関連テーマ 

 

 

 

 

 

サイドボックス

ここにテキスト


出し

バーニー/みんなが愛した殺人者

  バーニー みんなが愛した殺人者

 

 今年は公開される作品が減ってしまうのか?と心配だったインディペンデント・スピリット賞。しかし既に7本拝ませてもらったので、一安心。3、4ヶ月前くらいでしょうか、賞のサイトを見ると本作もけっこう好意的に扱われている。監督はリチャード・リンクレイターだし、売り文句は“「スクール・オブ・ロック」のコンビ作”になるのも当然。コメディアンではありませんけれど、ジャック・ブラックという人は日本でも認知されている(「僕らのミライへ逆回転」には感謝)。それこそアダム・サンドラー(「ジャックとジル」)とかウィル・フェレル(「アザーガイズ」)に比べれば、不思議なくらい公開率は高い。サシャ・バロン・コーエン(「ディクテーター」)はもっと理解不能だけど・・・。

 

 さて監督のリチャード・リンクレイターという人は、私めにとって“五分五分の人”。その実験的手法が吉と出たり凶と出たりします。「恋人までの距離」「ビフォア・サンセット」などはその新しさが“分かる範囲”だったので大好き。ところが範囲を超えるとムムムとなってしまったのが「ウェイキング・ライフ」。この手法は「戦場でワルツを」も使っていましたけれど、嘘つきません2本とも劇場で寝ました。斬新な映像が必ずしも大勢に受けるとは限らないのです。よって「スキャナー・ダークリー」をパスしているんですけれど、その主演キアヌ・リーヴス繋がりで「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」にこの監督も出ているのだから、先に進んでいる。しょせん感性は凡庸な人間ですから、実験的手法の2本を今(2013)見たら、印象は違っているかも(「マイノリティ・リポート」みたいにね)。

 

 ケヴィン・スミスは珍品の合間に惚れ惚れする感動作を撮りますが、この人も「がんばれ!ベアーズ・ニューシーズン」まで手掛けられる人ですから、大物になる。フィンチャーソダーバーグコーエン兄弟ではなく、テイム・バートンがワンランク上なのは作品の中に感動の要素があるかないか。ベタでも入れられるのは才能の証。ところが本作は「ファースト・フード・ネーション」を撮ったリンクレイターならではの内容。実際にあった事件を観客に見せるべく、テキサス州はカーセージという田舎町に我々を連れて行く。出てくるのがカントリー・ソングを歌いながら軽快に運転しているジャック・ブラック扮するバーニー。

 

 バーニーという人物を人々のインタビューで構築。エピソードも交えますが、人々の証言によって殺人者のキャラクターを浮き彫りにしていく。これがラストであっと驚かされるんですけれど、ぜひご覧になってご確認ください。席を立てない仕掛けをエンドクレジットに施していて、「ムーンライズキングダム」と同じく最後まで画面から目が離せなかった。実体化するのがジャック・ブラックで、賞にノミネートされるのも納得。実に胡散臭い外見なれど、誠実で優しい、誰もが信じて疑わない人間になりきっている。もっとも実際にそういう人はいますけれど、それでは映画として退屈するので、胡散臭い外見をフルに利用して、抜群の歌唱力も笑いを誘うものにしている。

 

 ワシも店のお客さんに声をかけるし、「暑いから気をつけたほうがいいですよ」などと言うけれど、これは計算づくの社交辞令に過ぎない。お菓子とかコロッケとか頂くけれど、上っ面の世間話でも有り難がってくれるのには恐縮します。「金づるだから言ってるんだよ」とまでご説明申し上げるんですけれど、前世紀的コミュニケーションが欠けている現代ならではですかねぇ。でもバーニーは本心から人々に授けようとする人物で、「エイリアン・バスターズ」より完璧。これはですね、悪く言えば変人だからにほかならない。60億も人がいるんだから、胡散臭い外見なれど、無私の人がいてもおかしくないのです。善人なのにナチに加担する羽目になる大学教授とも違い、葬儀社で人々のお世話をするバーニー。葬儀屋さんは度々映画に顔を出しますが(「ザ・ライト」「キスト」「ローマでアモーレ」)、彼にとってはまさに天職。ここで大金持ちの未亡人と懇意になる。

