シェフ 三ツ星フードトラック始めました
完全にネタバレです、ご観賞後にどうぞ
「アイアンマン」のカバン持ちを3で勇退した(監督は2まで)ジョン・ファヴロー。この人が監督主演を兼任した本作は、映画好きとしては期待が目一杯詰まっている。そして予想を裏切られることなく、満腹の1本になっていた。これは「はじまりのうた」もご同様で、予告編がフックの役目を果たし、観客は劇場で満たされる。投資金額に見合った収益を上げているヒット作とは雲泥の違い。
クリント・イーストウッド、ウディ・アレン(もう新作が予定されている・・・)も役者出身で演出のプロとは、蓮實重彦氏の著書で教わった通り。で、自分が観てきた範囲ですと、ジョージ・クルーニーは気心の知れた仕事仲間を自在に配置できる人で、「コンフェッション」から「スーパー・チューズデー〜正義を売った日〜」に至るまで楽しませてくれる。
役者出身の監督で私めが注目しているのが「扉をたたく人」、「WIN WINダメ男とダメ少年の最高の日々」のトム・マッカーシーなんだけど、ジョンもインディ系になると俄然やる気満々で、“今の映画”を提供してくれた。珍品の「カウボーイ&エイリアン」を撮ったからか、大作は小回りが効かずに、“古臭いものを提供するしかない”ことが身に染みたのか。SFより進化しているのが21世紀の日常。
ま、脚本を読めば役者さんたちが出たがるのも当然の中身。スカーレット・ヨハンソン、ロバート・ダウニー・Jrが宣伝効果抜群のスターで、ダスティン・ホフマンも「主人公は僕だった」以来になるけどお楽しみの一つ。そして「ハードクライム」の2人、ジョン・レグイザモとボビー・カナヴェイルはインディ系映画好きのハートを直撃。「ジゴロ・イン・ニューヨーク」のソフィア・ベルガラまでもとは。
そして私めの注目はオリヴァー・プラットですよ、ぜひ「三銃士」、「エグゼクティブ・ディシジョン」なども合わせてどうぞ。彼の演じるブログの料理評論家は、本作が21世紀の映画であるためには欠かせない。それにしても出番はそれほど多くはないんだけど、美味しい部分を持っていったよなぁ。彼については後ほど触れますが、監督主演のジョンもフードムービーだけに包丁さばきが入魂だった。
本作は「マーサの幸せレシピ」と「はじまりのうた」の合体技だと乱暴に片付けてしまえるかもしれない。オーナーともめて店を飛び出し、再起をかけてフードトラックを始めるんだから。21世紀の中年だけに、“子供と暮らすワケにはいかなくなって”も作品に現実味を持たせるための設定。当然父と子の感動要素も入ってくるから、フォックスサーチライト社製でないのが不思議なくらい。
ところがインターネットという現代人が避けて通れない要素を、フードムービーに溶け込ませたという点で、“本作は今を生きている我々に訴える”作品になった。またTwitterを映画に取り込んだ成功例かもしれない。2009年の「ジュリー&ジュリア」はブログで、6年後にはコチラです。昨今はGoogleニュースはTV洗脳と変わらないし、内田樹氏のtwitterを追っかけるだけで忙しい。
もちろんそんなことを意識して本作を見る必要なんてありません、あくまで崖っぷちの息子想いの中年が、その腕で再起していく物語です、パターンだろうと映画ですから当然。たまにしか会えない子供に包丁のことや、店を開く時のお仕事を教える時のジョンの芝居は文句なし。演出をつける監督さんですから、包丁さばきだけに集中しているわけにはいかない。
また息子のパーシーを演じたエムジェイ君、これだけ豪華な中でも光ります、自然かつ完璧。この子は“21世紀に適応していない大人たち”の案内役でもある(たいへん勉強になりました)。人によっては“ネットの炎上”すらピンと来ないでしょうけど、今は影響力を持っている。現代のクチコミは・・・などと私めも「扉をたたく人」で触れてますが、さらに着実に日常に根を下ろしている。
「マダム・マロリーと魔法のスパイス」でも批評家の付ける★は店の営業を左右するけど、本作に出てくるブロガーもまたしかり。皮肉屋ならぬ、hater=憎み屋とはよく言ったものだ(新語だそうです)。ダメ出しされて、店に来た評論家を怒鳴りつける主人公のカール。演じる監督のジョンが叩きつけるセリフは、料理に限らず作り手の本音でしょう。では「ジェイ&サイレント・ボブ」のラスト(乗り込んでいってぶっ飛ばす)で観客は納得するか?そこが違うからこれが傑作なんだよね。
難病映画「きっと、星のせいじゃない。」も現実を受け入れるタフなアメリカ人を痛感しましたが、コチラが素晴らしいのもインターネットを“アリ、ナシ”に止めていないところ。Twitterは地元とか近所の人に知らせるには実に有効なチラシで、確かにアッと広がる影響力もあるが、ツールとしてどう使うかはその人次第。画面にメールのやり取りが出るとホッとするけど、こちらの描写もさすがです。
そしてもうラストなんかスクリーンにガッツポーズですよ。ブログ評論家が「もう、批評は書けない、あんたはオレの憧れだったんだ」なんて素晴らしい。ぜひご覧になってご確認を。極上?絶品?いえいえこういう映画のために★★★★★があるのです。フードムービーにしてインターネットの要素を盛り込み、ロードムービーにして親子の絆を描く。“厳しいのは愛の裏返し”を刻んで幕となる、単純な感動作には滅法弱い。
現在(3/3/2015])公開中
オススメ★★★★★
関連作
この作品が公開されたのは2012年。なぜ記憶しているかというと「声をかくす人」の時に渡されたチラシ“銀座テアトルシネマさよならカウントダウン5”に載っている。観ておけばよかったですよ、フードムービーはついつい★×5になっちゃう。オマケにこれはバディものの要素まで入っている。フランス映画らしからぬ感動コメディで、「アデル」っぽいベタな笑いも楽しめる。
アタマでっかちな主人公のジャッキーは能書きが邪魔をして、店を転々とするシェフ。ジャン・レノが演じるのは三ツ星レストランの一流シェフ=アレクサンドルなんだけど、ディフェンディング・チャンピオンの常で、評論家にビビっている。ひょんなことからこの2人が遭遇して、新たな味の創造に挑戦・・・。出来過ぎの物語なんだけど、至るところに笑いの要素が入っているので、画面に目が釘付け。
電話で恋人をごまかそうとしてもIT機器のおかげでバレる。TVの公開料理番組が漫才になってしまう。二代目オーナーは儲け優先の優男で、手下のシェフはワケの分からない料理を出す店をやっている。科学の実験じゃないんだから、分子料理ってなに?とかぜひご覧になってご確認を。日本もモロにコケにされてるけど、今のままじゃ仕方ない・・・。
茶化しているようで、厨房が料理人にとっては戦場で、働いている面々は喧嘩腰。そして厳しい修行の場であることなどはキッチリ描く。生まれる子供、娘を想う父親など感動作に不可欠な要素も贅沢に、そして自然に組み込んで、“あとは任せた”と去っていくジャン・レノがカッコ良い。「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」とはまた違ったテイストですけれど、文句なし。
オススメ★★★★★