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リンカーン

  リンカーン

 

 映画は庶民のものだと痛感させてくれた「君と歩く世界」の後には、第16代合衆国大統領を描いた偉人伝。ゴールデンウィーク中だけに、シネコンはチビッ子たち向けの作品で大きいスクリーンは埋まっちゃっていて、大人向けは小さい方での上映。ぎっちり詰め込まれて、入りは八割となっておりました。ただご覧になった方で退屈したり、予想とは違った思いをした方もいたのでは?という内容になっております。ところが最近はトシのせいか、派手で飛びつきやすいものを敬遠し、“つまんなそう”でも何かあるに違いないと思いながら注意して鑑賞するようになった。「マイノリティ・リポート」「リトル・ブッダ」も「12モンキーズ」も公開当時見ていたにもかかわらず、面白さを十分に分かっていませんでしたからね(恥じ入るばかりです)。

 

 で、20世紀フォックスのファンファーレが鳴り響き、いよいよ始まるぞ、スピルバーグだし、南北戦争のドンパチが繰り広げられるに違いないと思っていたら見事にスカされる。なんとボサっと座っている大統領と黒人兵士が話している。「声をかくす人」だって、戦闘シーンがあったのに、なんで?続いて議会工作やら、無為な論戦などが延々と続く。おかしいなぁ、予告編でも激しい戦闘シーンがありそうに見えたんだけどなぁ。あれ?ひょっとするとコケたのかな?サメやら宇宙人やら恐竜が出てくる代物なら人物描写が冴え渡るけれど、この人静かな物語って・・・。でも実は冒頭が肝心だったわけで、注視していると大統領が“人と話している場面”が実に重要。ほとんど全編ソコに集約されていると言っても過言ではありません。電報を打つ技師に定理について語る場面、使用人と奴隷解放について語り合う場面、共和党の急進派のボスを説得する場面、北軍司令官と語り合う場面。これが今回の万能映画青年の戦略だったのでは。

 

 大統領の仕事は演説することも、決断することも大切ですけれど、人々が政治家に何を求めているのかを知ることは肝心で、媚びることではない。そして相手が不特定多数でなければ、人として本心を明かす。“黒人を解放したらどうなるか”は実はこの段階でリンカーンは分かっていなかった。もちろん彼が成すべきことは戦争を終結させ、合衆国憲法修正第十三条を下院議会で批准すること。それが大義だし、それが元で起こった戦争なんだから。そのためには汚れ仕事をなりふり構わず実行。21世紀には操られていますが、ロビイストを使って議会工作することも、国務長官すら欺くことも厭わない。地味ですけれど、国務長官役のデヴィッド・ストラザーンは「グッドナイト&グッドラック」の人だけに似合います。この人の悪役はあまり好きじゃないのだ。

 

 ダニエル・デイ=ルイスはいつもどおり入魂の芝居を披露。確か祖父に英国王室の桂冠詩人を持つこの人は、最後のモヒカン族を演じたり、強欲そのものの石油王を演じたりと合衆国映画に足跡を残しておりますな。「NINE」とか「存在の耐えられない軽さ」の側面も今回活かされているけれど、背の高いカリスマ性と人情を持ち合わせた人気の高い大統領を具現化。そしてトミー・リー・ジョーンズがそれを補完している。ジョセフ・ゴードン=レヴィットも脇で美味しいし、サリー・フィールド(「パンチライン」)は老けちゃったなぁとしみじみしちゃいます。しかしながらもっと驚いたのが、胡散臭いロビイストのリーダー役ジェームズ・スペイダー。「セックスと嘘とビデオテープ」の変態青年も顔が分からなくとも、芝居が印象的な実力を見せつけました。

 

 前作はかえすがえすも劇場で観なかったことを悔やんでいる昨今。合衆国を代表する偉大な指導者を、壮大なスケールで描くのではなく、庶民のために尽力する一人の男として描いた経年熟成する可能性が高い秀作。黒人差別に関しては「ジャンゴ 繋がれざる者」を観れば良いし、じつは焦点がズレてしまう要素はスッパリ切り取られていますけれど、それはクリント・イーストウッド「アウトロー」で補うことができます。法律の名を冠した作品は「ドクソルジャー」(原題はARTICLE 99)ですけれど、忸怩たる思いをしていても、なかなか変えられないのが世の常。英国が先に撤廃していたんだから、下に見られている合衆国とて、負けるわけにはいかんと思っていたのか?世界を視野に入れることは政治家としてなくてはならない資質で(「1911」)、大統領は「人類が」と口にする。超大作ならこの人、スティーヴン・スピルバーグが手掛けたインディ系とも言える小ぢんまりしたものながら、良く出来ていた。ぜひご覧になってご確認を。もちろん我が国には最優先事項がありますから、法律変えるトコだけ真似てもらわなくても結構です。この大統領のように、直に人々の声に耳を傾けて欲しいと切に願う。

