関連テーマ

サイドボックス

ここにテキスト


出し

終の信託

終の信託  終の信託

 

 媒体の露出頻度は上がっています、車吊り広告でも主演女優=草刈民代の名前を目にするし、テレビドラマ(「眠れる森の熟女」)にまで出ていて宣伝効果は抜群。それにしてもNHKで“熟女”と名のつくタイトルにお目にかかるとは。劇場でも予告編が長期にわたって上映されていて、「アウトレイジ・ビヨンド」も宣伝戦略が功を奏してのヒット(まだ効果は持続しています)だから当たりそう。今までどちらかと言うと非主流だったものも合わせて、今年の日本映画は勢いづいている。あくまで店で見ていてのことですけれど、女子高生には「悪の教典」を勧められ、ちびっ子は「宇宙刑事ギャバン」を見たんだと嬉しげだ。

 

 ただ作り込んであるサイトも、高い媒体の露出頻度も、すべて多くの人々に劇場に足を運んでもらうための営業努力。戦略を練っているのは製作の亀山千広かもしれない。売れっ子が表の顔ですけれど(「踊る大捜査線」「海猿」「テルマエ・ロマエ」)、周防正行監督作品を3作手がけているし(「それでもボクはやってない」「ダンシング・チャップリン」、本作)、「LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語」の姉妹編「JAPAN IN A DAYジャパン・イン・ア・デイ」 などが控えていて楽しみ。合衆国のジェリー・ブラッカイマー と似たようなお仕事をしている。この人の履歴をたどって見ていけば、当たり確率は高いでしょう。日本のプロデューサーって角川春樹とか奥山和由くらいしか知らないもんな。

 

 さて肝心の中身ですけれど、ズシンときます。帰る道々考え込んでしまいましたし、監督が意図しているのもソコではないかと推察されます。解答なんてまずありえない問題で、観客それぞれに響く内容。しかしヒントは散りばめられていて、わたくしめの場合は“家族に決断できるものが必要だ”と“一筆書いておこう”を肝に銘じました。そして周囲にも「もしもの時のために書きましょう」と触れて回ることになった。どうしてかはぜひご覧になってご確認を。人の生死と取り調べの二つの場面で展開する物語はとことん現実を模しているかのよう。「私の中のあなた」でも医療行為を裁判で決着をつけようとしますが、「わたしを離さないで」 と似ていて、生々しく描かれた医療の現場は、観客に他人事と思わせる余裕を剥いでしまう。ただしあくまで見舞い客の視点で観ていますので、入院経験のある人、医療に従事している人には違って見えるはず。

 

 主演の草刈民代は完全に医師になりきっていたし、彼女のキャラクターを補完するために浅野忠信が、いい加減な男を演じていて息抜きになった(見たことなかったからね)。もちろん宣伝では「Shall weダンス?」以来の共演とされた役所広司も迫真の芝居で、見ていて痛々しい。ただし役所広司演じる江木泰三の最期が、物語を別の場面に移行させる。“あれ?”と違和感を覚えたシーンは、いよいよ生命維持装置を外す時になって、泰三が蘇生したかのように暴れだすところ。医療関係者は見慣れていても、あっけにとられつつも素人の目には理解を超えたものに映る。そして物語はより現実的な司法の場へ。そこに登場するのが大沢たかお演じる塚原検事で、一身に法の側にいる人間を体現。「ICHI」 くらいしか観ていないので、優しい印象しかないけれど凄かった。法に則って追求するけれど、時折人間らしい表情も見せ、それが計算づくなのかもしれないと思わせる。

 

