関連テーマ 

 

 

 

 

 

サイドボックス

ここにテキスト


出し

スター・トレック/イントゥ・ダークネス

  スター・トレック イントゥ・ダークネス

 

 予告編が長期に渡って劇場で流されて、下準備が実れば、このシリーズにとって鬼門の我が国でもヒットするかもしれない。前作の貸出状況は、今まで見たこともないほど良好だ。ま、再放送だけどガキの頃に見ていたTVシリーズが、改良を施されて劇場で拝めるというのは嬉しいものです(「宇宙戦艦ヤマト2199/そして艦は行く」しかり)。ただね、映画化されてもしつこく観に行って(「スター・トレック/ネメシス」まで)、だんだん公開規模が縮小していって、「スター・トレック/叛乱」の時なんか寂しい思いをしたものだ。だから筋金入りのファンには及ばなくとも、ヒットして欲しいという願いはある。好きな人は世界中にいて、合衆国(「ギャラクシー・クエスト」)だけでなく、フィンランドにまでいるんだから

 

 そんな“下手なもん作ったら、分かってるんだろうな”というファンがいっぱいいるシリーズに、J.J.エイブラムスは果敢に挑戦。「スターウォーズ」にまで手を染めるそうだけど、トレッキーならぬあちらのファンは厳しいから大丈夫か?ただ構えて観ている旧シリーズのファンを、喜ばせるスタートで文句なし。エンタープライズ号を指揮する艦長なのに、現場に飛んで一目散に逃げるカークとダチのマッコイ。後を任されたスポックは自らの命より任務優先で、恋人のウフーラはハラハラする。スコットもスールーもチェコフもそれぞれのキャラがちゃんと立っていて、エンタープライズ号の面々が帰ってきたとニヤニヤしてしまう。惑星連邦の規則“未開の惑星に干渉なんかしちゃダメだよ”をモロに無視して、スポックの命も捨てずに地球へ帰還。宇宙大作戦の名に恥じない導入部分。

 

 J.J.エイブラムスという人はオーソドックスに映画を作りますが(「SUPER8/スーパーエイト」)、現代の難しいことをすべて棚上げして、描けるのは舞台が23世紀の特権。ただ強調こそしていませんけれど、色味を抑えた画面が何より。派手なネオンで彩られた酸性雨が降りしきる「ブレードランナー」と比較すると分かりやすい。広告など全くなくて、理想的(「ブランデッド」を参考までに)。ただしそれをメッセージにせず、“見る人が見れば分かる”という程度に止めている。観客に訴えているのは、カーク艦長以下エンタープライズ号の面々の活躍です、人物重視です。

 

 もっとも23世紀の作品世界に広告は存在しませんが、宣伝を完全に目くらましとして、実に効果的に使っている。チラシのキャッチ・コピーもあっぱれと言うしかない。だってあなた、3D上映とか“人類最大の弱点は愛だ”とかに目を奪われれば、悪役になんて注意を払いません。新加入のベネディクト・カンバーバッチ扮するジョン・ハリソンには本名があって、それそこ絶対明かせませんけれど、いやはや驚かされます。ぜひご覧になってご確認を、ただし旧シリーズのファン限定。まるで「ダークナイト・ライジング」のラストみたいですよ。

 

 それにしても“宇宙を股にかけた女たらし”の面目躍如で、カークは尻尾のついている美女と3Pで目覚めている。演じるクリス・パインは「アンストッパブル」では精悍でしたけれど、観ているこちらがトシを取ったせいか幼く見える。データ漁りばかりしているので「Black&White/ブラック&ホワイト」で共演のトム・ハーディとは本シリーズ繋がりであることでまたニンマリ。一方はカークで、一方はピカード艦長シリーズ最終章の悪役。スポックに扮したザカリー・クイントは「マージン・コール」を製作までしているし、ゾーイ・サルダナは「コロンビアーナ」という代表作も得て、「宇宙人ポール」でより知名度が上がったサイモン・ペッグは、一番入魂なんじゃないですかね。

 

 マッコイ役のカール・アーバンも「RED/レッド」とか「プリースト」とは違って、かなりオリジナルのディフォレスト・ケリーに肉薄している。チェコフのアントン・イェルチンは「アトランティスのこころ」の少年か。みなさん2009年の前作からあっという間にキャリアを築いて豪華です、監督の“人を見る目”に脱帽(正確にはキャスティング・ディレクターか)。パロディに見えないかもしれないけれど、ゾーイがクリンゴン星人と話すトコは「アバター」っぽくてまたニヤリ。

