★★☆

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関連作

  二十四の瞳

 

 “名作として生き残った作品は恐ろしい”典型の1本。一度見ていますが、その時はレンタル屋で働いていましたから、商売に差し支えるので名作は止めとく必要があった。だって“新作なんて見る必要ない”などとお客さんに説教垂れることになりますから。そして昨今“新作を消費するように見ること”に疲れておりまして、再見してみたらやはり唸らされてしまう。

 

 監督が意図していたかは不明ながら、昭和時代の映像資料としても実に優れている。冒頭に“ふた昔前のこと”として昭和初期が描写されるわけですけれど、当時の日本は20年くらいで景色は変わらないことが、図らずも映し出されている。そして祖父母の代のことを知る描写に感心してしまう。洋服を着て自転車に乗って通学する先生が、注目を集めてしまったのが瀬戸内海の淡路島。

 

 公開された年も興味深くて、1954年とは「ゴジラ」も公開されている。物語に関しては解説の通りで、我々庶民が戦争で被ることを思い知らされる傑作。数ある作品を並行して拝める昨今だけに、50年代には大戦で勝利したはずの合衆国で“赤狩り”が進行中と「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」で描かれている。「秋刀魚の味」が公開された62年までは“負けてよかった”と日本人は思っていた。

 

 貧しくともタイトルが示す通り子供たちの瞳には光があり、生命力がある。「世界の果ての通学路」「トラッシュ!この街が輝く日まで」に負けない本物の財産だった。そして全てを台無しにする戦争からも立ち直る強さがそこにある。モノで溢れても、とてつもなく“貧しい今”が分かっちゃうとは、名作を撮った人々の執念がそうさせるんですかねぇ。
オススメ★★★★★
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