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サンドラの週末

  サンドラの週末

 

 パッと思いつく兄弟監督で美味しい例はコーエン兄弟、ウォシャウスキー姉弟(「ジュピター」)、スピエリッグ兄弟(「プリデスティネーション」)。血縁関係ではありませんが、「フォーカス」のグレン・フィカーラ&ジョン・レクアもお気に入り登録になっている。いくらでも世界には才能が溢れていて、新規登録なのがジャン=ピエール&リュックのダンデルヌ兄弟。

 

 前々から見ようとは思っていました、HDDには「ある子供」も「少年と自転車」も突っ込んだままになっている。しかし猫の手も借りたいどころか、A.I.の助けが今すぐ必要な昨今、次から次へと作品をスルーしている。先週は「真夜中のゆりかご」と「シグナル」でしょ、今週は「追憶と、踊りながら」。体力の限界もあるし、溢れんばかりの情報の洪水にのまれている。

 

 けっきょく観賞の決め手を、出演者の作品選択眼に委ねるわけですけれど、マリオン・コティヤールを信じてヨカッタ。本作の後にこの監督の作品を追っかけたくなる。映画館は一方で遊園地のアトラクションを模していながら、地味な作品はTVが見せない現実を観客に提供している。「自由が丘で」はそうでもありませんが、「家路」「トラブゾン狂騒曲」ビターズ・エンドは今後も秀作の手がかりになりそう。

 

 なさそうでありそうな設定は“主人公の復職は、他の従業員がボーナスを放棄するのが条件”というもの。会社の経理処理はそんな単純なものではないけれど、95分の映画としてこの露骨さが肝心。よって病み上がりのサンドラが同僚に頼み込む週末が始まる。原題の“TWO DAYS,ONE NIGHT”は「4ヶ月、3週と2日」を思い出させてくれるけど、この素っ気無さも監督の持ち味でしょう。

 

 「ある過去の行方」にも通じる、ちょっと隣で発生していてもおかしくないドラマが、全編にわたって繰り広げられるけど、まるで退屈しない。会話の中でサンドラの職場がソーラーパネルを作っていること、アジアの価格競争に晒されていること、経営側は自らに害が及ばないようにしていることなどが察せられる。ただしこれらはあくまでも背景で、サンドラと同僚、サンドラと夫や家族の描写に焦点は絞られる。

 

 自然な感じで演じていても、バットマンを刺した女ですから、マリオンは観客の視線を持っていく。彼女のお願いを聞いてくれる人あり、自分の生活があるからごめんという人あり。加工現実であるのに、画面から観客を遠のかせない。いくらだって盛り上げられそうなのに、あくまで日常を再現することを徹底している。悪いなぁと涙ぐむ同僚も、芝居に見えない。

 

 結末は伏せますが、なかには「ありゃないよね」という観客がいてもおかしくない。もちろんサンドラが現実を知り、しっかり歩いていくんだなぁと感動する人もいるでしょう。私めなどは後者なんですが、ラストに至るまで技巧的というか、演出を感じさせないのはさすがです。「セレステ∞ジェシー」には女性のしっかりした足取りが刻まれるけど、やはりアメリカ映画らしい。「サンバ」より我々に近い世界、大人の女性のみならず、旦那さんも必見。

 

現在(5/26/2015)公開中
オススメ★★★★☆

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関連作

  少年と自転車

 

 本作を「サンドラの週末」のあとで見る映画通はあまりいないでしょうなぁ、遅れてしまいましたよ。それにしても素晴らしい出来でした、フランソワ・トリュフォーの面影があるという印象。「メビウス」のセシル・ドゥ・フランスにも驚かされましたが、シリル役のトマ・ドレ君は自然なだけに、見ているこちらは切なくなります。「メイジーの瞳」には逆上してしまいましたが、金がすべて、欲の突っ張った先進国は悲しい。

 

 育児放棄がどういうものか、着想は来日した時に得たそうですけれど、身近な出来事として描いてくれた監督に感謝です。事実を冷徹に追った「誰も知らない」の後に、コチラを見ると救われる。あるいはベルギーには知らん顔しない大人がいるけど、日本には・・・。この題材をドラマティックにすると「グロリア」にもなる、さすがはジョン・カサヴェテス、などと不埒なことが頭をよぎったりして。

 

 直視できない悲惨な出来事といった風に描かれていないし、過度に大人の責任追及をしていないから余計に見ていて辛く、シリルの笑顔に救われる。ジェレミー・レニエは父親になれなかった我々の一人。この人は歌手ヒーローもできるけれど、ダンデルヌ兄弟作品の常連。「ある子供」、「ロルナの祈り」も放ったらかしにしておくと、もったいないな。
オススメ★★★★★

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