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言の葉の庭

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 ここんとこ秀作ではあるけれど、世界の現実を垣間見せる作品(「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」「アンチヴァイラル」)が続いて、少しホッとしたかった。だから“目に優しい”映画になるはずの、新海誠の新作はタイミングとしては申し分ない。ま、LMFAOから聴き馴染みになってきたダブ・ステップなれど、RihannaもKornもとなってくると、Jeff MillsのアルバムExhibitionなどでリズムを変えたとしても、耳に優しくない。そこで突如タイナカ彩智を聴くと、「精霊の守り人」などが思い出されて一息つける。NHK大河ドラマ風の連続アニメーションを手掛けた神山健治は昨年「009 RE:CYBORG」をかましたけれど、新海誠もワリと短いスパンで新作を出してきた。実は前作から少し時間がかかるか?と思っていたし、待たされても中身が良いなら3〜4年は許容範囲。ところがこの人も今の日本を鑑みると、悠長に構えていられないと判断したのか。

 

 現実を熟知しているこの監督は、まず売り込み戦略を“日本アニメーションの新しい試み”と同じにシフトしてきた(ソフトを劇場販売)。それだけでなく、なんと本編を始める前に短編に仕立てた野村不動産のCMを入れている。「FREEDOM」が早かったですけれど、「TIGER & BUNNY」だって登場キャラクターがスポンサー・ロゴを貼り付けて出てくる時代です、キレイごとばかり言ってられません。コーエン兄弟の作品は始まる前に、いっつも何社ものクレジットがあって、“資金繰り苦しいんだなぁ”と思わせます(参考までに「ノーカントリー」をどうぞ)。それなら金出してくれる会社の宣伝入れた方がスッキリするし、短編「だれかのまなざし」は悪くなかった。さらに荻上直子と同じでこの人も猫好きだけに、CMで自身の欲求まで満たせるんだからやりやすいでしょう。

 

 今回の作品は以前のお約束を逆手にとっている(電車は健在だったけど)。お約束とはこの人の特徴で、“見上げる空”、“突き抜けるように飛ぶ飛行機”(この源流は「マクロス・プラス」もその一つ)で、それを封じる自然現象を背景に物語を構築。雨が出会いを生み、物語を紡いでいく。ジトジト降る雨といえば「ブレードランナー」だったり「セブン」だったり、不吉で鬱陶しい。ですが最新技術を導入した、水面に落ちる雨粒はもうたまらない。「009 RE:CYBORG」のコメンタリーをしつこく聞いているせいか、神山健治は新しい技術を試し、使いこなし、作品に活かしている。本作の新海誠も適材適所に技術を用いていて唸ってしまう。だてに1人何役もこなしていない、ほとんどキモの部分を独り占めです。「ヴァンパイア」の岩井俊二もそうですけれど、ワリと自由な製作環境にいそうなのに、「モンスターズ 地球外生命体」のギャレス・エドワーズのようだ。単純に貧乏症ということでなく、分業が当たり前の環境を逆転できる技術進化に適応しようとしているのか?

 

 手描きの背景だったり、CGだったり、新宿御苑を中心にして東京を詩的に描いた映像には、固定ファンを十分に満足させる力がある。白は恐怖を倍加しますが、血の色=赤の補色である緑は目に優しく、登場人物の輪郭を優しく覆う。そして物語は少年たちのハートを直撃すること間違いなし。だってさ、15歳の少年と27歳の大人の女の淡い関係だよ。ワシにも10代の頃あったし、「DIVA」のおかげで映画好きにされてしまっただけに、かすかだが少年たちの心情は理解できる。でも主人公の秋月孝雄は意志を持った少年です。大志を抱いているのが少年で、漠然と生きているのがガキなのです。30年以上前、新宿御苑の前にあったアニメックで、ガンダムのセル画買っているようなのは少年とは呼びません。ほとんど理想とも言うべきが孝雄君で、靴職人を目指しているなんて、「耳をすませば」そのものですよ。

 

 相対して大人の女=雪野百香里は当然、謎めいている。ま、少年からは大人の女なんだけど、熟女すら年下になったオッサンから見ると、この娘には絶対なんかあるねと察しがつく。昼間から公園でビール飲んでいるなんて、必ず物語の伏線として、21世紀を生きる人間として、なんかあるに違いない。ただこれは映画の重要な仕掛けなので割愛します、ぜひご覧になってご確認ください。ここが宮崎駿作品に近いようで、似て非なるこの人のテイスト。詩的な映像で“目に優しい”かもしれないが、ものすごく“おぞましい側面”を持ち合わせているのが現代日本で、キチンとそれを作品に込めている。よって本作は海外に持って行っても恥ずかしくないクォリティを備えている(映像美だけではなくね)。なお、映画の最後に注意が喚起されていて、公園にアルコールの持ち込みは御法度なのだそう。

 

 無機質な映像は「ツリー・オブ・ライフ」がそうだけど、撮影監督の力量が問われる。今回の新海誠は果敢に挑戦で、「蟲師」をこのテクニックで再度作ってくれないものかと思ったりして。実はあっけにとられてエンド・クレジットを眺めていたんですけれど、上映時間46分ならこれで十分か。「花の詩女 ゴティックメード」も70分でちょうど良かったし(客層まで似ていたな)。続編があっても良いし、余韻に浸っているうちに“ま、これもありか”と思えてくるのは、秦基博が歌うRainにもよるでしょう。なんと大江千里の曲を引っ張り出してくるとはニクイ。「秒速5センチメートル」が山崎まさよしで、この辺は監督の聴いてきた音楽が伺い知れますな。宮崎駿荒井由実が好きなんだけど、和風なんだよなぁ。和風の感覚を機械都市=東京に持ち込んで、詩的に描けるには隠し味があって、それが劇中流れる柏大輔のメロディ。若い頃はこの手の作品が病的に好きで、西村由紀江が音楽を手掛けた「落下する夕方」中村由利子アルバムをそっくりサントラにした「1999年の夏休み」とかね。

 

現在(6/8/2013)公開中 
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 マクロスプラス

 

 この作品から「マクロス・フロンティア」「カウボーイ・ビバップ」は分岐している。更に「王立宇宙軍 オネアミスの翼」「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」が源流と言えるかもしれない。劇場版が公開された時期も重要で、1995年は「GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊」と同じだ。パターンは「機動警察パトレイバーTHE MOVIE」と似ていて、OVAの後に映画という運び。内容もバーチャル・アイドルに危険因子を組み込んだ犯人が飛び降り自殺したり、AIが人間を模倣したり。昨今(2013)の初音ミクにまつわる現象を予見していのか、それとも偶像崇拝は人間の習性か。

 

 監督の渡辺信一郎、脚本の信本敬子、音楽の菅野よう子のトリオは「カウボーイビバップ 天国の扉」を世に生み出すけれど、主人公の三角関係、バルキリーによる空中戦などは流用されているようで楽しい。風力発電の巨大風車も「とある魔術の禁書目録」に受け継がれているのかな?各巻のリリースが楽しみだったが、VHSだったんだよなぁ。キャラクター・デザインが美樹本晴彦から摩砂雪に変わったので、違和感を覚えたものだ。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のスタッフは彼だけでなく、庵野秀明の名前も見受けられる。また「ガメラ2」「宇宙戦艦ヤマト2199」にも携わっている樋口真嗣も参加しており、現在のアニメを支えている重要人物の仕事を再見するのも悪くない。と20年近く経ってしみじみ思ったりして。
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