リベンジ・マッチ
映画館のはしごは新宿が便利、「アデル、ブルーは熱い色」の終了15分後には新宿ピカデリーでジジイの「リベンジ・マッチ」に滑り込みセーフ。でも邦題は穏やかで、GRUDGE MATCHのGRUDGEって悪意とか恨みって意味があるんだって。ロバート・デ・ニーロとシルヴェスター・スタローンに遺恨があるかは分からないけど、「大脱出」に続いて20年前に実現していたら、公開規模は今とは違っていたはず。
確か「コップランド」で共演済みの両者なれど、なりふり構わぬベタな企画はたまらんですな。ロッキーVSレイジング・ブルって宣伝されたらさ、行くしかない、観客が忙しくなるわけです。ただロッキーは既にもう打ち止めだし、デ・ニーロに至っては御年70才でしょ?思いつきとは言えこの強引さは、アメリカ映画ならではで笑ってしまう。
クリント・イーストウッドみたいに老いを自然に演じられる人ならいいけど、スタローンはまず無理だし、デ・ニーロは人工的な感じがどうしても漂ってしまう。ならガチンコ勝負するしかないというわけで、がんばってました。肉体改造もだけど、俊敏さはそこら辺の年寄りには不可能。ただし、年期の違いはアクションの部分にだけ発揮されるものではない。デ・ニーロにはたやすく、スタローンに向かないのが恋愛劇。
ところが間にキム・ベイシンガーを挟んで展開するのです。そして彼女の息子が絡んでくると、より複雑かつウルトラCとも呼べる家族の絆ドラマを成立させてしまう。いやはやなんというか、大手ワーナー・ブラザーズ作品ながら、“我々の隣人を描くのが映画”の心意気があってニヤニヤしてしまう。貧乏臭い車も家も、肉体労働も、あっさり解雇される現実も娯楽作の中に込めている。
遺恨を残して引退したレーザー=スタローンの方は底辺層の暮らしで、トレーナーの面倒を見ている。店を持つことに成功したキッド=デ・ニーロだけど、息子とは会ったことがなくて、見知らぬ孫までいる。“成れの果て”のフルコースだけど、半世紀以上生きてくればあって当然の勲章。実にあっさりと映画の中に盛り込めるのは、主演2人の功績ですよ。
厚みと言ったらいいんでしょうか、本作のレーザーにスタローンの過去作品を投影できるし、デ・ニーロには万華鏡の如き作品群がある。でも本作の見所はコメディにあまり恵まれなかった2人のお笑い演技で、思いっきり楽しげにやってましたね。モーション・キャプチャーの部分がそうなんだけど、両者緑色のタイツとは爆笑。でも同じ場面でスマート・フォン経由の映像配信という時代記号がまた楽しい。
老トレーナーのアラン・アーキンは「アルゴ」でも元気だったけど、見せるなぁ。キッドの息子役BJが本作最大の収穫で、エドワード・ハーンズ(「崖っぷちの男」)にちょっと雰囲気が近いジョン・ハーンサルは美味しい部分を持っていく。ラストはさ、ボクシング映画でしょ、「リアル・スティール」だってそうなんだから、盛り上がるよ、熱くなりますよ。
でも孫を交えてのファミリー・レストランの光景とか「ソリタリー・マン」にも見られて、もはや日常ですもんね。人間の寿命はどんどん伸びて止まるところを知らない。ジジイがこれだけ踏ん張ってるんだから、俺もうかうかしてられねぇな、などと元気になった。おまけとして最もリベンジ・マッチが成立しそうな2人まで出てくる。「ハングオーバー」の彼なんだけど、ぜひラストまでご覧になってご確認を。得難くも楽しい体験でした。
現在(4/12/2014)公開中
オススメ★★★★☆
関連作
トシ取って映画がほんの少し分かるようになった段階で見るには最適の1本。もし公開当時だったら、“ダメ出し”してたでしょう。それは同じシルヴェスター・スタローン主演作「ジャッジ・ドレット」とご同様で、豪華なキャストに加えて監督もね。豪華キャストは後に「リベンジ・マッチ」で再共演のシルヴェスター・スタローンとロバート・デ・ニーロ、「プレイデッド」がぜひもう一度見たいハーヴェイ・カイテル、レイ・リオッタもこのグレイ・ゾーンの警官役が「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」などに継承されているとも解釈できる。
