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少年は残酷な弓を射る

  少年は残酷な弓を射る

 

 「それでも、愛してる」に続いて“女性監督2本立て”の2本目は観る前に若干構えていた。というのは予告編がサスペンスタッチで、怖そうな雰囲気を醸し出していたからだ。公開されるタイミングも暑くなる時期だし、「ぼくのエリ 200歳の少女」「キスト」みたいになるのかな?と思ったらさにあらず、見応えのある21世紀に適応した家族の物語になっておりました。もちろん定番でしたら少し風変わりでも、「それでも、愛してる」のようなら安心します。ところが本作がテーマの中心に据えているのは、母と息子の愛憎の歴史。そしてその歴史の終止符は日々起こっている悲劇に結実してしまう。

 

 母親役のティルダ・スウィントンが入魂の演技で、全編を通して女として、母として残酷な宿命を背負うことになる。あの「コンスタンティン」「オルランド」では美貌を発揮して人外の存在に変身、「フィクサー」ではアカデミー賞も獲得。ジム・ジャームッシュも2度に渡り起用して(「ブロークン・フラワーズ」「リミツツ・オブ・コントロール」)、コーエン兄弟デヴィッド・フィンチャーまで引っ張りだこ(気持ちは痛いほど良く分かる)。年齢的にもお母さん役は当然ながら、富豪のマダムを演じた「ミラノ、愛に生きる」とは違った役に見事にフィットした。ふとケイト・ブランシェットだったらどうなっていたのか?とも思いますけれど、30代から50代まで違和感なく演じきっていて舌を巻く。ほっそりしているから若くも見えるけれど、老けるのもお手の物。

 

 さて母親だけではこの作品は成立しなくて、問題児の息子ケヴィンが凄い。タイトルが“私たちはケヴィンについて話す必要がある”というくらいで、彼の執拗とも見える母親への嫌がらせは尋常じゃない。もちろん「オーメン」のように悪魔の子であれば、幾分納得できるのかもしれないけれど、生んだ母親でさえ理解不能の行動はじわじわと観客にストレスとなっていく(食べ方が特にダメでした)。ただしほとんどのシーンは恵まれた家庭の美麗な画で構成されているので、起こっていただろうショッキングなシーンを観客それぞれがイメージする仕掛けになっている。

 

 この監督リン・ラムジーの手腕はなかなかだと感服ですよ(「モーヴァン」見てないんだよね)。ファティ・アキン(「ソウル・キッチン」)とかスサンネ・ビア(「未来を生きる君たちへ」)に続いて“遅ればせながら”発見した才能。また子役が成長に合わせて3人替わるんだけど、立って歩く頃の子と少年になった子は凄い。顔立ちは母親の遺伝子を受け継いでいて笑顔があれば、大人はまず間違いなく騙されてしまいそうな子たちが選ばれている。ところが子役とはいえ芝居達者で、いやーこの上もなく憎らしいやら恐ろしいやら(すぐにもメイキングでしゃべってる普段の姿を確認したいくらい)。

 

 そして核心部分に映画は収束していく。先日も合衆国で銃の乱射事件が起こりましたが、本作は邦題になっている弓で実行される。「エレファント」、「16歳の合衆国」を見ていないのは身近だと感じたくなかったからからで、若者から目を背けている証拠。もちろん店の若い人とも話しますけれど、挨拶程度のおしゃべり。そしてただの情報源にしているに過ぎないし、自分の位置(現在に即しているか?)を確認しているだけ。要は自分のために利用しているので、関心は彼らにはなく自分にある。見事我々が意識して避けている問題に、“母と息子の愛憎関係”というアプローチで迫った21世紀に必要な1本。“知っといて得”とかではなく、異常とも見える事件が起こった背景を知る手掛かりになる。

 

 ケヴィンを演じたエズラ・ミラーがなりきっていて恐ろしいけれど、彼の漏らす最後の一言は真実に近いと感じました、ぜひご覧になってご確認を。銃の乱射事件だけでなく、オウム真理教が起こした地下鉄サリン事件にも通じる気がする。それは演じている彼の表情が捕まった実行犯に似ているからかもしれない。確かに賢い子供は大人を見透かすことはできる、しかし自らの内にある衝動をコントロールすることはできない。才能発掘に貪欲な万年映画青年スティーヴン・ソダーバーグも一枚かんでいることだし、お見逃しなく。

 

現在(7/23/2012)公開中
オススメ★★★★★ 

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  ミラノ、愛に生きる

 

 「シルビアのいる街で」に物語をくっつけて、イタリアを舞台にするとこうなるのかなぁと思わせる美麗な浮気映画。浮気するのがティルダ・スウィントン扮する大富豪の夫人で、息子の同級生とイケナイ関係になってしまう。ところがなにせイタリアの大金持ちだけに、「上品さとは君、こういうことを指して言うんだよ」と宣言しているかのような格式あるお屋敷は迫力。それは食事の場面が分かりやすくて、「ジョー・ブラックをよろしく」でも給仕が音もなく贅沢な料理を運んできますが、本作は筋金入りで極上のフード・ムービー。繊維工場で成功を収めた家長が、もういかにも“昔はこういう爺さんが一家を束ねていたよな”という感じで見応えあり。フランスだとどうしてもこじんまりしてしまう。家族が集まるのは「クリスマス・ストーリー」で、繊維工場の社長は「突然みんなが恋しくて」で出てくるけれど、まるで趣が違う。

 

 マダムに扮したティルダ・スウィントン、無性的なイメージ(「オルランド」「コンスタンティン」)を覆し生々しい人間の女に変身。浮気現場が「四つのいのち」を思わせるイタリアの田舎で、エロスとはコレだよと言わんばかりの場面に目が釘付け。なかなかこういう映画は日本では難しい。ただし、高級なフードムービーにして浮気映画かもしれないけれど“余地なく固まっていく”21世紀だけに、一族の家業をグローバル企業に売り渡す場面が時代記号。コンクリートで固められたロンドン、「プロヴァンスの贈りもの」でもゼニゼニ男が活躍する街が伝統売買の舞台だったりして。結末は悲劇か?そうでないのか?はぜひご覧になってご確認を。ま、ティルダ・スウィントンがお好きなら文句なしでしょう。
オススメ ★★★★☆

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