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メイジーの瞳

  メイジーの瞳

 

 合衆国で離婚は常態化しているようで、離れて暮らす両親の間を行き来する子供は映画に頻繁に登場する。「マネーボール」でも「SOMEWHERE」でも「ドラゴン・タトゥーの女」でも・・・。一歩踏みとどまったのが「クレイマー、クレイマー」で、ジョン・レノンは辛い現実を生きた。「ライアー・ライアー」の時期ならまだ信じられたおとぎ話なんて、もはや通用しない。

 

 でも辛いのは“大人だけじゃないんだよ”という強いメッセージが、本作には込められている。それを伝えるためなら、非常手段に訴えるしかないと宣言するかのようなメイジーが主人公。冒頭に彼女が出てきた瞬間、この娘のためなら全世界を敵にまわすなんてお安いご用、“目の中に入れても痛くない”という喩えがひどく陳腐に聞こえてしまうほどオッサンを直撃。

 

 TVの子役からはまず醸し出されない可愛らしさは、ストーリーを掴んでいるだけに、なーんにも起こってないのにうっすら泣きそうになったりして。観客を溺愛のバカ親に変える魅力の持ち主オナタ・アプリールは、仕草がとにかく自然かつ健気。別れる寸前の怒鳴り合いをしているんだから、観ているこちらは両親が忌々しくて仕方がない。

 

 で、別居した父と母の間をこの子は行ったり来たりしなくてはならない。幼くて理解できないのではなく、こらえているメイジーと思うと・・・。でもコレが21世紀に出現したホームドラマなのだ。観賞中「君と歩く世界」だって「リアルスティール」だって、子供たちは“親がなくとも子は育つ”の例え通りに逞しいじゃん、と自分に言い聞かせてきたけど、身体は正直で何度も“そりゃあないよ”と首を振るハメに。

 

 そして“堪忍袋の緒が切れる”とはまさにこのことだと、思い知らされるラストで逆上してしまった。“まぁ、まぁ人にはそれぞれ事情ってものがあるんだからさ”という涼しげな大人の顔は無理。リミッターが外れて「メイジー!言ってやんなよ、あんたはママじゃないって」とあのシーンは心の中で叫んでいた。ぜひご覧になってご確認を。まさか感動作でスクリーンを怒鳴りそうになるとは。

 

 家族の絆を描いた作品で両親が悪役というのも変ですけれど、ジュリアン・ムーアは渾身の演技で自己中心的な母親の結晶を実体化。観ているこちらは“それでもあんた、人間かよ”と毒づいてしまうほど。父親役のスティーヴ・クーガンは「ルビー・スパークス」くらいしか認識できないけど、「おとなのけんか」の時のクリストフ・ヴァルツだね。悪い人じゃないかもしれないけど、心ここにあらず、我関せず。

 

 ではメイジーの哀しい物語かといえば、物凄く皮肉な救いが彼女にはある。娘の面倒を見させるための再婚相手が、真の保護者。血の繋がりよりも、“共に過ごした日々こそ真実”を「そして父になる」「もうひとりの息子」も描き、「キッズ・オールライト」も合衆国なりのアプローチ。マーゴとリンカーンという血のつながらない2人といる時に見せる、メイジーの笑顔が証明している。

 

 「題名のない子守唄」でも最近見せつけられたけど、身近な乳母に子供はなついてしまう。マーゴ役のジョアンナ・ヴァンダーハムは今後が楽しみ。男親は娘と歯がゆくなるものだが、リンカーンとメイジーの2ショットがまた素晴らしい。演じるアレキサンダー・スカルスガルドは自然体の気のいい兄ちゃん風で、実に説得力がある。若き日のヴィゴ・モーテンセンを思わせる美貌の持ち主で、女性はたまらんでしょう。

 

 アメリカ人にとって“耳の痛い”題材だけに、主だった賞にかすっていないけれど東京国際映画祭では上映されている。「もうひとりの息子」「キャプテン・フィリップス」を超える傑作で、同盟国に教えてあげる意味でも重要。皮肉な構造ながらストレートにこの題材に挑んだ監督はさすが。前作でスコット・マクギーとしか書いてませんけれど、、デヴィッド・シーゲルもずーっとコンピで仕事をしている(「ラブ・アゲイン」みたいかな?)訂正します。今年最初の×5で、本年度ナンバー・ワンに早くもなりそう。

 

現在(2/2/2014)公開中
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  キッズ・オールライト

 

 なんのかんのと言っても、“共に過ごした日々こそ真実”に落ち着く、家族の絆を描いた秀作のインディ系。秀作のお墨付きはインディペンデント・スピリット賞アカデミー賞も与えている。テクノロジーの進み具合によってはSFに見える。ドナーを人工的に生み出す国(「私の中のあなた」)だけに、人工受精によって生まれた子供が、後に精子提供者に会ったっておかしくない。日本だと先になるのか?やはり生理的に受け付けないから、題材にならないのか?

 

 ゲイのカップルがアネット・ベニング(「ルビー・スパークス」)とジュリアン・ムーア(「ラブ・アゲイン」)で、2人の子供がミア・ワシコウスカ(「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」)とジョシュ・ハッチャーソン(「ハンガー・ゲーム2」)。生物学的な父親がマーク・ラファロ。頼りない弟(「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」)から本作でタフかつセクシーになり、「グランド・イリュージョン」へと繋がるのかもしれない。

 

 ごく日常が描かれているというより、インディ系だけに過剰な芝居っ気がない。それは「50/50フィフティフィフティ」とか「サイドウェイ」とか「ボトルドリーム」とか「セレステ∞ジェシー」とか、お気に入り作品を挙げればきりがない。ゲイに対する差別、人工授精への問題提起は大通りに任せておいて、巣立つ娘とその家族という図式に収まる構造が何より。「そして父になる」「もうひとりの息子」とは別のアプローチを合衆国が先にやってた。でもコレじゃないと21世紀的とは言えないもんね。
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