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アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち

  アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち

 

 本日は期せずして8月15日、終戦記念日です。たまたま休みだっただけのことですけれど、先月発見したアミュー厚木に再度やってまいりました。もっとも正確な映画館の名称は“アミューあつぎ映画.comシネマ”で、アミューあつぎはビルの名前。前回の「マジカル・ガール」は19:30のスタートでしたから、観客は少なくチョッと気がかりでしたけれど、10:05スタートの本作ですと客席は半分ほど埋まっている。

 

 内容がこの時期に合致していることもあるし、第二次世界大戦を振り返る作品に関心を寄せる人がいる事実はホッとします。で、中身なんですけれど色々勉強もさせてくれる得難い1本。主演のマーティン・フリーマンは旬な俳優の一人で、「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」のワトソン。ただ地味に変身できるので「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」にも顔を出している。

 

 今回はアルゼンチンでモサドがとっ捕まえた、ナチ戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判をTV中継するプロデューサー。裏方ですから目立ちこそしませんが、頭の良い役(アラン・チューリングジュリアン・アサンジ)ばかりが回ってくる相棒のベネディクト・カンバーバッチより、役者としては良いポジションにいる。“誰にでも出来そうで、やはり彼ならでは”って印象はお得。

 

 そして環境を整えるプロデューサーと同じくらい重要な役職が監督。TV放映が始まったばかりだけに、映画監督がやっているわけですけれど、呼ばれてきたのが“赤狩り”で職を失ったレオ・フルヴィッツ。先月「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」を観たばかりで、テーマが連続しているみたいでチョッとニンマリ。ナチを追及する映像を撮る人が、合衆国で職を失っているとは何とも皮肉。

 

 監督のレオはそういった背景があるから、ごく単純に“アイヒマンを悪人として裁く”このショーに距離を置いている。ユダヤ人だけど、イスラエルという国家に対してもそれは同じ。この複雑さを持った職人気質の男が、この件に臨んだ事は本作にとって重要。仕事は確かに引き受ける、ただし無理やり作った国家に対しても全面賛同ではないし、そもそも戦犯を裁くという行為に対してもしかり。

 

 この仕事で監督のレオはアイヒマンの本性を暴き、映像に残そうと躍起になる。ただそこに至るには山あり谷ありで、裁判場で人々の目につかないようカメラを設置して許可を得たはいいけど、中継が始まったらガガーリンが宇宙に行っちゃって、キューバ危機まで始まる。今と変わりませんよ、派手なネタに人々は飛びつく。もっともレオが予言した通り“被害者の証言”が始まると、人々は注目を余儀なくされる。

 

 実際の映像を交えて進行する本作ですけれど(アイヒマンなんかほとんど)、ホロコーストの部分には粛然とさせられてしまう。アレだけは人間の禁忌に触れる酷いもの。しかし加担した実行犯のアイヒマンは微動だにしない。レオが「さあ、本性を現せ」とばかりにカメラを向けても、動揺した表情など微塵も見せない。むしろ撮っているクルー、励ましに来たレオの家族の方が参ってしまう。

 

 アイヒマンに関してはもっと突っ込んだ「ハンナ・アーレント」をぜひこの機会に並行観賞をオススメします。また合わせて「フロスト×ニクソン」も参考になるかもしれません。政治不信を招いたことを、ニクソンは後悔の涙とともに告白しますけど、ナチは違う次元で見なければならない。狂人だとか言って思考停止した角度からではなくね。

 

 無力感に襲われたレオですけれど、滞在しているホテルの女主人に救われる。ぜひご覧になってご確認いただきたいんですけれど、「この件が人々に伝わったのは、あなたのおかげ(because of you)」はグッとくる。戦後のドイツ人とてホロコーストのことを知らなかったんだから(「顔のないヒトラーたち」)。脅迫されたプロデューサーと大喧嘩しつつもやり遂げる価値のある仕事。

 

 21世紀になってもTVは未だ多くの人々にアピールできるメディア(「マネーモンスター」「いしぶみ」)。視聴者の対象年齢は40代以上でしょうか、食事時や病院の待合室などで目にすると、昭和時代のままのようだ。ところが人口比率からして、多数派は未だこれにドップリ漬かっている。ならば“チカチカした照明なんかパチンコと同じ”と評される番組や、宣伝ばかりでなく本作のような機能を発揮してもよさそうなのに。

 

現在(8/15/2016)公開中ですけれど、8/26までです。
オススメ★★★★☆

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関連作

  ハンナ・アーレント

 

 「アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち」と並行して観賞するには最適の1本。あの裁判をジャーナリスト向けに公開する部屋にこの人もいたのだ。セット自体はまるで同じに見える。もっとも映画の造りなどを全部忘れさせるくらい、非常に後の我々に糧となる仕事をした哲学者。心理学者を描いた作品(「危険なメソッド」)は観たことありますけれど、頭の中で仕事をしている哲学者が映画になるとは。

 

 ただ激しい人生を送ってきた人で、決して机上の人ではない。学校の先生も仕事の一つだけど、席が埋まっていることで学生たちから信頼されていることは明白。ドイツからフランスへ逃れ(「黄色い星の子供たち」「サラの鍵」を参考までに)、合衆国に至る彼女の半生は過酷なもので、その間に蓄えた冷徹な知性は生半可なものではない。彼女の視線を得て観客の我々はアイヒマンと対峙する。

 

 TVカメラを向けた人々は参ってしまいましたが、ハンナはアイヒマンを“単なる役人”と結論づける。安易な流用ではなく、わが国で発生したオウム真理教の起こした地下鉄サリン事件にも適応できると思う。実行犯になぜやったのか?と問い詰めても「命令に従っただけだ」と返答されるだけ。これは“みんながやっているから”と称して言い逃れする私であり隣人。

 

 もちろんハンナはアイヒマンを死刑にすることに異を唱えない。安易に“悪魔の仕業”と片づけることに異を唱えたのだ。今のところ“知る人ぞ知る”人物かもしれないけど、映画は“伝え、残す”機能があるし、その価値を備えた重要な作品。「アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち」のクルーたち、「顔のないヒトラーたち」の検事たち、そしてこのハンナ・アーレントのやり遂げた仕事は、本人たちに痛みを残し、我々の糧になった。
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