 

 未亡人が大女優シャーリー・マクレーンで、予想通り「不機嫌な赤いバラ」っぽかった。葬儀がきっかけで大統領夫人はニコラス・ケイジ扮するSPを自分の手元に置きますが、今回のシャーリーは典型的な金持ちでバーニーを束縛する。これが事件を引き起こすことになるわけですが、大女優のご威光をこの作品はフルに活かしている。シャーリー・マクレーンが写っていれば、世界旅行に行ったことも説得力を持つ。細かく見ているとロケーションほとんど変わってないですからね、この戦略はインディ系ならではだ。案外セス・ローゲンとバーバラ・ストライザンド共演の「人生はノー・リターン/僕とオカン、涙の3000マイル〜」も似たような雰囲気なのかな?女の子の物語に対抗する男のストーリーは案外母と息子っぽいものになっていくのか?

 

 また殺人者を告発する検事に扮するのがマシュー・マコノヒー。この人は昨年から「リンカーン弁護士」「キラー・スナイパー」ときて、「マジック・マイク」も楽しみだ。「評決のとき」の人だけに熱血弁護士が似合うけれど、「レ・ミゼラブル」すら読めない間抜けさ加減は「終の信託」の大沢たかおとは段違い。扱う案件も合衆国の裁判制度を垣間見せつつ、心情に訴えるのか?法を優先するのか?に焦点が絞られてきて監督が目をつけるのも納得です。映画は技術革新もあって、今日性を獲得しようとしている。更に方向づけをせずに観客に託すという描き方か、映像の素材提供に徹していると感じさせるものが出てきている。「ソウルサーファー」「最強のふたり」も採用していたけれど、本作も本人が出てきて“新しい仕掛け”に気づかされる。

 

現在(7/25/2013)公開中
オススメ★★★★☆ 

Amazon.com

DMM.com

 

前のページ    次のページ

 

top

 

関連作

スキャナー・ダークリー  スキャナー・ダークリー

 

 斬新な手法を敬遠して、見ないで損したリチャード・リンクレイターの近未来SF 。SF と冠がつくのは原作がフィリップ・K・ディックだからで、現代の麻薬中毒患者の日常が描かれているインディ系とも言える。「ドラッグストアカウボーイ」とか「リミットレス」で中毒者の見ている幻覚が描写されるけれど、やり過ぎるとグロ一直線になってしまう。そこで「ウェイキング・ライフ」で試みた手法:デジタル・ペインティングで、生々しさを軽減。もっとも全体がジャンキーの視点とも言えて、画面は常に揺らいでいる。「アップルシード」の時、日本のアニメって動いていなかったんだなと、モーション・キャプチャーによる躍動感に驚いたものだ。

 

 新しいものには敏感なジョージ・クルーニースティーヴン・ソダーバーグの映画青年コンビも資金調達=プロデューサーとして参加しており、出演もキアヌ・リーヴスを筆頭にウディ・ハレルソンロバート・ダウニー・Jr.、ウィノナ・ライダーと豪華だ。「バーニー/みんなが愛した殺人者」の後だけに、ラストの仕掛けに頷いてしまうんだけど、ご尊顔を拝するのが初めてのサイバーパンクの祖=フィリップ・K・ディックが語る部分は生々しい。既に我々も組み込まれている、“余地のない完全管理社会”を感じさせる描写(携帯電話の電波から位置を特定)は僅かだが、本作のポイントは他にある。是非ご覧になってご確認を。ディック原作の映画化としては「ブレードランナー」に次ぐ。
オススメ★★★★☆

Amazon.com

DMM.com

 

ホームページ テンプレート フリー

Design by

inserted by FC2 system