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ミッドナイト・イン・パリ

   ミッドナイト・イン・パリ

 

 “タイムスリップもの”2本立ての1本目、ウディ・アレン監督作。もう1本は3D超大作「メン・イン・ブラック3」なんだけど、本作はもう冒頭から好みの描写で嬉しくなる。インディ系の最古参って感じで、パリをその独特の切り口でとらえている。マドリードを念入りに描いたジム・ジャームッシュ「リミッツ・オブ・コントロール」ほどではないけれど、「それでも恋するバルセロナ」と同じく、観光名所ですよという趣はない。

 

 婚約者とパリにやって来た作家志望の売れっ子脚本家ギルは、いずれ義理の両親になる夫婦とも“しっくり”いかないし、その娘だけに結婚前のありがちな不安“ホントに結婚して大丈夫?”を抱えている。カップルに扮したのがオーウェン・ウィルソンとレイチェル・マクアダムスで、表通りのスターさんなんだけど、見事作品世界に没入。レイチェルなんて中身空っぽのごく普通の女で、上っ面の知識をひけらかすエセ教養人にご執心。オーウェンは紛れもなく監督の分身で、情けなくも頼りなさげなナイーヴ青年。

 

 彼女はダンスに行っちゃって、浮かないパリの夜を過ごすギル。ところが目の前に止まったクラシック・カーに乗り込んだところから、目くるめく夢のような一夜がスタート。ここからが“運命の分かれ道”なんですけれど、出てくる人々の歴史を知っていると狂喜することになります。いきなり眼前にゼルダとスコットのフィッツジェラルド夫妻が現れたかと思ったら、アーネスト・ヘミングウェイまで出てきてたまりません。ゼルダを毛嫌いしているヘミングウェイなんて、文学史そのもののシーンが繰り広げられる。「ミセス・パーカー/ジャズエイジの華」ではチラリとしか出てこないけれど、ゼルダに振り回されて飲みまくっていたスコット・フィッツジェラルドは観ているだけでワクワクする。「モダーンズ」でもノーベル文学者ヘミングウェイが出てきますが、1920年代のパリでは画家の方がイケていて、パブロ・ピカソが批評されている歴史の瞬間に立ち会うギル。

 

 そのピカソのモデルでまたまた男をノック・アウトするのがマリオン・コティヤール。いったいどれほどの映画で男を翻弄してきたことか(「プロヴァンスの贈りもの」)。インディ系最古参の巨匠ウディ・アレンはさすがです、レイチェル・マクアダムスを踏み台にあまりに納得の起用。「それでも恋するバルセロナ」スカーレット・ヨハンソン、ペネロペ・クルスじゃなくてレベッカ・ホールでした。この人の映画を分かる人間ではありませんけれど、「ギター弾きの恋」のサマンサ・モートン、「スコルピオンの恋まじない」のヘレン・ハントも文句のつけようがない。

 

 「インセプション」でも深層心理の下部構造にダイヴしますが、マリオン演じるアドリアナと更に時間を飛び越えて、1920年代のパリジェンヌが憧れる時代へとスリップ。今度はドガやゴーギャンまで出てくる豪華さ。そして語られるのが“憧れの時代に生きることは果たして・・・”は本作のテーマなのでは?文学志望の若者は1920年代のパリで、「バスキア」を見たらニューヨークに憧れる、現代アート志望の若者がいてもおかしくない。村上春樹著「回転木馬のデッド・ヒート の一遍、「雨やどり」に“デザイナーとかイラストレーターといった種類の人間が集まって・・・”という部分があって、確かに浮世離れした人が集まるお店は100年前からあったし、100年後にもありそうだ。大河ドラマを見ている人は幕末に行きたがるだろうけれど、1920年代のパリはスターでいっぱい。サルバトール・ダリとルイス・ブニュエルの部分も山田宏一氏に大感謝(「何が映画を走らせるのか? P346をご参照ください)。

 

映画ではちょっと思い出せないけれど、荒俣宏氏の「帝都物語 」を読んでいる時のワクワクした感じを味わうことが出来た。いちおう英文科出身だし、ゼミの先生がマーク・トゥエイン研究していたし、タクシーに乗ってるT・S・エリオットにえっ!となるトコとか挙げればきりがない。食えないけれど、文学(慰みもの)を学んでいても、ラッキーなことに当たることはあるのです。スティーヴン・スピルバーグ「タンタンの冒険」あたりからフランスに傾いていた合衆国映画。マーティン・スコセッシの「ヒューゴの不思議な発明」しかりで、「アーティスト」などもトレンドゆえのヒット。でも首都の名を冠しているコレこそ決定版。ずいぶん前に「マンハッタン」見た時はチンプンカンプンだったけれど、見直したらイケそうだ。大人向けのタイムトラベル映画にして文学趣味の極地、でもテーマは地に足のついたシッカリしたもの。インディ系最古参の生ける伝説=ウディ・アレンは止まることなく映画製作を継続中で、公開作は既に2本ストックされていて、豪華共演。クリント・イーストウッド 然りで、爺さん達ぜんぜん衰えない。

 

現在(5/28/2012)公開中
オススメ★★★★☆

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スコルピオンの恋まじない

 

 もう10年くらい前になるけれど、東北新社の人にオススメされて観に行ったウディ・アレン監督作。オススメの理由が「ウディ・アレン好きじゃないけれど、このショボイ笑いがたまんないんだよね」の一言で恵比寿ガーデンシネマ に直行、確かにしょぼくて楽しい。「ミッドナイト・イン・パリ」を観た後だと更に楽しめるかも。なにせヘレン・ハントの役名はフィッツジェラルドで、浮気の合言葉がパリ。この当時のヘレン・ハントは「ハート・オブ・ウーマン」にも出ていて、知的かつやり手の仕事女がピッタリだった。その辺も「ウェディング・クラッシャーズ」の2人が「ミッドナイト・イン・パリ」に起用されているのに近い。冴えない男がとにかく似合う役者=ウディ・アレンの持ち味全開で、シャーリーズ・セロン まで伸び伸び演じているのが良く分かる。傑作「マンハッタン」を見た時は中学生だったので、この監督を敬遠していたけれど、中年の今こそ楽しめそうだ。観に行った劇場はなくっても、コンテンツは不変で、年取ると面白みが増す映画ってのもあるんだね。
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