 

 多チャンネル化(視聴ディバイスの多様化)がコンテンツの大量生産を要求。応えるように技術革新はリリースのスピードを上げ、量を倍増させているのが21世紀の今。そしてジワジワと淘汰が進む。真っ先に“多様に見えるように”コンテンツを供給出来るレンタル屋がギブ・アップするだろう。通信ディバイス慣れした若者が消費クラスターの中心を形成する頃になれば、儲からない商売道具=パッケージ・ソフトはお払い箱だ。「そんなことないよ」と慰められても、今どれだけの人がレコードやカセットテープで音楽を聴いているというのだ。もうスクリーンの数でレンタル屋を上回っているかもしれない(「ONE PIECE FILM Z」を1枚以上仕入れたレンタル屋の数が、映画のスクリーン数を下回ったそうな)。

 

 映画は劇場で観賞、音楽を聴く場はスタジアムとかではなくライヴ会場に。で、“原点回帰”ではなく、視聴環境としては適切な場で、最上の状況でコンテンツとお客さんが出会える(ようになって欲しい)。ピンハネする連中抜きにね。“前世紀が歪んでいたのだ”というロジックの助け船が出されれば、“そうだよ、そうだよ”と皆さん飛びつく。薄情なのではなく、それが世間ってもんだ。レンタル屋は役割を終えます。その潜在能力(これは内緒)を発揮できなければ、あっという間ですよ。店を辞める日に書いているせいか、やけくそ気味に嘆いているな。

 

 でも観終わって、“ああ、良かった、面白かった”とスッキリして席を立てるのは娯楽作として上出来。好きな場面だけを脳裏に焼き付けて(「推理作家ポー/最期の5日間」では儚かったアリス・イヴのお宝シーン)、また明日から生きる気力が湧いてくる。一方では現実の延長線上のようなものがあっても(「アフター・アース」「オブリビオン」も)、ある種の“模範的な未来”は到達点として、理想として掲げるのはSF映画の果たす役割かも。

 

 余計なこと(金のこと)は考えずに、真の困難に立ち向かっていかないと。カークが身を呈してクルーを救う姿は・・・。もちろんカーク以下の面々はこれから闇の中に突入していくわけですけれど、彼らなら“なんとかなりそう”と次代に託す気持ちになれるんだから、J.J.エイブラムスの果敢な挑戦は成功している。

 

現在(9/3/2013)公開中
オススメ★★★★☆

Amazon.com

DMM.com

 

前のページ    次のページ

 

top

 

関連作

  ジェネレーションズ/STAR TREK

 

 78年の時を超えて新旧シリーズ交代を遂げるピカード艦長シリーズ第1作。劇場版を使って交代するとは「マジンガーZ対暗黒大将軍」のようだが、時代が違うんだから、TVよりスクリーンで展開するにはもってこいのネタ。映画はイヴェントです、TVは日常です。で、勇名を馳せたカーク艦長も引き際が迫り、元部下スールー(日本のTVだとミスター加藤)の娘が操艦する新造艦の処女航海にゲスト参加。ところがここで事故に遭遇して行方不明となってしまう。時は移って24世紀、ピカード艦長率いるエンタープライズ号の面々は、カークの遭遇した現象と対峙することになる。

 

 宇宙を冒険する時代に相応しいテーマは“時間”で、このシリーズでは追求していくことになる。本作の見せ場は堅物:ピカードと、宇宙を股にかけた女たらし:カークの交代劇だが、艦長不在でも代理任務を果たすライカー副長もなかなかた。久しぶりに見てなんで清々しく感じるかというと、エンタープライズ号の面々が、やはり文字通りのエリートだからなのだろう。“現実を反映する”と称して、欲の部分のみが強調される資本主義的物語に飽き飽きしている。持てる者の義務を果たす彼らは一服の清涼剤だし、達することはできなくとも“掲げるべき目標”を体現する人々。J.J.エイブラムスも暗黒時代となっている昨今、必要と感じて新作を世に送り出したのだろう。
オススメ★★★★☆

Amazon.com

DMM.com

 

ホームページ テンプレート フリー

Design by

inserted by FC2 system