 観ている時は医師折井綾乃を徹底して追求する検事に怒りを覚え、「HERO」なんてページから削除しちまおうとまで頭に血が上る(本作が実態でしょう)。ところが劇場を後にして道々考え込んでしまうのは、検事は絶対に退くことが許されないのだということ。もし引いてしまえば歯止めがきかない事態が招来する(「闇の子供たち」)。本人や家族の同意なしに安楽死が許されてはならない。そして同時にいかに優れた精密機械(司法)であっても、答を導き出せない場合がある。司法の場へ物語が移行する背景には、マスコミ被害もあっただろうけれど、それでは焦点が絞り込めないし、描いた作品は多々ある(「誰も守ってくれない」)。真剣に考えずに先送りにしていることは山のようにあるし、エライ人任せにしないで背負わないでどうすると身に染みます。「ダンシング・チャップリン」から間をおかず製作されているのは、東日本大震災の影響があるのでしょう。医療、司法だけでなく映像は多くを語っていて、煙を吐き出す工場とそれを眺める喘息患者。

 

 森田芳光監督の「39 刑法第三十九条」に相当するかも?と思っていたらやはりだった。それはフイルムを使っての撮影だからかもしれない。園子温(「恋の罪」)や堤幸彦(「MY HOUSE」)はデジタルに移行していますが、映画監督周防正行の真骨頂ですね。テレビと差別化するためにもあの画はどうしても必要。多角的に観ることができるし、何年か経ったあとに見ても発見はある時代記号が刻まれている。映画の機能“伝え、残す”は十分に備えている。それは「シコふんじゃった。」を見てもハッキリしている。うつ病を扱った「ツレがうつになりまして。」「それでも愛してる」を比較すると分かりやすいですけれど、洋の東西で描き方は違ってくるし自国のモノの方がしっくりくる題材がある。今の日本に必要不可欠な傑作でした。

 

現在(10/30/2012)公開中
オススメ★★★★★

Amazon.com

DMM.com

 

前のページ  次のページ

 

top

 

関連作

  シコふんじゃった。

 

 主演女優清水美砂にこのタイトルを言わせるための映画だったのでは?と思ったのは今(2012年)を去ること21年前。ところが本作も見直すとわかる傑作の一つ(「マイノリティ・リポート」)。スポ根の要素もあるけれど、周防正行の日本人観は鋭く(留学生力士スマイリーが代弁)、後の「バブルへGO」で描かれた当時のアホらしさも込められている。荻上直子はかなり勇気を得られたのでは(「恋は五・七・五」)。「ヤバい経済学」のはるか以前、外国人力士がまだハワイ出身者だけの時代に、国技=相撲が外国人にどのように捉えられているかを冒頭から語る(ジャン・コクトーの言葉がまさに)。テイストはもちろん森田芳光にも通じる、古典的日本映画を踏襲しつつ、テレビ漬けの若造どもにも鑑賞可能な味付けがなされている。キャストは竹中直人、柄本明を筆頭に「Shall weダンス?」 に継続されている豪華さ。以前は本木雅弘が主役に見えたけれど、中年の今となっては柄本明が主人公に見えてくるから凄い。
オススメ★★★★☆

Amazon.com

DMM.com

top

 

  ブラック・ジャック KARTE4 ふたりの黒い医師

 

 ブラック・ジャックのOVAで最も見ているエピソードがコレで、天才外科医の輪郭を際立たせるドクター・キリコが登場。金で動くという点では一致しているけれど、安楽死を請け負うキリコとブラック・ジャック先生は対極に位置する。原因不明の拒食で絶体絶命の女優を救うため、第一次世界大戦まで遡って真相を追究する天才外科医。死生観は違えども、核心にキリコが導くところがこのエピソード最大の魅力で、彼も医師なのだというシーンが印象に残っている。女優が撮影している作品の監督が、どこから見ても黒澤明で、ニヤリとしてしまう。またラストに映画館でぐうぐう寝ているブラックジャックを見て、ピノコが「しょーがねえなあ」などと言ってしめるのはいかにもTVアニメらしくて、今では貴重品かも。 
オススメ★★★★☆ 

Amazon.com

DMM.com

ホームページ テンプレート フリー

Design by

inserted by FC2 system