エリジウム
特撮SFに新しい風を吹き込んだ「第9地区」。監督のニール・ブロムカンプは期待されて当然で、インターネットの書き込みにも賞賛の声が多々見受けられる。日本人がこの人に好意的になるのは、単純にSONYが作っているからだけではない。前作は日本製アニメーションマクロスからの影響があったそうで(パンフレットをご参考までに)、予告編で既に「機動戦士ガンダムU.C.」より鮮やかなスペース・コロニーの映像を見せられれば、揃って劇場に足を運ぶことになる。映像は格段に進化していて、CG映像なのはロボットなどが出てくるから、と理性が判断させるので実際の映像にしか見えない。ただし特撮技術は秒進分歩で進化し続けるから、超える作品もすぐに出てくるかもしれない(「クロニクル」が既に過去か)。
ところが廃れないのが物語の方で、もう頭が下がります、脱帽でした。ガンダムの世界ではスペース・コロニーに住む人たちは宇宙移民で、地球に住み続ける人々から差別されているけれど本作は真逆。より天国に近づいた人々は極楽を満喫。ま、「アフターアース」が隠蔽しているわけではないけれど、住めなくなった地球を後にできるのは富裕層、特権階級。これは村上龍氏の「歌うクジラ」でも描かれている。前作も体裁はエイリアン映画ながら、南アフリカの現実をモロに露呈させたニール・ブロムカンプ。今回は全世界が余すところなく貧民街になっちゃって、「ウォーリー」の一歩手前まで荒んでしまっている。でも観ていて「これ、今じゃん」と何度も呟くことになる。
言葉がものすごく露骨で、英語を話すのが少数派、ほとんどスペイン語を話している。「コラテラル」でジェイミー・フォックス演じるタクシー運転手は安いガソリンを入れるスタンドで、やはり移民の人々に通じる言葉で話している。10年以上前のL.A.でもタクシーの運ちゃんはメキシコ人だし、20年以上前の英文科でも先生から「英語なんて通じないよ、スペイン語だよ」などと言われた。天国=スペースコロニーの住人は、CMっぽい笑顔で英語、フランス語をほがらかに喋っている。フランス映画「ロングエンゲージメント」にも出演している、ジョディ・フォスターはもちろんペラペラ。で、「プロメテウス」に出てきた、未来の医療器械も真っ青の性能を持つベッドを備えた豪邸に住むのが富裕層の皆さん。これも特権階級だけ、先端医療の恩恵に与れる「今じゃん」のひとつ。
全世界が貧民窟に成り果てた地球では、権利もクソもなく、輝ける未来とは無縁の人々が暮らす。車泥棒をした前科のある主人公が、マット・デイモン演じるマックス・ダ・コスタというわけ。前科があるもんだからロボットに小突き回されたり、工場に遅刻して賃金減らされたり、明日のない日常。我が国だと未だだけど、「ファースト・フード・ネイション」などでバッチリ描かれたこれも「今じゃん」。ただし幼馴染のフレイと再会するところだけが微かな救い。「ザ・ライト/エクソシストの真実」のアリス・ブラガが演じるんだけど、凛とした美人で新鮮に映る。劣悪な環境で、安全管理も行き届いてないから、致死性の光線を浴びてあっという間に余命5日の宣告。ロボットが無慈悲に宣告するんだけど、甘い汁吸ってるCEOは労働をガラス越しに眺めている。
悪党=CEOを「ローン・レンジャー」とはまた違った姿に変身してウィリアム・フィクトナーが演じている。陰謀を巡らす悪党と、悪事の実行犯は揃ってやる気満々でジョディ(「インサイド・マン」からステップ・アップ)だけでなく、「第9地区」の主演シャールト・コプリーは筋肉増量して臨んでいる。「特攻野郎AチームTHE MOVIE」とはまた違って、監督の信頼も篤い。彼が演じる主人公をつけ狙う刺客クルーガーはありがちなんだけど、特撮部分を担っている。地上からスペースシャトルを打ち落とすミサイル発射したり、半壊した顔がみるみる蘇生したりと驚きの連続。ただし我々は知らされていないだけで、もうホントは実現しているのかもしれない。「ヨルムンガンド/PERFECT ORDER」などで情報を補わないとね。