さらに「ローン・サバイバー」を監督するピーター・バーグが役者として出てくる。そして本作を撮ったジェームズ・マンゴールドは「ニューヨークの恋人」、「ナイト&デイ」が及第点の娯楽作だとすると、「3時10分、決断のとき」、「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」などの秀作を残しつつ引っ張りだこ。たまらなかったのはアナベラ・シオラ(「蜘蛛女」)で、彼女がなかなかなのだ。結局まだまだ株の上がりそうなこの作品が描いているテーマは、21世紀になっても残念ながら継続中。後を引き継いだのがジェームズ・グレイの「アンダー・カヴァー」などでしょうか。
低賃金の警官(NYPD)が、ニュージャージーに警官の街=コップランドを築く。結果としてマフィアとも癒着し、どんどん自分の汚れ具合が分からなくなっている。事件のもみ消しなんて日常茶飯事。この状況は21世紀になってもちっとも改善されず、「フルートベール駅で」で描かれた悲劇が起こっている。ボンクラな保安官はよく映画に登場するけれど、それをスタローンが実に自然に演じていて感心してしまった。周囲のことを優先するあまり、結局ズブズブと染まってしまう。「ラストスタンド」のアーノルド・シュワルツェネッガーと見比べるのも楽しいかもしれません。
デ・ニーロ&スタローンの演技合戦なら「リベンジ・マッチ」より明らかにコチラ。レイ・リオッタも熱演で、ハーヴェイは悪の権化って感じがハマっている。昨今見られなくなったミラマックス社製で、どーして賞に縁がなかったんだろう?1998年に公開されているだけに、あのワールド・ドレード・センターがまさに時代記号。確かにスタローン映画(「オーバー・ザ・トップ」とか)の王道パターンではないけど、「ガントレット」のクリント・イーストウッドみたいな渋さを彼に求めるのは無理がある。脱皮をはかった野心作という位置づけで、役者スタローンを見直すことになりました。
オススメ★★★★☆
前日にフランスの天才が見せつけた「ホーリー・モーターズ」に圧倒されているものの、インディペンデント・スピリット賞を獲得した作品は負けてないんじゃ?と思わせてくれる秀作。これも見逃し作品の一つで悔しい思いをするハメになった。主演のフランク・ランジェラは「デーヴ」辺りから気になっていて、「フロスト×ニクソン」なんてこの人ならではだし、「カット・スロート・アイランド」ではマッチョな悪役。
若者向けが多くノミネートされる映画賞だけど、ボケ始めた老人とロボットを組み合わせて、人によっては“とっておきのミニシアター系”になるかもしれない。予算が限定される製作環境だけに、介護ロボットが存在する近未来を小道具などを駆使して説得力を持たせている。存続の危機に瀕している図書館などは、見ていて辛くなるほどだ。そこにチャーミングなスーザン・サランドンが司書役だったりして、チョッと救われる。
子供が出てこないことで、46歳の私は登場人物それぞれに自分を重ねることになる。厄介な父を持つ息子でもあり、自分の主張を通す娘でもあるし、すでにボケ始めた主人公は未来の姿なのだ。鉄の女とて老いには勝てない、でも老境を迎えた元泥棒は、ロボットに倫理が欠如している点をモロに利用して、ピカピカの悪党から宝物を頂いちゃおうという計画を練り始める。
“ロボットはあくまで機械”の国だから、日本がお得意の展開(ロボと心が通じ合う)にはなっていかない。むしろ大通り映画には難しい厳しい現実が待っていて、お国柄の違いも含めて是非ご覧になってご確認を。「彼女はパートタイム・トラベラー」もアイディア勝負のSFで感心したけど、「リアル・スティール」に負けていない。“発達した社会”と取るか、“忍び寄る機械化”か?ひとそれぞれ抱く感想は違ってきそう。
オススメ★★★★☆