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SHAME-シェイム-

SHAME-シェイム-   SHAME-シェイム-

    

 「ハンター」の時にスティーヴ・マックィーン版ウィレム・デフォー版が出来たかと思ったけれど、今度は往年の名優と同名の監督が出てきちゃった。関係ないけれどその名に恥じない実力の持ち主。ダンカン・ジョーンズ(「ミッション:8ミニッツ」)の上品さがあり、ヴィム・ヴェンダース(「パレルモ・シューティング」)に及ばなくとも、「ブロークン」のショーン・エリスに負けない映像は素晴らしい。固定された画面が多くて雰囲気を楽しめるところなどは「シルビアのいる街で」 みたいだ。

 

 前日に観た「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」と同じ製作会社だけに英国が舞台かと思いきや、主人公はニューヨークに住んでいる。描き方は人それぞれで(「ニューヨーク、アイラブユー」)、ジム・ジャームッシュ、スパイク・リー(「セントアンナの奇跡」)だけでなくロバート・デ・ニーロだって地元。観光名所を抜きにして、危険地区(「クロッシング」)を避け、名物も出てこないと、ただの無機質な都会に変身。で、運良く被り物ヒーロー「X-MEN ファースト・ジェネレーション」で悪役を演じたマイケル・ファスベンダーが演じる主人公は、とことん虚しい消費を続けている。

 

 予告編で“セックス中毒”と出てたけど、とにかく冒頭から本来“生産”であるはずのSEXが“排泄”になっている。かつてスティーヴン・ソダーバーグのデビュー作「セックスと嘘とビデオテープ」は衝撃的だったわけだけれど、もっと進んでしまったわけだ。IT関連(たぶん)の仕事が上手くいって、金持って、何不自由ないけれど、やってることはただの消費。パソコンのハードディスクにエロ画像満載とか、「アメリカン・サイコ」の時代までだったら笑い話になりそうなのに、ちょっと違っている。「テイカーズ」などを見ると商売が上手くいってる犯罪者が、デザイナーズマンションに住んでいるけれど、まっとうな仕事をしている割には変な日常を送っている堅気もいる。

 

 そこへキャリー・マリガン扮する妹が居ついて、主人公ブランドンの日常が混乱し始める。「17歳の肖像」で未完の大器だと感じましたが、英国出身の新人女優は確実にステップ・アップ。昨年の「わたしを離さないで」は後々代表作になりそうですけれど、本作では上手いか下手かはいまひとつ判然としない歌まで披露。歌っている姿を延々と真正面で捉える画は昨今貴重かも。ただ混乱を招き寄せる妹の登場は、兄に変化を起こさせるんですけれど、展開を急がない。この辺が監督の持ち味で、雰囲気のある映像を大切にしたかったのか?

 

 もちろん雰囲気だけでなく、ブランドンのキャラクターをうかがい知る部分もある。職場の女性を誘ってのまともなデートがそれ。ニコル・ベーハリー演じるマリアンヌはなかなか魅力的で、食事のシーンがごく普通なれど素敵に映る。セックス中毒といってもまともに女性を誘って、まっとうな食事、まっとうな会話が出来る。ところがいざ本番となると・・・。ここでテーマが“愛の不在”と納得できるかもしれないけれど、定かではない。

 

 寸止めというかなんと言うか、「ガールフレンド・エクスペリエンス」などが出てきているから、単純に“性の乱れ”とか“虚しい性の消費”だとかを、才能のある新人監督が描くとは思えない。手掛かりは確かに映画の中に込められているけれど、現代人の空疎さを赤裸々に描くのでもなく、観客に想像させたかったのでは?「ツリー・オブ・ライフ」を見て激怒していたお客さんがいたけれど、解釈の仕方は人それぞれになったっていいんじゃない?といった作品には好印象です昨今。少なくとも映像も含めて雰囲気は完全にストライク・ゾーンだったし。

 

現在(3/23/2012)公開中
オススメ★★★★☆ 

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  恋の罪

 

