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ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜

   ハッシュパピー バスタブ島の少女

 

 アカデミー賞で話題になることは重要です。映画にとって“賞は宣伝”なんだから。で、いろんな映画祭に重複してノミネートされると注目度は増し、映画好きはソワソワすることになる。「君と歩く世界」と同様に2、3ヶ月ぐらい前にタイトルを目にした本作、その時情報はほとんどなかったけど、脳内に刻印。その後インターネット上では情報量が増えていって、公開されることが決定でひと安心。なぜって、ワシにヒットする作品を多く備えているインディペンデント・スピリット賞の品々は今年公開が危ういものがある。データベース(allcinema)で原題のままだとハラハラするのです。やはりオスカーノミネートは認知度を上げる効果絶大。

 

 13時間前に観終わった「リンカーン」は壮大さを期待させながら、小ぢんまりが嬉しかったスピルバーグ偉人伝。そしてこちらはぜひ「ジョーズ」を撮った監督の年までキャリアを築いていってほしい新人の野心作。“新人”って言うのも売り文句に使えるのだ。Pearl Jamのファーストアルバム“ten”を20代の若者が借りていくので、「よく知ってますね」と言ったら、「やっぱファーストだよ」とのこと。Primal Scream、The Smashing Pumpkinsが好きとはさすがだ。そう言えば東北新社の人も「新人監督の作品は凝縮してるから、楽しみ」と話していたのは10年以上前か(「アモーレスペロス」を勧められたな)。

 

 技術革新によって、予算が少なくとも見応えある作品に仕上げることを証明したのが「モンスターズ 地球外生命体」エイリアン映画にその種のものが見られ始めたのは「第9地区」の2010年くらいからでしょうか?ただ特撮が安価で予算が浮こうとも、監督に求められるのは、技術だけでなく人物描写。本作は21世紀の現状を踏まえつつ、気候変動により、いつ沈んでもおかしくないバスタブ島に暮らす人々が出てくる。危険区域に指定されている島に住んでいるので、ほとんどホームレスと変わらない。ただし資本主義の産み出す加工現実の中で、飼い慣らされている我々とは違って貧しくとも元気(「ミックマック」しかり)。もっとも貧富なんて概念がなさそうだから、幸せそうなのか。そんな島に暮らす父と娘が主人公。

 

 「海洋天堂」に似ていて“父親の余命はいくばくもなく、幼い少女ハッシュパピーが健気に生き抜く”物語だったら、アカデミー賞はOKでも、インディペンデント・スピリット賞は無理。予算が低くとも魅せる映画をチョイスするのがあの賞だけに、ハッシュパピーはタフで自然な女の子。「クジラの島の少女」「明日の空の向こうに」に出てきても文句なし。「幸せの1ページ」で無人島に暮らす女の子は芋虫だって食べちゃいますが、キャットフードを料理している。マックスもアレ食べてましたけど、なんの躊躇もなく食べようとするのは逞しい。でもそんな日常を自然は破壊してしまう。父が病を患っているにもかかわらず、自然に慈悲なんてない

 

 ほとんどホームレスしかいないバスタブ島ながら、子供たちに教える人もいる。先生(と言って差し支えないな)が子供たちに説いているのは、生存に必要な知識を物語にしたもので、ハッシュパピーに自然の化身=野獣のイメージを刻む。これがモロに宮崎駿作品に直結して、野獣が巨神兵そのものに見えてくる。「スノーホワイト」「もののけ姫」からイメージを頂いているようだし、監督のベン・ザイトリンも「風の谷のナウシカ」を見ていたのかも?

 

 アメリカ人で「紅の豚」をこよなく愛する人を一人知ってますし。ただアニミズムも込めているけれど、現実的な描写は合衆国インディ系の真骨頂で、壁に隔てられた工場地帯を眺めやる光景、避難してきた人々を収容する施設とか生々しい。もっとも工場を眺めるシーンは「終の信託」に近くて、若手監督はセリフにしてしまうけれど、周防正行は示すだけなんだよね(年期の違いです)。

 

 我が国も津波の被害にあったし、合衆国もハリケーンの被害に遭っている。壁に囲まれた人々が災害の原因という描き方はしていないけれど、資源(水)を独占していることには変わりがない。自然の怒りに火を着けるのが独占している方で、被害を被るのが自然の中で暮らしている我々の隣人・・・とは考えすぎだけど。「ザ・ロード」などが人々が期待する終末世界を描いた典型なら、より侵攻している気候変動(あるいは温暖化)を踏まえて作品世界を構築。TVも“施設に収容されてよかったね”までは映すけれど、実態が「みえない雲」みたいだったら?

