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ワールド・ウォーZ

  ワールド・ウォーZ

 

 予告編は嫌というほどTOHOシネマズだけでなく、アチコチのシネコンで拝ませてもらった新種のゾンビ映画。パラマウント映画の配給だが、上映が始まると何社もクレジットされている。資金繰りが苦しいのか?当たるに違いないからの便乗なのか?そんな中で気になったのは、製作会社のスカイダンス・プロダクション。ここは「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」辺りから気になっていたけれど、「スター・トレック/イントゥ・ダークネス」も手がけている。バッド・ロボッツ・プロダクション共々今後は要注目なのかもしれない。スカイダンスは「トゥルー・グリット」も「アウトロー」も製作しているし、バッド・ロボッツは「クローバーフィールド」「SUPER8/スーパーエイト」もだ。ま、SF超大作目白押しの中で、日本以外の国で本命は間違いなく「スター・トレック」の続編なんだけど、あのシリーズにこの国は鬼門なんだよな。

 

 さて、監督のマーク・フォースターは予想通り“スキのない演出”で、我々を一気に作品世界に没入させてくれる。「マネーボール」からパパさんぶりは板についている、ブラッド・ピット。彼が演じるジェリーの一家は幸せそのもの、ところが街中で突然大挙して襲いかかってくるゾンビに遭遇してしまう。3Dでも上映されているそうだけど、2Dでも呆気にとられて「おぁー、どうなっちゃうんだろう!?」ってな感じに引き込まれていく。なにせ「ゾンビランド」の教訓が全く活かされない。物凄いスピードでゾンビは迫ってくるし、後部座席を確認しても、フロントガラスを突き破って襲いかかってくるのもいる。ただしこの地獄絵図の中でジェリーは、ゾンビの行動パターンを注視し、よく観察している。国連捜査官だったという前歴のある男を、主人公に据えたことが本作の肝心なところ。彼こそが21世紀の極限状態を生き延びるために必要とされる人物なのだ。国連事務次長の要請に応じ、ゾンビ化が激しく侵攻する街から命からがら脱出。

 

 脱出した先には海上へ避難している強襲揚陸艦(「ネイビーシールズ」にも出てきた)があって、主人公の一家は事態の全容を徐々に知らされることになる。それにしても米艦隊の姿は「トランスフォーマー」の頃から随分と様変わりしてますな。パニック映画最速ではないかというくらい、状況の進行は急で、もうなにがなにやら。で、若い人は気にならないかもしれないけれど、他と連絡とっている事務の人はペンを使っているんだよね。“電力供給がいつ途絶えてもおかしくない”のが本物の危機だという描写は示唆的だ。この作品の表層は新種のゾンビ映画なれど、根底には想定しない事態に人類が知恵と勇気を持って、立ち向かう姿を実態に即して刻んでいる。何かを非難しようにも、そんな悠長なことは言ってられなくて、指導者が生きている「2012」「ザ・コア」ではなく、「パーフェクト・センス」のように“身近に起こること”として描くのは大切。想像の余地を生むし、後の糧にもなる。ウィルスが原因のはずだから、その発生源に迫り解決策を打ち出すのは定石。最新テクノロジーで場所は分かるけれど、実際にそこに行かなければならない。主人公のジェリーが国連捜査官であるのがココで効いてくる。

 

 既に引退したはずのジェリーは、困難が予想される任務に二の足を踏む。国連の仕事で派遣される人々が赴く先に生易しい世界は存在しない「マシンガン・プリーチャー」を手がけているマークならではだし、ブラッドだってそんなことは百も承知。ウィルス学の権威(すっ転んで××じゃうし)や軍人だけでは対処できない、未曾有の危機にあって、人々を救うことができる人間は限られている。観客はもちろん彼が適任だということを、先に見せつけられている。危機にあって、周囲を観察し、状況を看破しているんだから。感染に何秒かかるか、血しぶきを浴びただけなら・・・。noblesse oblige=持てる者の義務(「東のエデン」)を遂行しなくちゃいけないけれど、ジェリーは家族の安全を引換にされる。まるで「機動戦士ガンダムU.C.episode3」のようだ。背に腹は代えられない、世界の危機なんだから。

 

