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レンタネコ

  レンタネコ

 

 海外に行っていた荻上直子が帰ってきたと感じる新作「レンタネコ」。「トイレット」はバーちゃんが亡くなるところで終わり、亡くなったおばあちゃんを仏壇に奉っているサヨコが主人公。もたいまさこが出ていないけれど大丈夫か?と思いきや、「めがね」にも登場の市川実日子がキッチリ主役を担っている。もちろんタイトル通り猫も主要キャラクターの座を占めているんだけど、恐るべき自然さで作品世界に没入。「トイレット」のセンセイは演技賞をあげたいくらいだったけど、今回大量出演の彼らは背景に徹していて凄い。動物は飼ってないけれど、実家に猫が棲みついていた時期があったから、どちらかと言えばネコ派(村上春樹のファンだったし)。「映画に愛をこめて アメリカの夜」が分かりやすいですけれど、犬に比べたら融通の利かない動物です。ところが画面の外で取っ組み合いしているのがいたりと、猫好きはたまらんでしょう。

 

 もっとも猫を中心に据えた動物感動作ではなく、21世紀の日本を切り取った素晴らしい1本。「めがね」は食物を主役にするため人間を背景にしたけれど、猫を背景に今回は人間を描いている。4つのエピソードを順に語っていく形式で、それぞれ現代日本のどこにいてもおかしくない人々が登場してくる。各人に共通しているのは、心にポッカリ開いた穴を持っている。無理やりカテゴライズすれば“寂しい人”。“穴を埋めるために猫をお貸しする”という商売をしているのが主人公で、おばあちゃんを亡くしているんだから、サヨコにも穴が開いている(ワシも去年亡くしたから良く分かる)。最初の客があの「Shall we ダンス?」のたまこ先生=草村礼子で、次いで「めがね」 にも出ていた光石研。ずいぶんと大胆なセリフが風通し良く、もう長くないから猫を飼えないと嘆く人には「安心して逝っちゃってください」とか、加齢臭きつくて娘に邪険にされると嘆く中年には、「この子はキツイ臭いが好物」とか。光石研の登場シーンなんか入魂の情けなさで爆笑。

 

 “腫れ物に触るような用心深いセリフ”で構成された主流の日本映画(仕方ないけどね)や、類似品にはない荻上直子のストレートな魅力の1つ。彼女の作品は模倣できないことの良い例が、大人向けファンタジーにすら見えても、浮世離れしていない(うそ臭くない)設定を用意。ガキどもに“ネコばばあ”などと呼ばれるサエコには生活を支える裏稼業があったりして(そこも笑いを支える重要なパート)。「エリックを探して」「幸せの教室」に全然引けをとらない。またオムニバス形式にエピソードが綴られていくかと思いきや、そこは上品にスカす。ワシにとっての10割ヒッター=ジェイソン・ライトマン「ヤング≒アダルト」)に感覚は近く、毒をさりげなく含み現代を軽やかに描く。 

 

 レンタネコだけにレンタカー屋さんも出てくるけれど、意味不明のランク付けを笑っている。受付嬢=山田真歩演じる吉川さんのドーナツの食べ方も可愛らしい。隣の正体不明のおばさんが小林克也で、これまたズケズケと言うんだよな。監督もスネークマンショー聴いたことあるのかな?などと思ったりして。だとしたらユーモアのセンスはバッチリです。ラストのエピソードは「恋は五・七・五!」を思わせて、なんのことはない主人公は監督自身なのかも?と今更気がついたりして。たぶん「トイレット」「かもめ食堂」「めがね」は違うはず。主演はちょっと前なら小林聡美ちゃんだけど、市川実和子が本作には適任。それは「恋は五・七・五!」を同時にご覧になるとお分かりになります。

 

