関連テーマ

サイドボックス

ここにテキスト


出し

人生の特等席

人生の特等席  人生の特等席

 

 「声をかくす人」を観に行って、“銀座テアトルシネマ閉館”を知りガックリしたけれど、お客さんに慰められた。「知らないうちになくなっているよりいいじゃない」確かにごもっとも。その時「ロバート・レッドフォードは最近あんまり出ないから、映画に映えるかどうか分からないけれど、クリント・イーストウッドは続けて出ているからねぇ」などと話していた。「グラン・トリノ」が最後の出演作かと思いきや、健在な姿を拝むことができてラッキー。監督としては衰え知らずで、今年は既に「J・エドガー」があった。不思議とこの人の映画には勇気づけられて(「フェアゲーム」の時)、“家族の絆”の物語なのに、スポ根映画のノリまである贅沢な本作を観ると、映画館通いが止められない。

 

 実年齢からすると、とっくに引退していそうな御大ながら、引き際迫るスカウトをキッチリ演じているのに舌を巻く。監督としてもスターとしても認知されているけれど、演技派とは呼ばれない俳優クリント・イーストウッド。ところが実に上手いのだ、小便は思うように出ない、テーブルの端には足をぶつける、車庫から車を出そうとしたらヘコませる。年取りゃあ当たり前の事ながら、ちょっとでも芝居じみた動作だと、途端に惨めなシーン。ところが“ジイさんやっちゃったね、黙って直しておいてやるか”という気になる(バレたら怒られるから)。似たようなことを察しているのがジョン・グッドマン演じる仕事仲間のピート。長い付き合いで娘も知っているから、エリート街道驀進中の疎遠な娘ミッキーに、親父を見ていてくれと頼む。ただでさえ父と娘は歯がゆくなるのに(「somewhere」)、この父娘は果たしてどうなるか?

 

 ピートを演じたジョン・グッドマンは出演作の絶えない人で(「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」「アーティスト」「アルゴ」)、過去に重要な野球人ベーブ・ルースまで演じている(「夢を生きた男/ベーブ・ルース」)。意外とクリント・イーストウッドに野球映画は見当たらない。そして娘に扮したエイミー・アダムスは着実にキャリアを築いていますな。「ザ・ファイター」みたいな役もできるけれど、「魔法にかけられて」の人ですから、可愛らしさの残るキャリア女性も見事にハマる。そして彼女と微笑ましい関係になっていく元選手のスカウトがジャスティン・ティンバーレイク。「ソーシャル・ネットワーク」の時はまさか本気とは思わなかったけれど、「ステイ・フレンズ」なども上手いし、ひょっとするとマーク・ウォールバーグとかウィル・スミスみたいになっていきそう。

 

 ベースボールと“父と娘の関係”を絡ませて描いた「マネーボール」がちょうど1年前ですが、本作はデータ偏重主義を否定しているとは思わない。パソコンを使うか否かの違いで、実はやっていることは変わらない。ブラッド・ピットアチラはただ“まだ試していなかった方法”の一つ。新聞を山のように積んで情報収集、実際に球場に行って選手を見極める。高性能なコンピュータを人間は既に“頭の中に一個持っている”ので、パソコンを使うことはただの外部化。それが分からないと、実に不便な人間になってしまう(だいたい情報量は足りないしね)。これは持論ですけれど、“機械が不便だと使う側の人間が便利になり、機械が発達すると人間が不便になる”。便利に見える機械に見事操られている、ジジイを追い出そうとしている野心家フィリップ。演じるマシュー・リラード(「ファミリー・ツリー」)は、“ドラフト一位が確定のルーキー”を演じたジョー・マッシンギルともども実に美味しい悪役。最後にカマされるんだけど、そこは痛快で、ぜひご覧になってご確認を。タイトルが“TROUBLE WITH THE CURVE”だけに。

 

 ベースボール映画の側面もありながら、父と娘の絆も物語に込める。ずっと見てきたクリント・イーストウッドだけに、お墓の前で亡き妻に語りかける姿に泣けてきた。さらに友情の物語でもあるし、デートムービーの側面もある(親父が公認の相手だよ)。4人の主要人物で盛り沢山な要素なのに、スッキリ見ることができるし景色も綺麗だし。昨今の至れり尽せりの過情報作品に接するとグッタリするけれど、ラストなんかガッツ・ポーズまでしてしまう感動作なんて最近お目にかかれない。「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」「ソウルサーファー」を抑えて本年度ナンバーワン。この作品で監督デビューを飾れるロバート・ロレンツは幸運だし、巨匠の仕事を継承しているから次回作が今から楽しみ。

 

現在(11/26/2012)公開中 
オススメ★★★★★ 

Amazon.com

DMM.com

 

前のページ      次のページ

 

top

 

関連作

   夢を生きた男/ザ・ベーブ 

 

 「人生の特等席」でも得難い脇役のジョン・グッドマンの主演作にして代表作。演じるのは伝説の男ベーブ・ルースで、幼少の頃から引退までを115分でスルスルと見ることができる偉人伝。知ってるエピソードは“予告ホームラン”くらいだけれど、素行不良で感化院に無理矢理放り込まれたりする幼少期があったとは。そこで彼の世話をする神父さん役で、ジェームズ・クロムウェルが出てくるんだけど、後に子ブタの映画「ベイブ」主演で、ジョン・グッドマンとは「アーチスト」で再共演なのでニンマリ。天才だけにフツーの人間からは“呆れた野郎”で、二日酔いでもホームランをかっ飛ばす。社会性は皆無で下品な一芸(屁こき)があったりと、大人は顔をしかめるけれど子供たちには人気者。ま、精神年齢が近いからに過ぎないけれど、病床の少年のために打つ本塁打はやはり彼を伝説にしてしまう。

 

 映画のお楽しみはそれだけではなくて、冒頭のヤンキースタジアムを俯瞰でとらえた映像はなかなかに見ごたえアリ。さらに禁酒法の時代を生きているから、なんとアル・カポネ(「アンタッチャブル」)と遭遇したりして。合衆国ベースボールの黎明期を知る映像資料にもなって、打者だけでなくピッチャーまでしていたとは驚き。もっとも野球を取っちゃうとダメ人間で、せっかく結婚してくれた奥さんを夜遊びが元で・・・。中身が子供だからお詫びの仕方がピーター・セラーズとよく似ている。やはりしっかりした奥さんでないと社会性のない男はダメみたい(「レイ/Ray」)。破天荒な人物だし、彼の辿る運命は悲しいのか?それとも当然か?はぜひご覧になってご確認を。もっともその辺のレンタル屋にないんだよな。
オススメ ★★★☆☆

Amazon.com

DMM.com

ホームページ テンプレート フリー

Design by

inserted by FC2 system