 で、発生源とされる韓国へ飛ぶジェリー。そこにはまだゾンビに対抗している在韓米軍が健在で、原因の一端に触れることには成功。もっともとっ捕まった元CIAから聞かされたことで、さらにイスラエルへ赴くことになる。この元CIAがデヴィッド・モースなんだけど、チラリ出演でも印象に残る(「ハート・ロッカー」しかり)。他にも「終戦のエンペラー」のマシュー・フォックスとか、「ミケランジェロの暗号」のモーリッツ・ブライブトロイなど主役をこなしている人を、役名なしで贅沢に起用。なんと「ローン・レンジャー」にも出ていたジェームズ・バッジ・テールなんて、勇ましい軍人でカッコよかった。ただこの韓国でこれがただのパニック映画ではないなと勝手に解釈してから、俄然画面に釘付けになった。元CIAが漏らしたことは、一般のニュースでは取り扱われ方が小さく、人々には伝わらないけれど、世界を知ってる人なら理解できる事実。

 

 “想定外では済まされない”歴史をもつイスラエルでは、既にゾンビ対策が講じられていて、高い塀が人々を守っている。ここでも気づかされるけれど、マスメディアの報じる情報と、事実との乖離を知ることになる。到着早々にジェリーはモサドの高官に話を聞く。彼の告げた経緯はまたまた重要な示唆で、なんで高い塀を築いていたかは“10人中9人が賛同したら、他とは違う1人の意見を採用”とのこと。ただし賢いユダヤ人でさえ圧倒的なゾンビの前では・・・。そして最後はジュネーブのWHO研究所に至る。一刻の猶予もならない事態に“その身を呈して事態の解決を図る”というと聞こえはいいけれど、イチかバチかの賭けに出るしかない。TV宣伝(ニュース、ドラマ)の向こう側を人々に伝え、残すのは映画の持つ機能の一つ。ラストは「復活の日」を思わせてニヤリとしてしまうんだけど、パニック映画、ゾンビ映画のパターンを踏襲しつつ、国民国家が解体しそうな不安定な21世紀の世界に住む我々に向けて、“情報の在り方”を見せている(と勝手に解釈)。やはりこの監督はなかなかの人だと再確認。

 

 スティーヴン・ソダーバーグ「コンテイジョン」が既にあるから、違ったアプローチをマーク・フォースターが試みるのは当然で、見事に成功している。2本を並行鑑賞するとまず、製作会社スカイダンス・プロダクションの実力で、特撮の出来栄えが際立つ。しかし中身は事態の推移をドキュメント・タッチで追ったソダーバーグ作に比して、テンポを上げ、娯楽性も加え、21世紀の情報の捉え方も交えて示したマークは新しい。これはもう拡大解釈以外の何ものでもないけれど、爆発的に増えた情報に優先順位を付けるのは極めて難しい。ただし事が起こったらよく観察し、見極め、行動する。うだるような暑さの中で、走るゾンビにゾッとさせられて、もはや圧倒される量の情報に優先順位を付けることができない自分に肝を冷やし・・・。中年だけに捨て身で挑んでいくジェリーはヒーローに見える。ただそつのない監督の玉にキズで、“携帯電話をお切りください”のギャグはスベったと思うがどうだろう。前作で軽めの作品を期待していたけれど、ヘヴィ級でしたね。マークとブラッドの相性はイイから、パート2(まずありえないけど)も期待したいし、でもトムとマークの仕事も面白いかも?

 

現在(8/12/2013)公開中
オススメ★★★★☆

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  スター・トレック/叛乱

 

 “スター・トレックのシリーズにとって我が国は鬼門だ”というのを自分に信じ込ませてしまっていたようで、公開当時(1999年)より、格段に面白いことに気がつく。それは展開される世界に無知だったことによるものが大きい。24世紀が近づけばもっと発見があるかもしれない、経年熟成する可能性がある。前作タイムトラベルもので、本作はモータル/イモータルの要素で出来ている(いったいオレはどこを観ていたのだろう?)。人跡未踏の宇宙だけに何が起こっても不思議じゃないし、恒星からの光線で長生きする種族がいてもおかしくない。データ少佐の誤作動からバクー星にやって来るエンタープライズ号の面々。そしてそこを狙っている悪党と対峙することになる。

 

 悪党に扮したのがF・マーリー・エイブラハムで、顔なんか全然分からないメイクでも芝居で見せる。「ローデッド・ウェポン1」でも「アマデウス」のオスカー俳優が?と唖然としたけれどやりまくり。で、圧倒的な惑星連邦を利用して“若返り”を企む連中に、ピカード艦長以下の面々が立ち向かう。サブタイトルが叛乱というくらいで、悪党の手先になった艦隊の命令に背き、少数民族のために“持てる者の義務”を遂行する彼らは合衆国の人々に支持されるのは良く分かる。沖田艦長ではないけれど、「間違っている命令なら、それに背く勇気も必要」。手先にされた惑星連邦の衰退を、合衆国の現状に重ね合わせることもできる。21世紀にゾンビに立ち向かう国連捜査官は、24世紀だったらもっとスムースに事を運べたか?
オススメ★★★★☆

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