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大統領の執事の涙

  大統領の執事の涙

 

 執事と言えば、最近はバスチャン・ミカエリスが人気。ブルース・ウェインに仕えるアルフレッドはマイケル・ケイン版も申し分ないが、こと執事に関しては先代のマイケル・ガフも捨てがたい。ギャリソン時田(「無敵鋼人ダイターン3」)まで引っ張り出すまでもなく、彼らは澄ました顔で万能、忠実にして主人の信頼は揺るぎない。

 

 主を持てない21世紀の人々に向けて「サ・マスター」は作られた(と勝手に解釈している)。本作の主人公セシル・ゲインズはアイゼンハワー、ケネディの時代からレーガンに至るまで7人の大統領に仕える。彼は直接ではないけれど、歴史的瞬間を垣間見る。まさに歴史の生き証人なんだけど、作品のスケールはもっと広く、長きにわたる年代記だ。

 

 すぐに思いつく関連作は「フォレスト・ガンプ一期一会」。アメリカ現代史を駆け抜けるガンプを通じてかの国を知る傑作。アチラがガンプとガールフレンド=ジェニーの二重構造だったように、コチラにも父と息子の積み重ねる歴史を平行して描くことで、観客は1920年代から2008年に至る合衆国の歴史を旅することになる。そして職務に忠実な男と、帰りを待つ奥さんの物語でもある。

 

 単純に向いているから執事になれるわけではなく、その前史は過酷だ。セシルの少年時代は人種差別なんか当たり前(「ザ・コーポレーション」を参考までに)。「プレシャス」に続いてスターに見えないマライア・キャリーが、非人道的な目に遭わされる母親役で、美貌のアレックス・ぺティフォー(「マジック・マイク」)は鬼畜そのもので凄い。「42〜世界を変えた男」「ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜」ともに悪役を演じる人は差別を憎んでいる。

 

 通りには吊るされた黒人の死体があって、父親まで殺されて、なんて日常茶飯事だった合衆国。さぞや口の達者なロビイストさんたちは触れて欲しくないでしょう。ま、落ち込んでもタランティーノの「ジャンゴ繋がれざる者」を見れば、憂さ晴らしできます。でも酷い目に遭わせる白人もいれば、手を差し伸べる人もいて、ヴァネッサ・レッドグレーヴ(「もうひとりのシェイクスピア」)は魅せる。

 

 綿畑から逃げ出し、政治に無関心ゆえにホワイトハウスの執事に。世界の歴史的瞬間を目撃しながらも、家庭を築き庶民の日常も同時に生きるセシル。「ドライビングMiss デイジー」は穏やかに進んでいきますが、彼の生きた合衆国は激しく動いていく。大学にまで進んだ長男は黒人解放運動に傾倒していき、次男はベトナム戦争に従軍する。

 

 恐らく史実に則って精密に描かれてはいないかもしれない。でも人々が歴史を知る契機になるし、「ALIアリ」「マルコムX」も見ていて、肯くところもあり、腑に落ちなかった歴史の抜け落ちた部分も補うことができる。大統領を描いたアメリカ映画はいっぱいあって、最近では「私が愛した大統領」を観ましたけれど、時系列で登場すると、それぞれの個性が際立つ。

 

 監督のリー・ダニエルズは「プレシャス」が素晴らしかったけど、「真夏のぺーバー・ボーイ」を見逃しちゃった。主演のフォレスト・ウィテカーは渾身の熱演で、共に生きる奥さんを演じるんだから、オプラ・ウィフリーもさすが。他の出演者も入魂のお芝居で、大統領役のジョン・キューザックやジェームズ・マースデンの化けっぷりを「フロスト×ニクソン」とか「13デイズ」と見比べるのも一興です。

 

 多面的で、様々な要素が入っていて、とても書ききれない。ただ「人生の特等席」あたりから観賞傾向が変わっただけかもしれないけどさ、「メイジーの瞳」とか賞に縁がないんだよねぇ。チラシに思いっきり“アカデミー賞 最有力”と書いてあるけど、その気持ちは良く分かる。でも日本の映画好きはよく知ってますよ、8割入ってたし。両隣の席の人も泣いていた。

 

 “我々の隣人を描くのが映画”を再確認。執事が偉人だなんて以前だったら思いもしなかったけど、この人がそうでなくてどうするの。TVに映っているものも、車吊り広告もどーでもよく見えるオッサンだけに強く感じる。スーパーヒーローにではなく、仕える人の年代記に元気にしてもらって、残業が続いた今週の疲れが消し飛んだ。この作品を絶賛(もはや死語になったか)できないアメリカ人は気の毒だ。

 

現在(2/22/2014)公開中
オススメ★★★★★

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  ドライビングMissデイジー

 

 公開当初はアカデミー賞が観賞要因で、24年後の今回は「大統領の執事の涙」の関連作探しで本作が思い当たったからだ。最初に観た時に印象的だったのが、モーガン・フリーマン扮するホークが文盲だということ。偏屈なジェシカ・タンディ演じるデイジーが、元教師であることを示す墓地のシーンだけが何故か忘れられない。そして今回はというと、ダン・エイクロイドの若さに驚き、変わっていないモーガンに驚き、主役でありながら観客に嫌悪の視線を向けられるジェシカに、ベテランの風格を見る(あの「鳥」にも出てるんだもんね)。

 

 「不機嫌な赤いバラ」とか「木漏れ日の家で」とか融通が利かないのは爺さんばっかりじゃない。確固とした価値観で生きてきた女性は、変わりつつある世の中(どちらかというと堕落)に苛立ちを募らせるのかもしれない。今ではさせてもらえないけれど、モーガンが饒舌な運転手というのは貴重映像ですな(「RED/レッド」がマレだし)。40年代から描かれているから、差別も厳然とあるけどサジ加減には品が感じられる。監督のブルース・ベレスフォードは後に「ザ・スナイパー」で再度モーガンを起用していて、信頼しているのが良く分かる。

 

 時代は「私が愛した大統領」の後から始まり、激動の60年代に至るまで。よって「ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜」に描かれていることが背景にはある。しかしデイジーの息子ブーリーは金持ちだから、幸運にも目の当たりにはしていない。主人公がドライバーだけに、合衆国の道路事情の変遷(なかった信号が出来たり)も見られるし、繊維工場であるとか、時代記号は目を楽しませてくれる映像資料としても上等。以前は「フィールド・オブ・ドリームス」オスカーじゃん?と思ったが、年取るとコチラだったことに納得したりして。22歳のガキには分からんのよ。
オススメ★★★★☆

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