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ヒッチコック

  ヒッチコック

 

 ホラーは見ないし、突端恐怖症だし(「ブラックスワン」でもヤバかった)、商売上問題なのでアルフレッド・ヒッチコックの映画は「めまい」くらいしか見ていない。「それっておまえ、映画知りませんって言ってるのと同じだぜ」と突っ込まれれば返す言葉もありません。なんで商売上問題かは、名作として生き残った映画を見ると、新作観る気が失せてしまって、お客さんに対応できなくなってしまうから。それこそ「ヒューゴの不思議な発明」にまで遡れば、観客だけでなく作り手も虜にした新しい芸術。しかし21世紀ともなれば、なかなか新しい作品を創出していくのは難しい。さらには娯楽であり、商売なんだから大勢の人々にアピールもしなくちゃ・・・。ですから「ザ・マスター」とか「世界にひとつのプレイブック」とか「ムーンライズ・キングダム」は重要なのです(インディ系ばかりだな)

 

 さて本作鑑賞の前に傑作「サイコ」は必見です。付け加えるならば内田樹氏の「街場のアメリカ論」、それも第七章を読んでおくと、楽しみは倍増することになります。感動作ならまず大丈夫なフォックス・サーチライトのジングルが鳴り終わると、エド・ゲインが出てきます。全米を震撼させた猟奇殺人鬼のオリジナル。内田樹氏の著書によると「羊たちの沈黙」の犯人、バッファロー・ビルに至るまで影響下にあるのだそう。そしてその犯人逮捕のアドバイザー=レクター博士を演じたアンソニー・ホプキンスが、サスペンスの巨匠に扮するのは何かの縁でしょうか?これほど役になりきっているアンソニーにお目にかかったのは初めて。また奥さん役がヘレン・ミレンなんですけれど、「クイーン」からコンスタントに出演作を拝ませてもらっている。炸裂スナイパーも良かったし、宿命を背負ったスパイも素敵だった。旦那さんのテイラー・ハックフォード監督作「PARKER/パーカー」が2月だったけど、その脚本家のジョン・J・マクロクリンが本作も担当しているのだな(「ブラックスワン」もとは売れっ子)。

 

 で、お話は「サイコ」誕生秘話で、サスペンスの天才も“産みの苦しみ”を嫌というほど味わうことになった、という実に映画好きにはたまらない内容。全米を震撼させた事件(エド・ゲインの猟奇殺人)を元に原作は書かれていて、時代に敏感な巨匠は映画化に取り組む。ところが映画会社パラマウントは金を出さないということになり、自腹切って製作開始。才能がないエド・ウッドなら分かりますが、「北北西に進路を取れ」の人ですよ。ま、チャップリンも戦っていましたけれど、映画史に残る傑作はインディ(独立)系だったわけだ。また資金面だけでなく、巨匠は別な局面でも悪戦苦闘することになる。誰も見たことがない殺害シーンには映倫の検閲が入って、偉い人達と渡り合わなくちゃなんない。それにしても「氷の微笑」なんて始めから凄かったし、「アジョシ」などもメッタ刺し。一度も身体にナイフが突き立てられたりしない「サイコ」なのに・・・。

 

 殺害シーンだけでなく、監督はエド・ゲインの心理を読もうとするから、うなされたりする羽目に。奥さんはどうも浮気してるんじゃないか?とか、まるで「映画に愛をこめて アメリカの夜」みたいですけれど、フランソワ・トリュフォーは本(「ヒッチコック映画術」)のインタビューでヒッチコックに聞いていたんですかねぇ。ただもうヘトヘトになりながらも観客をあっと言わせたい、ビックリさせたい、という実にストレートな願いは映画が公開された時に成就する。おそらくは映画監督の醍醐味を最も体現しているのでは?というアンソニー・ホプキンスの演技はぜひご覧になってご確認を。また一般的には問題のある人なれど、ヘレン・ミレンが支えるところはグッとくる。“内助の功”などではなく、最も身近にいる理解者は創造にはなくてはならない。音楽家数学者も一人では成し得ない仕事をしている。

 