 

 特撮の効果もあるから恐らくデジタル撮影されているはずだけど、新人監督ながらフィルムっぽい画面にしてくれたので、穏やかに観ることができた。この人を世に出すとはサンダンス映画祭はさすが。コーエン兄弟から始まって、「世界にひとつのプレイブック」のデヴィッド・O・ラッセルも「プレシャス」のリー・ダニエルズも「ウインターズ・ボーン」のデブラ・グラニクも。

 

 若い人の感性が素直に“今の世界”を描いて見せたところが何よりで、“自分のことしか考えられなくなった”大人たちへ苦い良薬となる。批判しても壁に囲まれて暮らしている人々は、態度を硬化させるだけだもんね。アニミズムも込めるけれど、21世紀の地球に暮らす我々に向けて描かれた観といて損はしない1本。「アナザープラネット」「マージン・コール」に驚いたのが昨年でしたけれど、インディペンデント・スピリット賞は美味しい。

 

現在(4/30/2013)公開中 
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 ククーシュカ ラップランドの妖精

 

 地雷のせいで、にっちもさっちもいかなくなった様を描いた「ノー・マンズ・ランド」より、牧歌的な戦争コメディ。それにはフィンランドの自然が一役買っていて、食堂が開かれるヘルシンキとも、放射能物質が格納される人里離れた土地とも違う。僻地には違いなく、自給自足のサーミ人が暮らす土地が舞台。時は第二次世界大戦時、ドイツ側について貧乏くじを引いたのは我が国も同様ながら、フィンランドの兵士もドイツ人の軍服着せられて、置き去りにされる。そこへ仲間にハメられたソビエト兵もやってきて、サーミ人のアンニの家で暮らすことになる。

 

 3人とも言葉が通じなくて、滑稽さを醸し出す。おまけに戦争未亡人のアンニは男日照りだったりして。彼女が披露する呪術の部分は「ヴァルハラ・ライジング」に通じるものがあり、北欧の風景は絶品だ。第二次大戦については最近もノルウェー産の「ナチスが最も恐れた男」を見て、全土に広がった戦争だったことを知る。「トロール・ハンター」など、北欧のことをウィキペディアで知っていくと、ちょっとだけ生意気な口が利けるようになり、映画も補完する良い材料になります。ノルウェー=鮭の国とか、フィンランド=ラッブランドといった古い知識に加えてね。

 

 スウェーデンは「ぼくのエリ200歳の少女」「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」で、デンマークはスサンネ・ビア(「悲しみが乾くまで」)が分かりやすく、「ヴァルハラ・ライジング」のニコラス・ウィンディング・レフンは「ドライヴ」を撮り、「幸せになるためのイタリア語講座」のロネ・シェルフィグは「ワン・デイ 23年のラブストーリー」で、もちろんフィンランドからも「アイアンスカイ」のティモ・ヴオレンソラが出ている。もっとも本作はロシア製で独特。かの国の出世頭、「ナイト・ウォッチ」のティムール・ベクマンベトフ監督はかつての敵国に渡って、大統領の映画まで撮っちゃった。映画はもともとインターナショナルなのだ。

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  TSUNAMI 津波

 

 英国TV局BBC&合衆国ケーブルTV局HBO 製作によるドラマで、2004年に起きたスマトラ島沖地震をイギリス人の目線で再構築している。悲劇に見舞われるキウェテル・イジョフォー(「ソルト」)、ジーナ・マッキー(「ひかりのまち」)の部分は見ていて辛いが、ティム・ロス(「Lie to me」)扮するジャーナリストの目にする光景、接する情報はTV局ならではのもの。チンビラ記者の方が真実に近い場合がある(「ハンティング・パーティー」)。南国と北に位置するヨーロッパとでは人を葬る方法に違いもあるが、「遺体 明日への十日間」を経ているだけに遺体収容の部分は最も際立つ。更に津波が予見されていたこと、その予想を想定内にしてリゾート開発がなされることは我々に幾つかの示唆となる。

 

 「ヒアアフター」「ソウルサーファー」でも描かれている悲劇は、涙するだけでなく、“もし自分の身に起こったら?”というイメージを蓄える役に立つ。パニック映画ではないので、“死者を糧にしてどう生き永らえるか”と自分に言い聞かせてシビアに鑑賞するしかない。自衛隊も救助に参加しており、他の国の出来事として処理せず、なぜ“我々にも起こるかもしれない”という想像がなかったか?結局“自らに降りかからないうちは、人事として片付けるという習性が人間にはある”。そのことを嫌というほど気づかせてくれる。

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