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ジャッキー・コーガン

   ジャッキー・コーガン

 

 久しぶりのブラッド・ピット主演作。2011年の「マネーボール」以来で、監督は「ジェシージェームズの暗殺」担当のアンドリュー・ドミニク。この人はニュージーランド出身で、「狼たちの街」のリー・タマホリも同郷。ニキ・カーロ(「約束の葡萄畑あるワイン醸造家の物語」)とかロジャー・ドナルドソン(「世界最速のインディアン」)など、合衆国で活躍なのは北欧ばかりではない。冒頭から“カンヌ映画祭に出品”する作品の雰囲気があって、殺し屋映画なのに、現大統領の演説が被ったりします。また据え置きの画はジム・ジャームッシュを思わせる。「リミッツ・オブ・コントロール」以来新作が拝めないのは実に残念。

 

 2人の物凄くしょぼいチンピラが、ヤクザの賭場から金をかっぱらう。賭場がまた物凄く生々しくて、「ゴーストドッグ」っぽい。銃で脅されても肝が据わっているヤクザの面々は、後でいくらでも“お返し”ができるだけに、すんなり強盗は成就。チンピラにも腹黒い計算があって、濡れ衣を着せる相手がいる。それがレイ・リオッタ(「デート&ナイト」)演じるマーキー。一度同じ手口で上手くいったマーキーは、仲間からエライ目に遭わされる。ただここまでの過程で、冒頭の演説や賭場のテレビで喋ってる“あの人”が、この作品の仕掛けだと(勝手に)思うと、俄然面白くなってくる。政治家の去就なんか無縁のヤクザ世界ながら、政権交代している時期の合衆国が、物語の底流を成している。だって早い話がボコボコにされるマーキーってイラクアフガニスタンそのものですからね。

 

 宣伝でメインの主役ブラッド・ピットは途中から参戦。「スナッチ」みたいな感じを想像していたけれど、年相応のヤクザになっている。話を持ちかけるのがリチャード・ジェンキンスで、主演作でも無色透明な売れっ子脇役は役名がなんと運転手。でもこの人は当たりの作品に導いてくれる、ワシにとっては肝心な役者さん。またチョロっとしか出てこないけれど、ピット演じるコーガンのボスがサム・シェパード。「ジェシージェームズの暗殺」が縁なのか、パイロットが似合っていたこの人のヤクザ役は初めて。また「アウトレイジ」の時の石橋蓮司みたいに酷い目に遭わされるレイ・リオッタも、ホントに年齢に合わせて様変わりです。だって「グッドフェローズ」の時はボコボコにする側でしたもんね。

 

 合衆国の現実を反映しているコーガンは「顔を知られているやつ殺すのやなんだよ、泣いてすがるしよ」などと言う。この辺も悲惨な現実から目を背けているかの国の本音みたい。更にニューヨークからやって来る代理の殺し屋ミッキーも、昔話ばかりしていて使い物にならない。扮するジェームズ・ガンドルフイーニも「ゼロ・ダーク・サーティ」に続いてだけど上手いのだ。ぜひ「ロストガール」と見比べていただきたい。彼だけでなく、コーガンの手下役のスレインも今後伸びてきそうでしめしめ。ベン・アフレックの2作(「ゴーン・ベイビー・ゴーン」「ザ・タウン」)で光ってたからね。強盗したチンピラのしょぼい将来設計は、ヤクをさばいて稼ぐ。もっともそれがどうなるかは「ヤバい経済学」を観ていたので笑ってしまう。

 

 斜陽の帝国を下敷きにしているとは言え、殺し屋映画の側面もきちんと成立させている。マーキー殺害の瞬間がそれで、スローモーションの華麗さはさすが。「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」でも手を弾丸が貫通する壮絶なシーンがあるけれど、タイトルが“KILLING THEM SOFTLY:奴らを優しく殺す”だけに他のマフィア映画とは一味違う。一味違うのはクェンテイン・タランティーノ作品(「イングロリアス・バスターズ」)と比べると良いんですけれど、おしゃべりが多いながら、退屈しないのは据え置き画面と芸達者な役者のなせる技。加えてかの国の象徴=車が古いタイプのものばかり。昨今我が国の道路を走っているのはボックスカーばかりとなってしまいましたが、セダンだと雰囲気全然違います。そして「アウトロー」と同じく可能な限りIT機器を画面から削いでいる。

 

 クライマックスは仕事が片付いた後、ブラッド・ピットが発する台詞で痺れます。「アメリカは国じゃない、ビジネスだ」これは21世紀の現実を最もストレートに表している一言、ぜひご覧になってご確認を。直前まで内田樹氏のブログ(2013年5月8日付)を読んでいて、モロに合致しているのでビックリした。もはや憂いたところで、解体してしまった国に残されたのは金のやりとりだけ。「噂のギャンブラー」も実話を元にしたサクセス・コメディなんだけど、出てくる面々は金のコトしか頭にない。「ザ・ドライバー」に近いハードボイルド・タッチながら、時代は未知の領域に進んでいる。いつもは画面の外側で虚しく鳴っているTVを巧妙に配して、クールに空疎な世の中を描いてみせた。チャーリー・ウイルソンはたまたま見たTVでアフガニスタンのことを知ったりするけれど、知らん顔しているといつの間にか紙くず(元は紙幣だったり株券だったり)だらけの場所に放り出されてしまいます。なーんにもなくなっちゃった「モンスターズ 地球外生命体」のラストみたいにね。

 

現在(5/8/2013)公開中

オススメ★★★★☆  

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  噂のギャンブラー

 

 「アウェイクニング」の直後にこれを見たら、レベッカ・ホールの変身ぶりにニンマリしてしまいます。ベン・アフレック(「ザ・タウン」)にもウディ・アレン(「それでも恋するバルセロナ」)にも起用されているけれど、モロに頭の悪い女の子は初めてだ。「サンシャインクリーニング」エミリー・ブラントのようにおつむテンテンは遺伝したらしく、父親も「ラス・ベガスに行って稼ぐわよ」と言ったら賛成。実態はベガスのウェイトレスになるということは「ハードエイト」なんだろうけれど、このお気軽さに現実は不要。

 

 豪華な出演者はことごとく登場シーンが笑えて、マクレーン刑事ブルース・ウィリスはモノ食いながら出てくるし、キャサリン・ゼタ=ジョーンズなんて「ロック・オブ・エイジズ」に続いてやりまくり。あの「ターミナル」でも「幸せのレシピ」でも素敵に可愛い役だったのもすでに過去か・・・。とどめに売れっ子のヴィンス・ボーン(「エイリアン・バスターズ」)、ジョン・キャロル・リンチ(「宇宙人ポール」)までと「マージン・コール」みたいに勿体ないレンタル屋ストレート近似値作品。ただし、博打の手口が我が国と違うので、致し方ないのかもしれない。

 

 「ムーンライズ・キングダム」も良かったブルースは今年(2013)出まくりで、彼のインディ系はなぜか当たる。もっとも監督のスティーヴン・フリヤーズは「クイーン」以来ご無沙汰だけど、“英国の毒”を交えずフツーに撮っているように見える。ところが「ジャッキー・コーガン」の後だけに、どいつもこいつも金のコトしか考えられないのか合衆国は?になっちゃうんだよな。

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