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ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

  ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日  

 

 1/25公開だけれど、本日観賞可能なのは“前夜祭”だからだそうな。男の子に聞くと反応が薄くて、女の子には受けが良い漂流記。生存が優先される21世紀に、男は呑気に悪口言ってばかりだな・・・などと悲観的になりがちな今日この頃。これこそ男性にオススメできるサバイバル。宣伝はもちろん3Dを前面に出していて、“「アバター」以来!”とか謳っているんだから見所の一つ。2009年以来名だたる監督たちが手をつけてきた最新技術。スピルバーグ(「タンタンの冒険」)もスコセッシ(「ヒューゴの不思議な発明」)もヴェンダース(「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」)も。我が国では神山健治が既に2本経験済みで、コッポラの「Virginia ヴァージニア」はアチラでは3Dだったそうな。30本近く観てきて“ゲテモノ向き、感動作は不向き”がワシの3D に持っている固定観念。

 

 でもわざわざ劇場に足を運ぶ理由は、最新技術でも“アカデミー賞の呼び声も高く”でもなく、「あれ?イルファン・カーンが出ているじゃない」。あんまりいないと思いますけれど、インドといえばこの人になりそうな彼は「マイティ・ハート」以来気になっていた。「スラムドッグ$ミリオネア」が典型的で、昨年は蜘蛛男の新シリーズでもかの国をイメージさせる役。スーパースター!ラジニカーント方面もあるけれど、映画大国ですもの合衆国の大作に出たって作品を引っ張っていける。監督も台湾出身のアン・リーで、劇場では「グリーン・デスティニー」以来となりましたが、「ハルク」を手掛けているので特撮に不安はない。そして予告編で見てきた通りに眩いばかりの映像は、確かに“宣伝に偽りなし”でした。「ツリー・オブ・ライフ」と見比べると面白いかもしれないし、3Dだと水中の浮遊感を実感できるから「グラン・ブルー」をこの技術でリメイクしたら?とふと思う。

 

 冒頭も“動物を3Dを使って映す”は導入としては申し分なし、海洋ドキュメンタリーもこの手で迫れば新鮮に見えそう。でも動物園からお話が始まるからといって、心温まる物語ではありません。世情が変わり動物を売ってカナダへ越さなければならなくなった主人公パイの一家。そして船旅の途中で放り出されてしまいます、そこから世にも奇妙なサバイバルが・・・。ただパイがどういう人物かを描く部分は重要で、信じる心が失われつつある21世紀ですからなくてはならない。それにしてもヒンドゥー教と、イスラム教と、キリスト教を一緒に信仰できるとは。平穏だった彼の少年期を描くには、鮮やかなアジアの色彩も一役買っている(「リトル・ブッダ」しかり)。成長してイルファン・カーン演じる大人のパイに違和感がない。

 

 ま、大人の彼が語るんですから、死なないのは分かっていますけれど、それでもビビります。 飛行機が墜落して、狼が徘徊する身も凍る大地に放り出されるとエライ事になりますが(「THE GREY凍える太陽」)、荒波にもまれて海に放り出されても大変です。おまけにパイ君の救命ボートには虎がよじ登ってきます。タンタン君は間抜けなハドック船長でしたが、獲物と見たら襲いかかる習性を持つ猛獣と呉越同舟。無人島に一人で暮らす方が気楽に見えます。海の上だけに“例の魚” の背ビレがうようよいたり。また同時に映像は海の生き物を美麗に描き出す。サバイバルと自然美、観客は緊張と同時に恍惚を味わうことができる。ヒットの要件を満たした過情報作品に食傷気味でしたから、“やっぱ映画はこうでなければ”と痛感、ぜひご覧になってご確認を。

 

 そして物語の仕掛けはもうひと捻りしてある。ドンファンが近いんですけれど、現実的なお話も提示して“どっちが良い?”と問うのは、本作が文学作品を原作にした大人向けの証拠。フランスの名優ジェラール・ドパルデューが出ている理由も、“後々効いてくるジャブ”だと劇場からの帰り道で気がついたりして。海の上では人間は無力に等しい。エイハブ船長のように挑んでも、とてもじゃないけど勝ち目なんかない、生き延びることが先決。また同時に人間はひとりでは生きていけない。どこか「蟲師」を想起させる映像美も3Dも全てそれを語るための目くらまし。

 

現在(1/24/2013 )公開中 
オススメ★★★★☆ 

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 白鯨 MOBY DICK 

 

 テレビムービーですけれど、かいつまんでハーマン・メルヴィル不朽の傑作を堪能した気になれるのは「レ・ミゼラブル」とご同様。とは言ってもアチラの作品はスケールがデカイので、がっかりすることはまずない。エイハブ船長はどんな人なのか?とか、イシュメイルは?スターバックは?を3時間で知ることができる。原作は読むとなると根性のいるボリュームですから。21世紀では保護対象なれど、せっせと“ランプの油”のために獲りまくっていた映像資料にもなる。陸では差別があるけれど、アフリカ系であろうとネイティヴであろうと、捕鯨船に乗っちまえば皆さん運命共同体。これは原作者の実体験がモロに出ているのでしょう、学生時代ハーマン・メルヴィルという人は捕鯨船で働いていたのだと聞きました。

 

 ホントは人間の足を食いちぎるなんてことはしない、地球上で最も脳みその詰まった生き物=マッコウクジラ(ジャック・マイヨールさんの著書イルカと、海へ還る日 (講談社文庫)をご参考までにどうぞ)。そこがまさにフィクション=文学のゆえんで、不可侵の領域を象徴する生き物としてモービー・ディックがおり、執念で挑み続けるエイハブ船長という図式が、「白鯨」を不朽の名作として今日まで語り継がせたのです(知ったふうな口きいてんな)。ドキュメンタリーとかで見慣れているから、あんなに海上に飛び上がったりしないとは思うけれど、そこはそれ“海の化身”だからして。ただ21世紀の我々が嘘くせぇとならないように、結構ドキュメント・タッチで描かれております。

 

 てっきりドナルド・サザーランドがエイハブで、ウィリアム・ハートがスターバックで、イシュメイルがイーサン・ホークかと思いきや、一つずつ繰り上がっているような気になるのは年のせいでしょう。“人間は自然に挑むことはできる、しかし勝利することなど適わない、ただ生き延びるだけなのだ”とつくづく身にしみる。
オススメ★★★☆☆

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