TV宣伝(ニュース、ドラマ)に飽き飽きしていったって、なかなか世界の実像に近づけないのが現実。SFは未来に時代を設定しているけれど、実は直接描けない現代を、美術セットの目くらましによって顕にする。ま、「オブリビオン」や「ワールド・ウォー Z」も健闘なんですけれど、本作は超えてしまった。認知度低いですけれど、「トータル・リコール」は露骨だったし、地上の舞台がL.A.というのは「ブレードランナー」へのオマージュかな?南アフリカ出身だと世界を見ている角度も違うし、遠慮なく21世紀の現実を、最新VFXを駆使して見ごたえある作品にしてしまった。IT時代の用語も当たり前のようにセリフになっていて、テラバイトの上の単位エクサバイトもそうだし、昨今の映画界がお得意のリブート=再起動には笑ってしまった。そう言えば頭の中に秘密がってのは「J.M」なんだけど、ずいぶんと時代は進みましたな。
もちろん監督の世界を見る角度が違っても、きちんと物語は収束します。たとえ最先端の信じられない映像に目を奪われたとしても、捨て身の主人公が人々のために決死の活躍をする。オーソドックスですが、そうでなければ映画ではない、ぜひご覧になってご確認を。★×5は「そして父になる」に続いてで、大当たりでした。当たらないイラクねたの「グリーン・ゾーン」に出たマットはSFで代表作を獲得。才能ある監督の当たる1作前(「きみがぼくを見つけた日」の1作前「フライトプラン」とか)に出演してきたジョディ・フォスターはタイミングが合いましたね。
現在(9/30/2013)公開中
オススメ★★★★★
関連作
第一期は“怨嗟を飲み込んだ少年兵”ヨナが、武器商人ココ・ヘクマティアルと武器を売り歩きながら世界の戦場を転々とし、世界の現実を浮き彫りにしてきた。そしてこの第二期ではココの計略が明らかになる。驚かされるのは“世界の実像”を描くのに、込められた情報だ。漫画の特権で遠慮会釈なく、ジュリアン・アサンジの名が口にされ、水をめぐる戦争が語られ、食料の裏側にある事情に関しても、“オレ知ってるから、分かる、分かる”と思わせてくれて、ますますこの作品が好きになってしまう。米軍グアンタナモ基地から、計略=ヨルムンガンドに必要な科学者を拉致する。武器商人を躍らせているはずのCIA、NSAが弄ばれてしまったり。実働部隊はもちろんあの部隊ながら、おそらくジュイスの機能に近いものをヨルムンガンドは備えているんだろう。
「ネイビーシールズ」の時、戦争映画を観ているんだか、スパイ映画か?もはや区別がつかなくなったけれど本作もまさしく21世紀にふさわしい。最終話が“恥の世紀”というくらいで、既に我々はその時代に突入している。ダメなはずなのに宇宙の軍事利用をさっさと進めているエライ連中の善行には、蓋をするしかない。最後に今後の世界が描かれて、その延長線上に「エリジウム」の22世紀が待っているわけだ。明暗は関係ない、今後は若い人の選択次第だ。で、キャラクターではココの私兵部隊で唯一犠牲になってしまうアールに涙し、中年だけに直属の上司ブックマンには親近感を覚える(「スパイゲーム」にちょっと近い)。全員漏れなくグレー・ゾーンから、真っ黒のエリアに属する悪党だけに、ラフな話し方はお気に入り。そして女性キャラクターには、それぞれお宝シーンがあって、殺伐そのものの中で目の保養。
オススメ★★★★☆
スパイク・リーらしからぬ作品だが、さすがの大通り映画になっている。そしてナチが絡んだモチーフはそのまま「セントアンナの奇跡」に受け継がれることになる。プロデューサーのブライアン・グレイザーは「J・エドガー」も「Lie to Me」も「永遠の僕たち」など海千山千の仕事をしているし、豪華キャストをきちんと物語にはめ込むのに一役買ったか?デンゼル・ワシントンと「セレブの種」にも出ているキウェテル・イジョフォーが、いつものスパイク・リー作品らしさを醸し出す。そして大作の色付けにウィレム・デフォー、クライヴ・オーウェンが欠かせない。ジョン・タトゥーロがやっても良さそうだけど、今回は出てこないんだよね。
そして痛めつけられる役は多いけど、汚い役を演じてこなかったジョディ・フォスター。金になるならなんでも引き受けるエリート弁護士がハマっている。「エリジウム」などは本作よりさらにスゲェ悪役に変身、転機を作った。銀行強盗の映画として王道の描写ながら、もちろんキチンと捻ってあって、ぜひご覧になってご確認を。騙し合う強盗と刑事なれど、頭脳戦だから信頼が築かれちゃうんだよね(「ルパン三世」しかり)。一度見たんだけど、そんなに記憶に残っていない。スパイク・リー作品として異色に映るのは、王道に徹して地元ブルックリンぽさが薄れていたからか。クリストファー・プラマーはナチ絡みが似合いますな(「ドラゴン・タトゥーの女」)。
オススメ★★★★☆