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砂漠でサーモン・フィッシング

  砂漠でサーモン・フィッシング


 欧米の人間が中東を描いた映画は衝撃的なものになりやすい。アフガニスタンでは戦闘が継続中だし、イラク誰かさんのおかげで壊滅的になったし、イスラエルでも宗教対立は深刻。イランなんて革命の時代に遡ってCIAの極秘作戦を題材にしたものまである。ウィキペディアによるとカザフスタン、スーダンソマリアグルジアまで中東と解釈できるんだそうで、この中でカザフスタンくらいですかねぇ、笑いが起こる作品にお目にかかったのは(サシャ・バロン・コーエンって凄い)。映画で知る限り“しょっちゅう戦争しているな”と印象づけられる。本作のイエメンもまたしかり(「英雄の条件」)。もちろん荒っぽいことばかりではなく、地元の人が描けば庶民生活は、宗教を除いて我々とは変わらない(「別離」)。

 

 もっとも一般的な中東のイメージは政情不安で紛争が絶えない。残念ながら実態も当たらずとも遠からずで、“うちの国の政治家もそれに加担しているんじゃないの?石油出るしさ”と思われているのはマズい。よってイメージ・アップ戦略のためにも、何かネタはないかと探していた宣伝屋さん(政府PR担当)が目をつけたのが、“大金持ちがイエメンの川に鮭を泳がせようとしている”という企画。国家元首が頼りにしているだけあって、お役所に絶大な権力を振るうことができる宣伝屋さん(「アイアン・スカイ」)。ハナからやる気のない学者にしてお役人の尻を叩いて、企画を強引に進行させる。それもこれも人々の政府に対するイメージ向上と、“清き一票”獲得のため。

 

 企画は既に進行していて、大金持ちの依頼を受けるのは投資コンサルタント。ロンドンには金が集まる、連合王国は不動産を持つには最適らしく、城まで持っている大富豪。地面から金(石油)が溢れ出る、恵まれた者の思いつきは“川で鮭を釣りたい”。真意はかなり誠実なんだけど、周囲の理解は“ただの趣味だろ”という程度。学者がハナからやる気のないのも当然ながら、実際に富豪に会って、投資コンサルタントと仕事をしているうちに・・・。でもさ、高いビルを建てるよりははるかにマシな思いつき(「009 RE:CYBORG」で吹っ飛ばされてた)。確かアチラの宗教では、高い塔 を建てたりすると天罰が下るんじゃなかったっけ?

 

 学者がユアン・マクレガーで、投資コンサルタントがエミリー・ブラント。ユアンは今年だけで3本お目にかかりましたけれど、どれも似ているようで、ちょっとずつ違う芝居なのがミソ。それにしても「トレイン・スポッティング」のケリー・マクドナルド以来、美女との共演記録更新中で羨ましいかぎりですな。ナタリーニコールメラニー美人格闘家007運命のひとエヴァ・グリーン(「パーフェクト・センス)。妻がありながら仕事に没入、同僚にして隙のない美人に傾いていく。エミリーもやり手のコンサルタントがピッタリで、似合っていたコスプレのイメージからは脱したか?来月には「LOOPER/ルーパー」があるし、ダメな女の子役からSFロマンスものを経て、三角関係に揺れる現代女性(「憧れのウェディング・ベル」でもハマっている)に変身。一方は同僚の学者で、もう一方はアフガニスタンに派遣されている兵士。アフガニスタンで行方不明になると、残酷な運命にさらされるわけですから・・・。果たして2人の仲はどうなっていくのか?

 

 清々しい恋模様と富豪の誠実な思いつきが進行する実話ネタながら、笑いの要素が実に小気味よくまぶされている。一身に引き受けているのが宣伝屋さんを演じたクリスティン・スコット・トーマス。有名どころは「イングリッシュ・ペイシェント」ですけれど、こんな彼女は初めて。不死身の女も、黒幕も、ジョン・レノンを想う叔母もピタリとはまりますが、コケにされるのがありありと分かる政治家の手下が嬉しそう。「ロック・オブ・エイジズでもキャサリン・ゼタ・ジョーンズが嬉々として演じていましたけれど、世間の期待(「サラの鍵」とか)をスカしたかったんですかねぇ。彼女と首相のやり取りが、パソコン画面上の“メールのやりとり”のみというのが実に時代記号。

 