 

現在(4/30/2013)公開中 
オススメ★★★★☆  

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関連作

  アウトロー

 

 スピルバーグ「リンカーン」で、スパッと切り落とされていた部分を補う意味でも見ておいて損はないクリント・イーストウッドの西部劇超大作。南北戦争終結ですんなり降伏させてもらえない連中は即座に賞金首にされちゃって追われるはめになる。南軍側から描かれれば、勝った方の略奪行為だって見逃すわけにはいかない。特にインディアンの土地を奪っていった事実は後々まで残さなければならない時代記号。

 

 これを観る前にはクリント・イーストウッドの変態趣味は西部劇にはないだろう、と思い込んでいましたが、ソンドラ・ロックがもう監督のその気に火を着けたか、美少女なんだけど、キ印で現代日本の“不思議ちゃん”に相当する感じで、登場からヤバい。もっともこの人は「ガントレット」も「ダーティーハリー4」も好きなのですけれど。
凄腕ガンマンと同時に、初期の頃から凄腕監督だったわけね(またもや、映画わかってねぇなと言われそう)

オススメ★★★★☆

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  戦火の馬

 

 お客さんに言われていたし、気にはなっていたけれど観なくて後悔した、とてつもなく素晴らしい堂々たる超大作。勝手にスティーヴン・スピルバーグのベスト・フイルムだと決めつけてしまった。馬を主軸に据えたことで、関わる多種多様な人々を交えて第一次大戦下のヨーロッパを描き切ります。無機物が主役の「レッドバイオリン」は観客に数世紀もの時空を超えた旅を見せますが、移動距離が人間の何倍もある馬だけに、当時の欧州で繰り広げられていた戦争を、我々は体験することになる。貧しい小作農が意地で競り落とした馬は美しい競走馬で、小作人の息子と一心同体に。ところが戦火がその絆を断つ。

 

 軍に徴用され前線に送り込まれますが、当時の戦闘の様子が垣間見られる。銃も使うが基本的にサーベルなどで馬上から敵を倒す戦法をしているのが英国軍。翻って迎え撃つドイツ軍は既に機関銃を携えている。フィルム撮影された光景に圧倒されます。「ラストサムライ」に負けず劣らずで、デジタルカメラでは出せない柔らかな色彩がある。偶然ですがスティーヴン・ソダーバーグ「コンテイジョン」と並行して見たので、光線の強さが違うことを発見。部屋を真っ暗にしてお試しあれ。技術革新は映画を安価にするけれど、このスケールで安っぽくなっては作品を活かすことはできない。

 

 20世紀に至るまで戦争の絶えなかった欧州。必死に農業に勤しんでいても兵隊にとられる(「約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語」)。技術を進ませるのが戦争で、毒ガスであるとか、戦車であるとか人を効率よく殺す道具も発達する。原作が優れていたのでしょう、戦争のあらゆる側面を浮き彫りにしている。殆ど少年なのに前線に送られそうになる弟を連れて脱走する兵士、日常的に繰り返される略奪行為、動物愛護などという概念のない人々。もちろん陰惨な戦争のさ中に、ふと挿入される“休戦”のシーンは実に印象的。鉄条網に絡まった馬のジョーイを、ドイツ軍と英国軍が助け出すため協力するところは救われる。

 

 ヨーロッパの戦争はなにせ地続きだけに、街のすぐ外で繰り広げられ、人々は思い知らされる。懲りずに第二次大戦を始めた男を許さないのも当然、と本作を見ると良く分かります。より技術が進化した情緒もクソもない戦争をスピルバーグは先に描きましたけれど、本作には人間ドラマが充実している。「リンカーン」は良く知る顔が並びまずか、本作はエミリー・ワトソンくらいですかねぇ。殆ど見知らぬ顔ばかりなのに圧倒される感動作。劇場で観なかったくせに偉そうなことは言えませんが、同じ年にオスカーを獲得したのは「アーティスト」なんだよなぁ。宣伝ばかり見ていて、見逃してしまう典型(「フィールド・オブ・ドリームス」)。
オススメ★★★★★

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