 結局“過激な方向ではない”サスペンスの新作が、なぜ見られないか?の一因は、“題材がない”ではなく、戦う監督が不足しているのでは?という結論に至りそうで怖い。技術革新によってスピーディに、安価に大量生産されている映画。映画会社の意向に沿って製作すれば文句なしなんだけど、内容は薄くなる。経年熟成する作品の傾向として、人物描写が鍵かもしれない。というのは「サイコ」の次に「鳥」を見たからなんですけれど、ショッキングなシーンを取り除いても映画として成立する。映画監督にとって人間観察眼は不可欠で、本作で“女優を育てる”ことに腐心しているヒッチコックも描かれている。ジャネット・リーを演じたスカーレット・ヨハンソン(「アベンジャーズ」)ではなく、ジェシカ・ビール(「トータルリコール」)が演じたヴェラ・マイルがそれ。技術的なこと以外に映画監督の仕事は山積していて、うんざりすることこの上もないけれど、それを引き受ける担力を持つ人はなかなかいないのでしょう。だから2人の名優アンソニー・ホプキンスとヘレン・ミレンが張り切ったのかもしれない。ま、勝手な解釈ですけれど。

 

現在(4/14/2013)公開中
オススメ★★★★☆ 

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  サイコ

 

 ヒッチコックの本作を見ていないということは、「映画を見ていません」と宣言するようなもの。実は中身をすべて忘れちゃったけど「サイコ2」は見ている、といった具合でハンチクな映画好きなのですよ実に。ただ「二十四の瞳」を見た時も痛烈に感じましたけれど、レンタル屋としては商売に差し支える。見ちゃった後はモロに映画原理主義者に変身、昨今の作品をダメだダメだと批判するようになり、借りていくお客さんに無駄な説教したりして・・・。当たり前ですけれど名作として何年も生き残った作品は、込められた情報量だけでなく、過不足なく観客に訴えるように描かれた物語に降参するしかない。せっかくリリースされた「黒部の太陽」を未だ見ていないの?と呆れられ、「ジャンゴ 繋がれざる者」を見る前にはクリント・イーストウッドの「真昼の死闘」が先だろと怒られている。

 

 で、例の“シャワー・ルームでメッタ刺し”のシーンを嫌というほど見てきた挙句、齢45になって本作を見るとどうなるか?なんのことはない、映画監督アルフレッド・ヒッチコックという人は天才なのだと実感する。何より無駄がないことが驚きで、ジャネット・リー扮する浮気女が金を横領し、モーテルに行くまでのシークェンスに目が釘付けになった。特に心理描写を音楽と合わせて絶妙に観客に訴えているところに脱帽。またアンソニー・パーキンス扮するノーマン・ベイツの端正さが、後のトム・クルーズとかブラッド・ピットに重なり、笑ってしまう。90年代以降はこの時代にサイコ男として確立された顔を拝んで、二枚目と称していたわけだ。またキャラクターの配置はそれぞれの顔に着目すると、後のお手本になったことがはっきりする。

 

 タイトルのサイコは異常と訳しても良いし、キチガイと訳しても問題なかろうと思う。それまで合衆国の人間が遭遇したことのない異常な事件=エド・ゲインによる猟奇殺人を題材に、抑圧により生み出される多重人格であるとかラストも唸ってしまう。どこぞの局の長官がまさに典型だというわけで、幾らでも発見のある経年熟成する傑作。もっともこの種のサスペンスに1960年で止めを刺してしまったことも、同時に納得させられてしまう。だってさ「羊たちの沈黙」「セブン」も適わないからさ・・・、ああ原理主義者になってしまう。それにしても殺害シーンを監督自身が気にしていたのは「ヒッチコック」でも描かれていますけれど、他も全然手抜きなしにじっくり描き込んであるし、低予算映画だったってホントかなぁ。
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 「サイコ」と同じで鳥が群れをなして襲いかかってくるシーンは、いやというほど見ている。ただし、未見の部分が実に興味深い。アニマルにとどまらず後のパニック映画に及ぼした影響は計り知れない。人間描写がカギで、息子に執着する母とその息子に接近する美女。この“女の関係”がベースにあることで、映画として成立するのだ。連続してみると、母子関係が前作から継承されているように感じる。また不明な事象にアテにならない持論をひけらかす人も、「ミスト」のような閉塞が生む集団の恐怖も挙げればきりがない。「機動警察パトレイバー」も本作ラストへのオマージュがあるし、ヒッチコックって凄いよなぁ。
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