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セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター

セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター(字幕版)  セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター

 

 ヴィム・ヴェンダースの作品は2012年の「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」以来。せっせと情報収集していたから本作を見つけられたのか、たまたまなのか、ビッグ・データを背景にパソコン上に映し出された広告のお陰様なのか、もう判然としなくなっている昨今。人物に焦点を当てたドキュメンタリーが続いたヴェンダースですけれど、この傾向は興味深い。

 

 俳優にお芝居をさせるわけだし、人を見る目は確かな映画監督。「東京無国籍少女」押井守もトークショウで、潜在的に映る本人が持っていないと、芝居でどうこうできないと語っていた。もっと突っ込んでいるのがヴェンダースで、劇映画の主人公にどうしても漂ってしまう人工臭を削ぎ、その人物が見てきた世界をも映画にできるのだから、こういう選択になるのかも。

 

 当事者でなく世界で起こる様々な出来事に、最も早くたどり着き、その瞬間を目撃出来るのは写真家。写す方なので彼らを描いた作品はほとんど知りませんが、「アニー・リーボヴィッツ・レンズの向うの人生」とか「毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト」くらいですかねぇ。「戦場カメラマン/真実の証明」「バンバンクラブ/真実の戦場」などは主体が起こっていること=戦争になってしまう。

 

 セバスチャン・サルガドが撮った一枚の写真から全ては始まる。予告編にも出てくる“トゥアレグ族の盲目の女性”、この一枚のインパクトは確かに並じゃない。ヴェンダースが興味を持ち、本人と接して、彼の生きてきた歴史を追うだけで、今の世界を知る手掛かりになる。IT化により多くの人々に、世界を股にかける機会は付与されたわけですけれど、その歴史は積み重ねられていない。

 

 ブラジルの農園主の息子として生まれたセバスチャンですから、大学に進み、高い給与が保証される職に就き、アフリカに行くところまではそれほど際立っていない。しかし写真の魅力に取り憑かれ、報道写真家として世界を渡り歩き始めると、途端に映画の主役として申し分のない人物に。被写体との関わり方が“お仕事”の域を超えているため、ルワンダなどアフリカで撮られた写真が持つ力は唯一無二の結晶。

 

 彼の死後何年も経ってから物語にしたのでは、手遅れになってしまう事態は着々と進行している。内戦で大量に生まれる難民を伝えるのに、文章だけでは不十分で、TV映像では過剰になる。そればかりか環境の破壊は、やり過ごすことができないレベルにまで達している。経済発展著しいブラジルは、ビルがどんどん建てられていても(「トラッシュ!-この街が輝く日まで-」)、彼の農園はやせ細り枯れ果てている。

 

 映画はそれほど観客に迫っては来ないけれど、彼の写真にメッセージは全て込められている。ピナ・バウシュは亡くなってしまいましたが、彼は生きているのでそれぞれの写真を語ってくれる。これはね、貴重な人類の財産。環境を訴える作品はどうしても説明が長くなってしまうし、説教じみてかえって伝わらない。でも個人史を通じて世界を見るという視点は新しい。

 

 原題の“THE SALT OF THE EARTH:地球の塩”がまさにそのものズバリで、その現場に赴き、寄り添い、事象を切り取る。ここに価値のある情報が発生するのだなぁなどと深く感銘を受ける。商業ベースの報道では仕方ないよ、限界がある。そして劇映画にだってそれはある。帰宅後に「天空からの招待状」も見てみましたが、新しい視点で自分の立っている位置を知る、本作の関連作としてオススメです。

 

現在(8/5/2015)公開中
オススメ★★★★☆

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関連作

  天空からの招待状

 

 地球規模の環境変化に聖域はないようで、涼しかったはずの今の住処=駿東郡小山町も標高が高くたって(海抜300mほど)、年を経るごとに暑さがジワジワと増しております。辛うじてエアコンつけずに済んでおりますけれど、いつまで窓開けるだけで過ごせるか心もとない。という状況下ですから、空から映し出されたこのドキュメンタリーで涼を得ようというのも人情。

 

 もう見惚れんばかりの冒頭部分に釘付けになった。確かにボルドーも美しいですけれど、お隣の台湾にも美しい山々がそびえ立っております。TVの旅行ものでも最初とか最後に景色が映し出されますが、ここまで腰を据えて拝んだのは初めて。また「キャラバン」とか「世界の果ての通学路」にも険しい山々の、人を寄せ付けない雰囲気は刻まれますが、人が主役の作品より徹底している。

 

 こういう時のために先人は絶景という言葉を発明したんだなぁ、などとのん気に眺めていると、それだけでは済まされないドキュメンタリーで侮れない。空からありありと映し出されるのは、変化する環境によって破壊の爪痕が生々しい、崖崩れした山肌だったりします。経済発展すれば、自然にそのツケを回すという人間の業も、空から撮された映像にはクッキリ。

 

 恥ずかしながら「珈琲時光」しか知らない侯孝賢ですけれど、あの穏やかな人が製作総指揮を務めている本作は、幾つか見てきた環境ドキュメンタリーより強く訴えている。見て見ぬふりをしている私めに、“どうよ、地球って今こうなっちゃってんのよ”と教えてくれた。涼を得るんじゃなくて、心理的には冷や汗が出てきた。もっともメッセージは受け止めなくちゃね、人事じゃないもん。
オススメ★★★★☆

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