 監督の戦略かどうかは判然としないけれど、ネコを方便にして日本から消失したものも作品に込めている。レンタネコ屋のスタイルは拡声器で唱えながら、リアカー引っ張って物売ってる商売(金魚、豆腐、石焼芋)、平屋の日本家屋(一体どこから見つけてきたのやら)、流しそうめん(オッサンだけど食ったことない)などなど。媒体の露出頻度が高い日本映画を避けてしまっているので、最近の秀作アニメを想起してしまう。多摩川河川敷をズルズルとリアカー引いて歩いている様は「荒川アンダーザブリッジ」、今はもうないはずの習慣が描かれているので「日常」。頭がボーっとしちゃう酷暑も出てきますけれど、残しておくべき時代記号。気候変動は「ビューティフル・アイランド」をご覧になるのが一番ですけれど、人の心に穴が開いて、夏はどんどん暑くなっている。

 

 もちろんこれらは勝手な解釈だけど、人それぞれ抱く感想の違う門口の広い作品。激怒する人は多くとも「ツリー・オブ・ライフ」などは後々まで棚に君臨しそう。もちろん常連客は確実についている顧客満足度の高い監督=映画作家荻上直子だから、今から次回作が楽しみ。ビールが美味いのは夏!もちゃんと入れてくれてたし。ワシなどは加齢臭がきつくなっている中年で、レンタル屋で働いていて、去年は祖母を看取っただけに、あまりにフィットし過ぎて鑑賞中ずーっとうんうんと肯いていた。ベタ褒めだけど、幸せな時間を過ごせました。「恋は五・七・五!」は正岡子規で、ネコと言えば文豪=夏目漱石、2作品が対を成しているとすればまさに日本映画。犬とは違って猫に寂しいと言う概念はなさそうだから、案外ポッカリ開いた穴が埋まるのかも。邦画ナンバー・ワンは案の定「僕達急行 A列車で行こう」とコチラかで迷うことになる。

 

現在(5/16/2012)公開中
オススメ★★★★★

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 魔女の宅急便

 

 興行収益が安定してきた時期の宮崎駿の大ヒット作。スポンサーが分かりやすくてクロネコヤマト(「紅の豚」はJAL)。“女が強い”は初期の頃から宮崎作品の特徴だが(「風の谷のナウシカ」)、この段階ではまだ男の子に活躍の余地があった。キキは取り柄が“飛ぶことだけ”というハンデがあり、トンボの助けがいる。21世紀の「日常」「ラストエグザイル 銀翼のファム」ではもはや男の子の出る幕がない。泣いちゃうのは加藤治子演じるお婆さんのトコだが、おソノさんの旦那さんがジジに自慢げに技を披露するのが好きなのだ。年代によって主題歌の松任谷由実(あ、荒井名義か)が要る要らないはあるみたい。叔父は“古臭い”と言っていたが、ユーミンはなにせアルバム“delight,slight,light kiss” がもろに直撃した時20代だっただけにしっくり来た。赤いスカーフを巻いたクロ猫のぬいぐるみを見て、ジジと思うか阪本(「日常」)と思うか・・・、新たな世代間ギャップの象徴だったりして。
オススメ★★★★☆

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  恋は五・七・五! 全国高校生俳句甲子園大会]

 

 「スウィング・ガールズ」に似ているかもしれないが、完全に荻上直子テイストの文科系青春グラフィティ。けっこうストレートに高校生たちの生態が描かれていて、毒も入っているし、ギャグの感じは「ナイスの森」っぽい。出ている大人の面々も、もたいまさこを筆頭にオイシイ人ばかり。柄本明は「幻の光」の爺さんみたいで、杉本哲太は「ビリケン」が見たくなった。主演の関めぐみちゃんは「レンタネコ」の市川実日子と同じくガリガリだが、ストーキングすれすれの彼との関係は「レンタネコ」そのものだ。監督の実体験が反映されているのか?嶋田久作率いる悪役の高校の面々が上手いので、ラストのコンテストが盛り上がる。「南極料理人」でもチラリ出演で笑わせてくれたけれど、もはや「帝都物語」は遠い昔か。タバコ吸ったりが当たり前なので、「SO WHAT」みたいだな。ダンス甲子園があったくらいだから、俳句でもあるのねと感心してしまう。ワシなどは高校時代は放送部で、アナウンス・コンテストなんてものも世の中にはある。どうがんばっても“勝ち負け”のはっきりした体育会系モノには敵わないが、よくぞラストを盛り上げたものだ。
オススメ★★★☆☆

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