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ライク・サムワン・イン・ラブ

  ライク・サムワン・イン・ラブ

 

 いちおう名前は知っていた程度ながら、こんなにすごい映画監督が世界にいるのかと驚かされたアッバス・キアロスタミのスゲェ1本。映画祭で絶賛の巨匠と呼ばれているから、“お芸術風”の作品かと思って「トスカーナの贋作」を見たら、実に楽しい。笑える部分満載の実験的1本で、素晴らしさに参ってしまった。そんなこんなで新作は日本を舞台にしているし、楽しみだったし大満足。

 

 コレの前は“外国人が描いた日本”のナンバー・ワンは候孝賢の「珈琲時光」だった。でも甲乙つけがたいですね、信じられないくらい生々しく日本を切り取っている。園子温による「恋の罪」でさえ、隠された日本の実情を衝撃的に描くことはできても、“済まし顔”で「こんな感じだぜ」とまではいかない。一体どういう手法だかは分からないけれど、この人の日本映画ならあと2、3本は続けて観てみたい欲求に駆られる。

 

 カメラが北野武の作品を撮っている柳島克己で、画面の肌触りとでも言ったら良いんでしょうか違和感がない。もっとも「別離」のおかげで免疫ができましたが、イラン映画って日常の煩わしい出来事が延々と続きます、うんざりするくらいに。あの「家族ゲーム」で由紀さおりが戸川純に相談を持ちかけられて、バンツ一丁の息子がいて、電話が鳴って・・・のあのシーンが延々続くようなのに目が離せない。 

 

 煩わしいのに可笑しくて仕方がない。ホントはもう1本合衆国の映画を観ようと思っていたけれど、この作品の後に何を観ても、マス目にはめ込まれた予定調和を眺めることになるので中止。劇場を後にした時、周囲が違って見えた「トゥルーマン・ショー」とか「デイブレイカー」を軽々と超える。

 

 それにしてもジジイの監督が恐ろしいのは身に染みる昨今ですけれど、この人がねぇ72歳っていうのが残念で仕方ない。「今宵フィッツジェラルド劇場で」を見てロバート・アルトマンのことを好きになった人(実際にいます)の悔しさに近いかもしれない。ロマン・ポランスキーの「おとなのけんか」より凄いというか、主人公は何せジジイとケータリングの売春をバイトにしている女の子ですからね。“都会の片隅の奇跡の出会い”とかではなく、ウソつきのバチあたりの日常。

 

 ジジイは元大学教授で嘘は海千山千、まあ呆れるくらいに行き当たりバッタリの方便を並べる。女の子は自分を心配して訪ねてきたお婆ちゃんを無視。ちゃんと21世紀に即した描写が鬼気迫る。彼女の携帯電話には何件もメッセージが入っていて、あまりの生々しさに息を呑む。現代人が使っているツールだけでなく、車の中という空間を巧みに利用して人間が浮き彫りになる(「ナイト・オン・ザ・プラネット」)。

 

 事細かに見ていけば、六本木と横浜と静岡の間を一瞬にして移動しているのに、日本人ですら気にならないよう処理が施されている。それにしても高速の入口であるとか、タクシー運転手とか居酒屋とか隣のおばさんとか、優れた日本映画の監督が当然描いていたはずだ、と思われる部分を自然に盛り込んでいる。

 

 二人を演じる奥野匡と高梨臨は絶妙で、シンケンジャー・ピンク=高梨臨は一発で惚れてしまった。「バベル」「ナイト・トーキョーデイ」の菊地凛子ちゃんは海外に顔が知られているから無理だけど、トレンドの顔だと思われる「劇場版SPEC〜天〜」の戸田恵梨香ちゃんよりこの作品にはピッタリだし美しい。即刻「侍戦隊シンケンジャー」で彼女を確認したら、確かにテレビ画面では浮き立ってしまう顔立ち。

 

 女優選択眼だけをとっても計り知れない巨匠。奥野匡は確実に監督の分身でしょう、含蓄のあるような顔して「お爺ちゃんは二人いるでしょ」などと言うところなど、挙げればきりがないくらい笑える。一番大変だったのは加瀬亮かもしれない。プロっぽさを封じなければならないからね。でも「FLIRT/フラート」(ごめんなさい、DVDレンタルありません)の頃の永瀬正敏の穴を埋めるかのように、実年齢よりかなり若い役だけど作品に溶け込んでいた。

 

 ラストなんか因果応報そのもので大爆笑。偉そうな顔して嘘つきゃ、怒鳴り込まれて当たり前、バイトで売春やってりゃあ祟る。でも終わったのか?結論があったのか?なんてお構いなしに、さっさと店じまいしてしまう。テーマ曲の“Like Someone In Love”はスタンダードだから、どこかでかかる度に思い出し笑いが止まらなくなりそう。素晴らしい体験でした、煩わしいのは人間の常だし、そんなシーンでいっぱいなのに酔いしれるように画面に釘付け。 

現在(9/28/2012)公開中 
オススメ★★★★★ 

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関連作

  トスカーナの贋作

 

 「別離」に驚いている場合ではないですね、イラン映画がすごいのか?アッバス・キアロスタミ監督がすごいのか?“読めない”、“掴めない”、“真偽はどこに?”と思っているうちに幸せな時間=映画を見ている恍惚に浸れる(痴話喧嘩のとこなんて大笑い)。知る限りではリチャード・リンクレイター監督の「恋人までの距離」「ビフォア・サンセット」「シルビアのいる街で」の合体技に見える、などといったら笑われそうだけど、それくらいしか思い浮かばない。

 

 ところがクリント・イーストウッド「ヒアアフター」みたいに、若手の映画が巨匠の本作から派生しているようだ。あの可憐なジュリエット・ビノシュ(「存在の耐えられない軽さ」)も本物の女優だったことを、これでもかと見せつける。三ヶ国語を操り、ほとんど会話だけで成立している映画を退屈させない。イタリアはトスカーナだから、観光客も世界各地からやって来るし、英語、フランス語、イタリア語が自在に飛び交っていても不思議じゃない。意味だ結末だなんて野暮なこと言わないで、映画好きはただ酔いしれれば幸せ。
オススメ★★★★☆

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