チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密
チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密
相棒のティム・バートンは「ビッグ・アイズ」で画家の知名度とか、資本主義による大量コピーの発生とか、60年代をキッチリ描くことに成功しましたがジョニー・デップはどうか。さらに「パイレーツ・オブ・カリビアン」メンバーの他2名はキーラ・ナイトレイが「はじまりのうた」という代表作を獲得し、ジェフリー・ラッシュは「やさしい本泥棒」で芝居に磨きをかけている。
スターって気の毒なお仕事で、ジョニーは相変わらず旧世紀の媒体=TVに出なくちゃなんない役割を律儀にこなしている。本作が“マスメディアによって殺された”とまでは言わないけど、露出頻度が魅力を削いでしまったことは否めない。だってさ、笑いの肝心な部分を予告編でしつこく見せられたら、本編で・・・。“自分で探し当てた”とお客に感じさせる宣伝の方が、効果あるんじゃ?の21世紀。
いやな予感は監督がデヴィッド・コープという辺りで漂っていて、過去にジョニーとコンビを組んだ1本がダメだったのだ。脚本家としては「エージェント:ライアン」、「プレミアム・ラッシュ」が最近の作物で、「ジュラシック・パーク」から好きな作品の方が多い。物語の土台はしっかり作り込めても、役者は生き物だからそれに合わせて臨機応変に対応ってのが難しかったのかもしれない。
じゃあ全然ダメなのかといえば、かなり私めのツボにくる珍品で悪くなかった。「モネ・ゲーム」が2013年ですから、記憶に残っている人もいる。いやいや、つい最近DVDで見て“生々しく覚えている人”がいてもおかしくないから、冒頭にアニメーションを使うわけにはいかないけど、狙っているのは「ピンク・パンサー」の路線。こういう作品こそ荒んだ21世紀には必要なんだけど・・・。
香港も「ドラゴン・コップス -微笑(ほほえみ)捜査線-」があったけど、ベタなコメディはホントになくなっちゃった。マジな演技をする人たちが、ズッコケてこそ笑いが発生すると思うんだけど、どんなもんだろう?ジョニーが気合入っているのは当然で、モロにクルーゾー警部の手下=ケイトーを思わせるジョックがポール・ベタニー。絶倫のボディガードで、何度も間抜けな主人のドジを被ることになる。
試しに「レギオン」とか「プリースト」の後にポールを気にしながら見たら、相当笑えるよ。いやいや「ダ・ヴィンチコード」とか「ランズエンド-闇の孤島-」でもいいや、「ツーリスト」、「トランセンデンス」とジョニーと3度目の共演なんだけど、コンビでマヌケな刑事ものをこの後やっても良い。モルデカイと腐れ縁の学友であるマートランドに扮したユアン・マクレガーも、真顔が笑えて良いのだ。
ユアンはかっちん玉に徹して笑いをとって、グウィネス・パルトローと艶っぽい空気を作品に持ち込んでいる。「トレインスポッティング」のジャンキーが堅物諜報員なら、「恋に落ちたシェイクスピア」の可憐な女の子もついにマダム。「アイアンマン」のペッパーが有名どころかもしれないけど、入魂の「カントリー・ストロング」なんて本作の前菜としてはまずまずだと思いますが。
ジェフ・ゴールドブラムが出ていたからだと思うけど、「グランド・ブダペスト・ホテル」がパッと思いつく。両作とも豪華共演でベタな笑いのコメディなんだけど、本作の監督には辛辣さが欠けている。「美女と野獣」の主演女優レア・セドゥを画面の隅っこに平気でやっちゃうウェス・アンダーソンは、役者が生き物だってことをよーく知ってるんでしょう。
21世紀になってもアメリカ合衆国を、“植民地”呼ばわりするモルデカイというキャラクターは、映画にする価値があるし、出演者もキッチリ下準備をして臨んでいる。「宮廷画家ゴヤは見た」なんかもあるから、名画にまつわるお話を膨らませても良かったかもしれない。でも寸止めになるのは、観客に対する不安だったのかも?ポール・ベタニー必死のギャグもスベってるし、とにかく劇場が静かで怖かった。
劇場のご注意は命令ではないし、コメディ観に行って笑えなかったらどうすんの。ひたひたと「やさしい本泥棒」で描かれた時代のドイツみたいになっている我が国は悲しい。「はじまりのうた」は最低でもあと一回劇場で拝みたいけど、本作は既にDVDリリースが待ち遠しい。変な時代になったものだ。でも再発見のためじゃなく、今後本作の出演者がマジな映画に出るたびに見直すことになりそう、「ナイト&デイ」みたいに。
現在(2/7/2015)公開中
オススメ★★★☆☆
関連作
「パイレーツ・オブ・カリビアン」の主要メンバーは出演後に紆余曲折を経ていても、順当にキャリアを築いている。「はじまりのうた」でキーラ・ナイトレイは当たり役を引いたが、ジェフリー・ラッシュも本作でのお芝居は地味だけに忘れがたい。「善き人」があった2012年ですけれど、昨今はナチを扱った作品があまり見受けられない。考え過ぎかもしれないけど、嫌な予感がします。
公開中止になったジョージ・クルーニーの「ミケランジェロ・プロジェクト」改め「ザ・モニュメンツ・メン」は「チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密」の関連作にピッタリだと思うけど、DVDは店頭に並ぶんだろうか?この作品も楽しみにしていたけど、結局レンタル屋ストレートになった。それほどナチを悪役にして、過度に批判しているとは思えないんだけど。
「シンドラーのリスト」、「戦場のビアニスト」から「黄色い星の子供たち」もあるんだし、強調しすぎては観客を虚しくさせてしまう。メッセージは同じく“繰り返してはならない”で、違った描き方をして21世紀の人々に伝えようとしているのは聖書の映画化とて同じこと(「エクソダス:神と王」)。本作にはナチ一色のドイツを子供の目線で描き、戦争は無差別な殺戮という部分が盛り込まれていたように見える。
主人公の少女リーゼルは文盲である。これは国家として恥ずべき状態で、結果的に本泥棒になる彼女を、養女として引き取るジェフリー演じるハンスもまたしかり。ここは重要ではないか。本を読む、つまり情報を収集できる能力が欠如していた人々は流言に騙されやすかった。子供たちが清らかに合唱する差別歌にも象徴されている。同じ歌を日本のアイドルグループが熱唱しても、今なら国民的ヒットだ。
悲劇を倍加させる効果はエミリー・ワトソンも担っていて、ダメ亭主にも養女にも厳しいけれど実は・・・の部分は読めるんだけど、優しい面が垣間見られるシーンになったらじんわりもらい泣き。厳しい人も優しい人も、義理だけは捨てずにユダヤ人をかくまったのに、戦争はそんなことはお構いなし。「ソハの地下水道」よりもっと唖然としてしまうけど、“人事じゃないんですよ”を伝えています。
現在わが国では違った方法で遂行されているけれど、国民を“悪しき思想から守る”という方便で、本を焼く焚書は戦略として間違っていない。命じる人々は“剣より強いペン”で綴られた本が強力な武器だと骨身に染みて知っているからだ。歴史は繰り返されるのか?でもこの作品は防ぐ手がかりになると思いますが、いかがなものでしょう?また原題が“THE
BOOK THIEF”で、その移民、その執事とシンプルな原題は当たり確率が高い。
オススメ★★★★☆