 全体的に「主人公は僕だった」を連想させるのは、画面に浮き出る文字のデザインだったりもしますけれど、堅物な主人公と英国演技派(アチラはエマ・トンプソン)の人物配置かもしれません。牧歌的なイメージは初期の「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」からくるもので、監督のラッセ・ハルストレムはきちんと時代に対応しているし、違和感がない。日本のTVドラマを見ていて一番“ちょっと違うんじゃないの?”と思うのがITに関している部分で、もはや生活の一部だから欠いてしまっては前世紀の映画と間違えてしまう。それは中東のイメージもご同様で、政情不安で紛争が絶えないという映画ばかりでは・・・。こんなに清々しくて、帰る道々owl cityを聴きながら足取りも軽くなる体験は実に得難い、ぜひご覧になってご確認を。ラッセ・ハルストレムの作品は「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」以来で、好きなんだけど、毎回スタイルが違うし、なぜか荻上直子 みたいに最優先にならないんだよね、巡り合わせって言うですかねぇ。

 

現在(12/13/2012)公開中
オススメ★★★★☆ 

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関連作

    憧れのウェディング・ベル 

 

 「砂漠でサーモン・フィッシング」でも成長した姿が拝めまずか、エミリー・ブラントの実力と魅力を堪能するなら、間違いなくこの恋愛超大作がオススメです。なんで恋愛映画なのに超大作なのかというと、時間をかけてじっくりと男と女が描かれております。「恋人たちの予感」は間を空けて出会うふたりですけれど、本作は婚約したカップルのクロニクル。タイトル“THE FIVE YEAR ENGAGEMENT”の通り、5年の長きに渡り様々な出来事が主人公に起こる。近いのは「フォー・ウェディング」ですけれど、あれは“4つの結婚式と1つのお葬式”を経て主人公たちが結ばれていきます。完全主義者と言えば聞こえがいいですけれど、思い切りがないのが主たる原因。

 

 とはいえ見ている人がもどかしく思わないような、説得力のある出来事(結婚の障害になる)が次々に起こります。ぜひご覧になってご確認を。「エージェント・ゾーハン」の脚本家ジャド・アパトーが1枚かんでいるとは思えない。下品な笑いもかわし、まるで50/50 フィフティ・フィフティ」のような描き方で、「マイファミリー・ウェディング」っぽい展開も含みデートムービーとしても成立している。「アメイジング・スパイダーマン」ではトカゲのお化けになりましたけれど、「ヒューマン・ネイチュア」のリス・エヴァンスもジジイ扱いなんだねぇ。
オススメ ★★★★☆

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   サラの鍵 

 

 「黄色い星の子供たち」でも扱われた“ナチに加担したフランス”を、別の角度から追ったミニシアター系の秀作。メラニー・ロランが鬼気迫る演技を見せる実話とは違い、時折美しい風景を込めることができるのはフィクションの強み。また狂言回しかと思われたクリスティン・スコット・トーマスが、真のジャーナリストを演じるのも魅力の一つ。進攻したナチに協力したフランス警察はユダヤ人を次々に検挙、競輪場に閉じ込める。あまりに酷い様は「黄色い星の子供たち」でも描かれているので、本作では時間を割きませんけれど、出来ることなら蓋をしておきたい事実。物語は第二次世界大戦時と現代を交差させて描く。弟を納屋に隠し、鍵をして閉じ込めたサラ。彼女は命懸けて収容所を脱し、弟のためパリへと向かう。一方の現代はクリスティン演じるジャーナリストのジュリアが、記事にするため当時の証言を集めている。人々が“思い出したくない過去”を聞いていくうちに、自分が引っ越そうとしている夫の実家が実は・・・。ぜひご覧になってご確認ください。

 

 タイトルにもなっているサラを中心に描くだけでも重要な作品になったでしょうけれど、現代を交差させたところに真骨頂がある。劇中ジュリアの若い同僚が発するセリフは我々も口にしそうなもの。歴史を知ることはできても、“自分にいつ起こっても不思議ではない事”として実感するのは容易ではない。この作品の構造が素晴らしいのがココで、悲惨な出来事だけを描いてしまっては、観客の心理がすぐに“他人事として非難する側”へとシフトする。第二次世界大戦も遠く離れた惑星の歴史ではなく、地続きなのだと身に染みる。また知ろうとすれば代償を払うことになるジャーナリストの生き様を、クリスティン・スコット・トーマスが体現していて文句なし。記者だけでなく、40代で妊娠する現代女性をも演じきっていて、彼女に期待される役柄がまさにこれ。「砂漠でサーモン・フィッシング」がマレなのです。
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