 堤幸彦が「MY HOUSE」を撮るのも納得の、園子温による日本を鋭くエグる衝撃の1本。テアトル新宿で観とけばよかった素晴らしいものながら、「冷たい熱帯魚」も宣伝でビビッてしまったのだ。北野武を観るくせになぜかこの人はスルーしてしまう。でも「時効警察」で実力は知っていたから、巡り会わせって言うのか損をしたことには変わらないけれど・・・。借りていくのはほとんどが女性ながら、皆さんさぞや驚かれるでしょう。“今の世の中、自分を大切にしなくちゃいけませんよ”などと言うメッセージよりよほどストレートに効く。“東電OL殺人事件をモチーフに”といったイントロを目にした途端、スマート・フォンでそのデータを頭の中にインストールして映画に臨むわけだけれど、この作品が描いているのはより広範囲に及ぶ。単純に事件を追うのではなく、そこから現代の日本が浮き彫りになっていく。村上龍の「トパーズ」 や「ラブ&ポップ」以降の情報が更新されていない現在に必要なもの。

 

 冒頭水野美紀ちゃんのヌードから始まるわけですけれど(「ガメラ2」のあの娘もとうとう・・・)、彼女は刑事で呼び出されて現場に急行。ジトジト降りしきる雨の中はまるで「ブレードランナー」のよう。そして殺人現場はモロに「セブン」を思い起こさせる異常な光景。意識しているとしたら映画監督園子温はさすがです。エポック的作品に日本でアプローチするとしたらこのような描写になる。女刑事が猟奇的殺人事件に深入りしていくという内容ですと、桃井かおりの「女がいちばん似合う職業」がありますが、あれは80年代の新宿で本作は90年代の渋谷。都内に2002年の頃住んでいたから渋谷センター街の入り口付近に、薬を売ろうとしている外国人はけっこう目にした。円山町にはなにせオーディトリウム渋谷(最近は「第九軍団のワシ」)に行くたびに周囲をうろうろしているわけだけれど、昼間だから白けたラブホテル街以外の印象はない。それにしても、自分がうろついていたすぐ近くで起こっていたこととは。

 

 店の2階のアダルトコーナーに行けば、現代日本がどれほど呆れ果ててものが言えない状態になっているかは切実に感じる。常態化すれば麻痺してしまうかもしれないけれど、パッケージ見ただけで、笑っちゃうくらい“常軌を逸している”と感じるものは多々ある。なにせAVのくせにエロスを感じさせないんだから。衝撃作を撮る監督の感覚はものすごく醒めていたり、モラルがやけに強固だったり、しっかりした価値観の持ち主。普通の人が言い出せないことをズバッと言い切ってしまう。“bitch”に相当する日本語がないことも露にしている。ま、レンタル屋で長く働いていますから、なんであんなに可愛い女の子たちがAVに出るのかは知っている。ほとんどが借金返済のためで、完済されば引退(でも孫の代まで祟ります)。ただし10年位前からそれだけでは説明できないケースも増えてきたことは間違いなくて、その一端をこの作品は垣間見せている。タイトルが全てを物語っていて、どんなに理屈をつけても、ロマンスかもしれないけれど罪は罪。

 

 観賞後に周囲の景色が変わるということでは「トゥルーマン・ショー」「デイブレイカー」に通じる。でも外国人から見ても分かるように、“日本の真の側面”に触れるとなるとこれが最良の題材でしょう。せっかく前日に「宇宙戦艦ヤマト2199」で少年時代の興奮に浸ったのに、よりにもよって日本の真実に触れちゃった。園子温の傑作「恋の罪」は久しぶりに頭をガツンと殴られた衝撃がある。出演している面々もさすがで、「犬、走る DOG RACE」以来の冨樫真は迫真の役作り。若い男の俳優さんたちはそろいも揃って今風でエライ。テレビドラマの俳優に通じますけれど、ツルっとした表向きの好印象ってポン引き以外に見えてこない。なお2011年に閉館してしまったシネセゾン渋谷 の看板が映っているのは嬉しい。
オススメ★★★★☆

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