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レッド・ライト

  レッド・ライト

 

 サスペンスの新作が追加されなくなって久しい21世紀。「羊たちの沈黙」「セブン」の頃には猟奇サスペンスが大量発生したものですがあれは90年代。見なくなったと言えばそれまでですが、アッと驚く仕掛けより、より過激な方に進んだ「ソウ」みたいなものか、緻密な科学的考証の方を人々が好む傾向がある。一方の流れは海外TVドラマが加速させていて、確かによく出来ている。19世紀でしたらホームズもいるし、推理作家ポーをダシにしてゴシック・サスペンスも展開が可能ながら、現代を舞台に映画で描くとなると・・・。そこでスペイン出身のロドリゴ・コルテスに監督をやらせて、名優ロバート・デ・ニーロに胡散臭い超能力者を演じさせたら、結構うまくいきました。

 

 「トラブル・イン・ハリウッド」以来寂しい思いをしていましたので、今回のデ・ニーロは嬉しかった。悪魔政治家の黒幕も演じてきましたが、確か超能力者は演じていないはず。姿をくらましていた伝説の男というと、ボビー・フィッシャーみたいですが、盲目の得体の知れないカリスマはよく似合う。相対するのがキリアン・マーフィーとシガニー・ウィーバー演じる物理学者。まぁ「トリック」が既にやっている、とおっしゃる方がいても不思議じゃないですけれど、もうひと捻りしてありますので、ぜひご覧になってご確認を。「リミットレス」でもブラッドリー・クーパーに華を持たせたデ・ニーロですが、キリアンも彼と対峙することで、ワリと知られている役柄とは違った一面を覗かせる。更に「エイリアン」のシガーニー・ウィーバーともなれば、英国出身の役者さんにとっては後の肥やしになる。

 

 本作の見所はキリアンがワリと純な青年役であったことが大きい。クリストファー・ノーラン監督の常連(「バットマン・ビギンズ」「インセプション」)で、「TIME/タイム」などでも印象的ですが、「麦の穂をゆらす風」が素晴らしかった。実力はこれからまだまだ発揮されていくことでしょう、ユアン・マクレガーともちょっと違うしね。それにしてもシガーニーは老けても良い味を出しています。「ギャラクシー・クエスト」「宇宙人ポール」のようなパロディにも出るし、3D映画の金字塔「アバター」があるし。「デーヴ」の彼女は可愛いからぜひオススメ。そして彼女のキャラクター(冷静な物理学者)を補完するのに適役なのがトビー・ジョーンズ。「ハンガー・ゲーム」「スノーホワイト」だけでなく、「裏切りのサーカス」とか次から次へとフィルモグラフイーが充実していく。「ザ・ライト エクソシストの真実」の神父に近いけれど、別物の科学者もお手の物。キャストは少なめですけれど、かなり厚い布陣です。

 

 冒頭は「アウェイクニング」と似たような感じで、インチキ交霊会をすっぱ抜く。雰囲気はさすがスペイン出身だけあって、ちょっと違います。「アザーズ」のアレハンドロ・アメナーバルはこの手のものをご無沙汰していますし、独特の盛り上げ方は新鮮。そして科学によってインチキ超能力を解明している仕事にはもちろんワケがある。シガーニー演じるマーガレット博士には植物状態の息子がいて、なんとか科学を超えた力で直してあげたい。そしてキリアン演じるトムにも・・・。超能力VS科学を主軸に家族の絆を下地に使い、人々の洗脳には欠かせないメディアも描いている。何も超能力を発揮するのに大勢集めなくたって良いわけで、ちゃんと種も仕掛けもあって・・・タイトルのレッド・ライトがそのゆえん。TV討論会みたいなのはかなり皮肉が効いている。よく声の通るホールを使って集団催眠にかけるのは、原理主義者 も使っている手口。果たして物理学者の2人はどう立ち向かっていくのか?

 

 カルト教団をポール・トーマス・アンダーソンも描いていることだし(「ザ・マスター」)、この題材は21世紀にふさわしい。種明かしも含めて「トリック」に近いから“洋画離れしている方々”にもアピールするはず。見ているそばから超能力者サイモン・シルバーをライトマン博士パトリック・ジェーンと対決させたくなるし、世の中ホントに嘘くさくなりました。もっとも“何を信じれば良いのか分からなくなった”のは事実なれど、それってたぶん“人は真実よりも信じたい嘘の方を好む”からかも。TVのお喋りに憤慨しても仕方ないのに、結局ついつい見ている。電車の中で新聞読んでる人は激減したけれど、スマート・フォンを食い入るように眺めても同じこと(だって提供元は同じ)。サスペンスなれど、わりと現代の状況も含めて描いたロドリゴ・コルテス。センスも良いし、次回作も期待できそうです。確か処女作「リミット」のポスターを見たのはシネセゾン渋谷だったよな。

 

現在(2/21/2013)公開中
オススメ★★★★☆ 

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関連作

  麦の穂をゆらす風

 

 前日に「ゼロ・ダーク・サーティ」を観ていて、逆の立ち位置で描かれているように見えるケン・ローチの深い作品。事実だけを追う合衆国産とは違って、戦争の実像や人間模様を丁寧に描いている。「ルート・アイリッシュ」とか「エリックを探して」の監督であるから、体制側からの視線ではないのは当然。キリアン・マーフィーの熱演を確認する意味でも、期待は満たされます。我が国から遠く離れたアイルランド、その成り立ちも理解できるようになっている。学生時代に聞いた話ですとU.K.を直訳すると、連合王国と呼ぶんだそう。サッカーのワールドカップともなれば、イングランドとスコットランドとアイルランドが出てくる。「ブレイブハートの時代にはスコットランドは違う国だったという程度の知識ながら、かの国は一枚岩ではない。エリザベス」にしても、たっぷり時間をかけないと理解不能の大英帝国。

 

 一枚岩ではないことはアイルランドもご同様で、それは現代に至るまで続いている。(「パトリオット・ゲーム」)。「マイケル・コリンズ」を見ていないので全体像はつかめないけれど、占領から解放された後が本作のキモ。不平等な条約をめぐって対立が生じる。不平等でも条約を呑んだ人たちと、そうでない人たちとの戦いは“同胞同士の殺し合い”という悲劇に発展してしまう。「ブラザーフッドでも描かれた、兄と弟が別れて戦う、という象徴的な展開を軸に後半は進んでいく。兄は体制側で、弟は医者の卵でもあったキリアン・マーフィー演じるデミアン。チェ・ゲバラも医師でしたが、人の命を救う仕事に就いた人は、貧しい人々を見捨てることができないのでしょう。また同時に秩序を維持しなければならない人は、非情に徹するしかない。まだまだ見ていないケン・ローチの作品はあるから、英国を知る上でもこの監督は要注意です。
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