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それでも夜は明ける

  それでも夜は明ける

 

 横浜109シネマズMMで「リディック:ギャラクシー・バトル」を観た後は、海老名まで移動して本作の観賞。やはり映画館のハシゴは都内が便利。ブラッド・ピットによるアカデミー賞でのスピーチが鼻につく人もいるだろう。“大衆の視線をグローバル企業から逸らす目的で、人種差別を用いるのか”という批判があるかもしれない。でもそんな世間様とは全く異なる理由で、この作品が楽しみだった。

 

 変態映画「SHAME-シェイム-」の監督スティーヴ・マックィーンの最新作なんだから。当然期待しているのは変態テイストではなく、映像美です。てっきりニューヨーカーだと思ったんだけど、イギリス人なんだよね彼。まさか12年間に渡り不当に奴隷として扱われた男の実話に、前作のような感じはないだろうと思ったら冒頭でムムムとなってしまった。ただしそれはすぐにかき消されて、過酷な物語が幕を開ける。

 

 人権という概念がなかったわけでなく、“奴隷制度そのものが当然”の時代には、黒人にとって危険な落とし穴が至る所に空いている。音楽家として良い仕事をしたと思った矢先に、突然売り飛ばされてしまう、なんて日常茶飯事だったのでしょう。いくら「俺には権利がある、自由黒人だ」と訴えたって、売られた時から物として扱われる主人公ソロモン・ノーサップ。棍棒で殴られ、ムチで打たれて酷い目に遭わされる。

 

 もちろん彼の地獄行は容赦なく続いて、悪役の面々が白人の酷さを鬼畜演技で映画に刻印。ポール・ジアマッティが人買いの元締めになりきっていて怖い。「WIN WIN」のしょぼい中年のイメージが微塵もなく、さっさと親子を引き離す。「ルビー・スパークス」が一番彼らしいんだけど、ポール・ダノも差別歌を朗々と熱唱。ぜひ2人の豹変ぶりを2作品と見比べていただきたい。

 

 売り出し中のベネディクト・カンバーバッチはカーンになって、ますます知名度が上がっている最中だから、悪逆な白人ではない。むしろ彼の出てくるパートで、強いメッセージが発せられるシーンがある。首をくくられて吊るされているソロモンなんだけど、周りの黒人たちは助ける素振りすら見せずに日常を送っている。この場面は長く、無関心を植えつけられた我々に対して訴えている。

 

 そして最も酷い白人が前作の主演マイケル・ファスベンダー。登場するなり鞭打ちを正当化するサディストで、監督に信頼されているのか後々語り草になるくらいの外道ぶりを発揮。でも身の回りに制度さえ整っちゃえば、やりそうな人いっぱいいるよね。ただ酷い白人ばかりでなく、プロデューサーでもあるブラッド・ピットがキャストとスタッフ全員の心意気を代弁するかのようなセリフを残す。

 

 ナチ同様にアメリカ白人もちょっとやそっとじゃあ、忘れてもらえない罪科を歴史に残してしまった。その非人道的な様は幾度となく繰り返し描かれていくことになる。観ていて辛いんだけど、ナチ映画の無力感を消すのは「イングロリアス・バスターズ」だとすると、この手のものには「ジャンゴ 繋がれざる者」が効きます。「帰ってタランティーノのあれ見るんだ」と言い聞かせながら・・・ホントに辛かった。

 

 キウェテル・イジョフォーは「アミスタッド」の方がらしいんだけど、今回は「パッション」の時のジム・カヴィーゼルみたいにひたすら気の毒に見えた。イギリス人である彼ならではで、アメリカ人の誰かがやるといろいろ問題も出てくるのでしょう。それは監督もご同様で、先に奴隷制を廃止していた国の強みといったところか?もちろん英国にだって“無かったことにしたい”史実はある。

 

 ただ感銘を受けるのは合衆国にしろ、英国にしろ“自国の恥”に向き合って、映画として残す心意気がある。役者も“きっと叩かれるだろうなぁ”で尻込みしないで、真摯に取り組んでいる。この辺がアカデミー賞の勝因かな?造りはどう見てもインディペンデント・スピリット賞なんだけど。“人のふり見て我が振り直せ”で、日本映画が売れまくってるんだから・・・。役者さんでリスクを恐れずやる人きっといるよ、「マイウェイ12,000キロの真実」に出ているんだから。

 

現在(3/15/2014)公開中
オススメ★★★★☆

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関連作

  アミスタッド

 

 「戦火の馬」がそうだったように、ひょっとするとワシの場合、劇場で観ていないスティーヴン・スピルバーグ作品の方が素晴らしいのでは?と複雑な気持ちにさせてくれる歴史の1ページ。「それでも夜は明ける」の関連作としてオススメできます。時代背景は近いし、コチラにもキウェテル・イジョフォーが出ていますから。でも存在感が圧倒的なのは主演のジャイモン・フンスー。

 

 後にシエラレオネを舞台にした「ブラッド・ダイヤモンド」にも出演するジャイモンが演じるのは、奴隷船アミスタッド号で反乱を起こすシンケ。母国へ帰ろうとしますが、合衆国で裁判を受けるハメになる。その裁判を担当するのが「評決のとき」の記憶も新しい頃のマシュー・マコノヒー。ただし熱血漢ではなく、「奴隷って物だから、楽勝っすよ」などというタイプ。

 

 「声をかくす人」にもハナからやる気のない北軍将校が弁護にあたりますけれど、物語が進行していくと、結末は近いものになる。最初は動機が不純でも正義に目覚めていく若者、というのは人々が求める王道のパターン。モーガン・フリーマンアンソニー・ホプキンスという贅沢な脇固めに加えて、ステラン・スカルスガルドが人道的な人物でジーンときちゃった。ところがやはり彼は善玉が嫌いなのか、ラストは・・・。

 

 言葉も通じない未知の文明との遭遇は確かに興味深く、コミカルにすら見えます(言語学者が役に立たないトコとか)。ただし“人を物として扱う”というのが、どういうことかをスピルバーグはありありと映画に刻んでいる。船の食料が足りないからと、人に石をくくりつけて海に捨ててたんだもんね。当時のスペインがどういう状態だったか、先に奴隷制度を廃止していた英国との対比もお勉強になる。

 

 そして裁判の行方に国の事情=“奴隷制の存続か、否か”が絡んでくるとスケールは広がり始める。アンソニーが演じる前大統領のジョン・クィンシー・アダムスが引っ張り出されてくるあたりで、「リンカーン」に直結する歴史絵巻なのだと気づく。スピルバーグって自国の偉大な指導者を描く前に、“背負った十字架”から逃げなかったんだなぁなどと感心したりして。

 

 外枠では歴史のお勉強になり、出てくる役者たちの芝居は映画好きとしては美味しい。キウェテル・イジョフォーはハンサムだし通訳がピタリとはまり、同じく英国出身のピート・ポスルスウェイトは悪役に徹して、後世に当時の罪を告発しているようだ。でもジャイモン演じるシンクと、マシュー演じるボールドウィンの間に生まれる友情がなければ成立しない。精密さより、映画を優先しなくちゃのお手本。
オススメ★★★★☆

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