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最強のふたり

  最強のふたり

 

 予告編は日比谷のTOHOシネマズ・シャンテだけでなく、結構いろいろなところで上映されていたから近所で観られる、とひと安心していたフランス発の感動作。もっとも近所でこの手の作品が、平日の11:43からの回で8割入っているなんて初めて。もし東京の真ん中で観るとなると「Virginia ヴァージニア」の時みたいに満員で次の回ということになり、時間を潰す羽目になるところだった。都内一館の上映ではすぐに満員になってしまう、ありがたいですよ実に。「裏切りのサーカス」と似たような観客層ながら、20代が観ても楽しめる内容になっています、だってスタートはノリノリですから。

 

 感動作だから「みなさん、さようなら」 みたいになるのかと思いきや、リュック・ベッソン・プロデュース作(「TAXi」「96時間」)に負けないカー・チェイスを冒頭から展開。そしてタイトルと共にかかるEarth Wind & FireのSeptemberが素晴らしい。このテイストは良作の保証で、「ステイ・フレンズ」とか「小悪魔はなぜモテる?!」に近いセンスでニンマリ。先進国だけにフランスも格差社会で、底辺で暮らしている主人公ドリスはアフリカ系。「パリ20区、僕たちのクラス」に出てきますけれど、移民が多く暮らす場で育つ若者は、人生の目的を見失っています(人事じゃない)。悪くすると子供のうちからギャングになったりする(「パリより愛を込めて」)。ただ子沢山の家庭に育つドリスは、辛うじてワルにはなりきっていない。演じるオマール・シーは「ミックマック」では芸達者だけど、等身大の若者に化けた。

 

 失業保険目当てで富豪の介護の面接に行くけれど、ここからファンタジーとも言える友情物語が笑い満載で綴られていきます。「落下する夕方」で中井貴一はパラグライダーが墜落して脊髄が傷つき、全身麻痺になった男を演じていた。本作のフランソワ・クリュゼも同じ原因で身体が動かなくなるけれど、顔だけの芝居が素晴らしい。「潜水服は蝶の夢を見る」のマチュー・アマルリックにしろ、過剰ではなく合衆国の作品と良い対照です(「レインマン」「レナードの朝」)。難病の人と見守る周囲の人の感動作は、21世紀になって実態に近いものになってきました。看護される人だって病人扱いは嫌だし、かわいそうという感情は日常的ではない。粗野なドリスを大富豪フィリップが気に入るのも頷ける。ドリスのお節介がまた良いところで炸裂するし、ラストはサイコーでした、ぜひご覧になってご確認を。単純に救われただけではないフィリップも友情に応えて友を導く。「エリックを探して」の情けないオヤジと違って、ドリスは威勢がいいですから弟とギャングのしがらみを断つ。

 

 笑える感動作で申し分ないけれど、さらに楽曲のセンスがたまらない。冒頭がEarth Wind & FireのSeptemberだったけど、真ん中へんでBoogie Wonderlandが使用されるところも楽しいシーン。もちろんアース・ウインド&ファイアだけではなく、クラシックも昨今使用されている例が大爆笑(職安やらCMやら)。さらに音楽担当のルドヴィコ・エイナウディのオリジナル曲は静かに染みてきて、ジョージ・ウィンストンを思い起こさせる。曲に合わせて静かに描かれるパリがまた絶品で、「SHAME-シェイム-」にだって引けを取らない。頑固ジジイと移民のお話「グラン・トリノ」に近いけれど、テーマの友情がなんとも清々しい。ミニシアター系だって平日に地方のシネコンを、人で一杯にできることを証明していて感動。ラストは昨今のお約束ですかねぇ(「ソウル・サーファー」「誰もがクジラを愛してる。」 )、本人たちがチラッと映っているんだけど、これもやり過ぎていなくて映画発祥の国フランスの心意気か?

 

現在(9/3/2012)公開中
オススメ★★★★☆

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 みなさん、さようなら。

 

 人の最晩年を明るく捉えた上質な感動作。グッとくるところより笑えるところ、学べるところが多々あって侮れない。フランス語だからかの国が舞台と思いきや、カナダはモントリオールの病院から物語は始まる。余命わずかの父のもとに、ロンドンから“仲のよろしくない”息子が母に請われてやってくる。ロンドンにいるんだから現代のヒーロー=証券ディーラーで、金を持ってる典型的な“功利主義者”(「プロヴァンスの贈りもの」)。それにしてもカナダの病院(たぶん公営)は野戦病院のようで、病人の寝ているベッドが廊下に延々と続いていて驚かされる。合衆国の人々が薬を買いに行く国なのに(「ラブ&ドラッグ」)、金さえ払えば医療先進国(「シッコ」)に見劣りする施設の原因は組合にあるよう。ただしカナダ医療の現実を訴えるのが映画の目的ではないから控えめ。

 

 疎遠だったけれど、父のために息子はあれやこれやと手を尽くす。証券ディーラーだけに金の使い方は、キレイ/汚いを抜きにして知っている。父の教え子を呼んできてアルバイトさせたり、先端医療の場にも友人がいるから認可されていない処方を試したり。友人の勧めでヘロインを使って痛みを和らげようとするけれど、どこで手に入るかを警察に行って聞くのはマジなのか笑いなのか。背景に“9.11”が刻まれていて、時代記号になっている。2012年の今となってはだけど、2003年の作品だから意味を込めるのは難しかったか?証券ディーラーが始終パソコンを抱えてパチパチ叩いているのはまさに21世紀ながら、CRTが使われていることで時代を感じるんだよね(IT機器は変化し続けている)。

 

 脇役の息子も良いけれど、主役の頑固なスケベ・ジジイがたまらない。献身的な息子をつかまえてあいつは資本主義者、俺は社会主義者と豪放な大学教授。この手の人の話なら何時間でも聞きたいし、持ってる知識や知恵を引き出したい。自慢ばかりの無駄話より遥かに役に立つ。博識ながら辛辣で、白人がどれだけ新大陸で人を殺したかなんて開陳。でも好感を持てるのはスケベ根性で、文化大革命の意義云々ではなく、その時出会った東洋の美女のことを熱く語る。奥さんも諦めているのか愛人がやって来る、ゲイの友人がローマから駆けつける。死を目前にしてホントの友人が集ってくるこの人は幸せだ。ふと寝入ってしまった時、周りのみんなが“逝ったか?”という表情を見せるシーンが絶品。

 

 もうホントに真剣に向き合わなくちゃなんない人間には必ず訪れる瞬間で、書いといてくれれば家族はまだ何とか乗り切れる(「ファミリー・ツリー」)、でもパワフルな権力者だった場合は手も足も出ない(「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」)。言語がフランス語だったからか、乾いた家族の関係は「クリスマス・ストーリー」にも通じる雰囲気。畳の上(自分の家)では死ねない21世紀(「WIN WINダメ男とダメ少年の最高の日々」)に自分を自分として分かったまま逝く頑固じじいの物語、素晴らしい。
遅ればせながら×5
なお参考までに「海を飛ぶ夢」「突然、みんなが恋しくて」もどうぞ。
オススメ★★★★★

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