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そして父になる

  そして父になる

 

 映画監督是枝裕和は固定客がきちんと付いている映画作家。顧客満足度が高いゆえで、大なり小なりきちんと収益を上げているし、常連さんを離さない。これは北野武にも言えることで、あまりTV宣伝(ニュース、ドラマ)に頼らずに済む日本映画では希な人。ヒットするにはどーしても媒体への露出頻度が高くないと・・・。今回は“カンヌ映画祭審査員賞受賞”という宣伝文句を最大限に利用、主演の福山雅治ともども監督のご尊顔を、小田急線車内で拝んだりして(ビールの広告)。その集客効果は抜群で、シネコンの大きな劇場に8割の入り。「奇跡」の時は小さい方にぎっちりだったけど、これで少なくとも次回作が拝めそうと嬉しくなる。

 

 ただし常連(と勝手に思っている)にとっては劇場の入りが良かろうとも、カンヌ映画祭のお墨付きはビビることになる。だって「誰も知らない」がそうだもん。案の定前作のような微笑ましいシーンではなく、冷静に21世紀の日本を描出していて、画面に釘付けになった。冒頭はエリート・サラリーマンの“お受験”風景があり、タワーマンションの日常がある。実は高学歴で、第一線で働くお父さんたちは、子どもの教育に関しては熱心だ。教材を売り込んだ時に痛感したことで、福山雅治はまさに該当する典型。単純に残酷な運命に苦しむ父親を演じるのかと思えば、明らかに“負けたことがない”不人情男=野々宮良多。ガリレオ博士が可愛くなるくらい、実際にいる人に“映画用の味付け”をした嫌な奴です。

 

 子供の“取り違え”が発覚して良多は現実世界と対峙することになる。しんどいかもしれないけれどコントロール可能の会社とは違って、色々な人が住んでいるし、予想外、計算外に満ちている世界。DNA鑑定により、血液型は同じでも合致しないことが判明、古い人間なのでどーしても、“そこまで厳密でなければ・・・”という考えが脳裏をよぎる。もちろんありがちな展開を是枝裕和は許してくれない(カンヌ映画祭獲得の嫌な予感が的中)。子供に向ける視線があんなに愛に満ちているのに、大人に対しては容赦がない。動かしがたい鑑定結果を告げられた後の、野々宮夫婦のやり取りは生々しい。奥さんに扮した尾野真千子も実に芸達者だ(息子の慶多と、どっか行っちゃおうかというシーンはまさにね)。

 

 さらに病院側と訴訟の手続きが描かれたり、「終の信託」の周防正行と同じく半端じゃなく現実的。プロデューサーはともに亀山千広フジテレビ社長なんだよなぁ。TVで端折っちゃう部分を、これでもかと詰めているようだ。取り違えられているのだから、もう一方の家族も出てくる。リリー・フランキーがこんなに旨いとは知りませんでした。イラストレーターで、YMOが大好きなのはDVD(HAS/YMO )で見ていたけれど、映画俳優としてのこの人は初めて。ホッとするというか、彼の方に親近感を覚えてしまう。ただし、町の電気屋を営んでいるので金銭に関してはシビアだ(病院宛の領収書取っとくとか)。ごく単純に子煩悩の父親として、善人キャラクターには描かない。

 

 その奥さん役の真木よう子も凄くて、夫と似たような価値観だけど、子供に接する姿はあまりに自然で泣きそうになる。あんなに美人なのに弁当屋のパートしている姿も堂に入っている。「容疑者Xの献身」で松雪泰子も演じてましたけど、本物ですね。奥さんどうしのシーンだけは昔も今も変わらず、少しだけ心和むもの。ハタと気がつきましたけど、「外事警察 その男に騙されるな」で2人は既に共演しているんだよね。尾野真千子も知らないと思っていたら「ナイスの森」に出ていたりと日本映画の俳優も層が厚い。「SPEC(スペック)」の冷泉とは別人の田中哲司も、是枝作品常連になりつつある樹木希林も文句なし。ただ残念ながら良多の父役で出てくる夏八木勲は亡くなってしまった。「奇跡」の原田芳雄が見納めになったみたいに。

 

 この作品には日々我々が目を背けている“考えなければならない”事象が満ち溢れている。取り違えが何故起こったかは羨望によるものだ。消えて欲しくない“街の風景”の向こう側にそびえ立つタワーマンションは、批判的に描いていないだけに象徴的だ。朽ちようとしている町の電気屋を、エリート・サラリーマンは鼻で笑うが、“近所の話をする場”は21世紀に存在するのか?もちろん本作の命題は科学で認定された家族を受け入れるか?共に過ごした日々こそ真実か?子供たちがあまりに自然で、観ているそばから“どうしよう”という考えが脳裏をめぐる。

 

 「だれもがクジラを愛してる。」など本作に比べたら楽チンなイシューだ。金でどうこう出来ることからは程遠くて、リリー・フランキーが思わず手が出るシーンは凄い。「木村家の人々」で小銭集めに精出す男でも、養子にくれなどと言われたら激怒する。国家も社会も家族でさえ虚構だ。普段なら“人は信じたい嘘を好む”などと思考停止ならぬ、逃避の心理でやり過ごせたかもしれないけれど、こればっかりは結論がすぐに出る。科学を排して、虚構であっても“共に過ごした日々こそ真実”に一も二もなく飛びつく。

 

 もちろんワシより年上なら、当たり前のことを描くのに、ずいぶん“迂遠な映画”かもしれない。いやいや観客の立ち位置によって、見え方はかなり違ってきそうだ。それくらい対象に距離を置いて描いていて、監督の目線は冷徹。でもこのくらい甘さを削がないと、日本人以外には理解不能のはず。是枝裕和はまた傑作を撮ってしまいましたな。それも今の日本に必要な1本を。観ていてホッとさせてくれて、救いになったのはやはり子供たちで、リリー・フランキーは目一杯ジャレ合っていたけれど、福山雅治はさぞや悔しかったに違いない。

 

現在(9/28/2013)公開中
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 久しぶりにTVドラマを観賞するハメになったのは、もちろん是枝裕和が監督することに驚いたから。確かTVのドキュメンタリーは手掛けていても、ドラマはやっていなかったハズ。最近ホントにTVを見なくなったから、昨今のは分からないけれどちゃんとフォーマットに則っているように見える。さらに主演の阿部寛にしろ、山口智子にしろ「トリック」も「ロングバケーション」も見ていたから、違和感を覚えずに済む。ただし、少々毒が込められているようだ。風景の描写とがしっかりしていて、アホな人(パットゴルフやってる社長とか)も抜かりなくまともに映し出す。

 

 「そして父になる」でタワー・マンションの住人になる、福山雅治と尾野真千子夫婦の原型にも見える阿部寛と山口智子。夏八木勲が演じる父親も映画に継承されていて、是枝監督作では常連のYOUも出てくるからホッとする。なんと阿部サダヲが無造作にタクシー運転手で出てきて、宮崎あおいもクレジットされている。恐らく主人公夫婦の娘に仕掛けがあるのだろうけれど、ラストまでのお楽しみ。未だDVDの1しか見てなくて・・・。シリアスかつヘヴィな「そして父になる」の後には、最適でしょう(「空気人形」の後に「奇跡」みたいに)。「誰も知らない」と比較すると、ゴンチチの曲もこういう使い方がハマっている、と思うがどうか。
オススメ★★★★☆

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