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マーガレット・サッチャー鉄の女の涙

  マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

    

 最近お客さんで「ソフィーの選択」(どーしてDVDレンタルないのかな?)と「永遠に美しく」を探している方がいたので、「メリル・ストリープ をお探しですね?」と聞くと、本作を観に行くとおっしゃっていた。監督は「マンマ・ミーア」の人だし、宣伝を見る限りでは男社会の中に入って、激動の時代を乗り切った“女性の鑑”の映画。これを観て“いっちょう元気になろう”と考える女性にアピールするのは良く分かる。ワシもそう思っていたし、その痛快さを期待していた。

 

 ところが冒頭から様子が変。一人の老婆が近所のスーパーで牛乳を買っているところから始まる。老婆はなんとメリル・ストリープが演じるマーガレット・サッチャーで、もっと進んでいくと「ビューティフル・マインド」みたいな展開で怪訝な感じになる。英国初の女性首相、その物語を時系列で追っていくかと思いきや、ラストの場面から見せられている。“合衆国を代表する女優が歴史上の人物を演じる”あまりにお決まりのテーマだと思ったら、主題はもっと別にあった。恐らく人間の最晩年を丁寧に描くことが本作のメインテーマ。

 

 昨年看取った祖母を思い出しますけれど、80年も生きてくれば“くたびれる”のは当たり前。ズレたりボケたりしないためには、よっぽど健康に気をつけていなければ無理(医療は金で買えても、健康は努力なくして得られません)。メリル・ストリープの化けっぷりには驚かされる。老いてくれば記憶や発言に整合性がなくなる。それが常時であれば分かりやすいけれど、ランダムにそれが訪れる。他と認識が一致していれば問題ないんだけど、一致していない時にふと“まとも”になることもある。そんな時に老人は他者の表情から、自分がズレていることを知り不安に襲われる。認知症がどういうものかは分かりませんが、徐々に“違っていった”祖母の表情を思い起こさせる、メリル・ストリープの“顔の芝居”に唸ってしまった。レンタル屋ストレートになって残念だった「マイライフ、マイファミリー」に近いテーマは21世紀の先進国では重要。

 

 で、人々が期待している政治家サッチャーのお話はというと映画ですからね、ネルソン・マンデラのような偉人伝にはなりません。IRA(「クライング・ゲーム」)に肩入れこそしないものの、実行あるのみと突き進む“鉄の女”に好意的であるわけがない。40代のワシにとっても過去の政治家サッチャーですが、テレビで取り沙汰されていた時、親父が“鉄のババア”と言っていたのを良く覚えている。確か“金持ちを増やして皆を豊かにする”政策だったかな?どういう結果を生んだかは21世紀の我々が苦笑い。ロナルド・レーガンと仲良しで、テレビ・ショーにたびたび出て人気獲得の手口は今と変わらない。さらに“フォークランド紛争”も“東西冷戦の終結”も映し出されるんだけど、描き方はいたって距離を置いている。アルゼンチンに攻められたのは切り詰め財政が原因なれど、勝ったら最大限にそれを利用(内政に詰まった政治家の裏技)。東西冷戦なんか終結セレモニーに出ただけ。

 

 テレビドラマじゃないんだから、一人の政治家が歴史を作るなんて不可能。転換点に立つことはできても、政治家が出来ることは歴史の流れに応じ、微調整をするだけだと思う。「銀河英雄伝説」でヤン・ウェンリーがポツリと「人間の社会には思想の潮流が二つあって、“生命以上の価値がある”という説と“命に優るものはない”という説が・・・」という部分があって、明らかに前者の流れにそって支持を得てきたのが本作のサッチャー。2012年の現段階では旗色悪いかもしれないけれど、潮目が変わればもっと違った描き方をされるかもしれない。政治家の部分に特化して描いたら「J・エドガー」「ヤング≒アダルト」みたいにアカデミー賞ノミネートは無理だったかも。それをメリル・ストリープの演技が覆した。政治批判と突っ込まれたら「いえいえ最晩年を描いたんですよ」と言える。意図しているかは分からないけれど・・・。

 

 邦題はいっぱいくっついているけれど、原題はそのものズバリで“鉄の女”。晩年を丁寧に描いて政治家サッチャーを非難もしないし、神格化もナシ。メリル・ストリープが渾身の芝居を見せるのもうなずける題材で良かった。それにしても演技派は可哀相な役にこそ魅力を感じ、女性監督の冷静で今までとは異なる切り口は興味深い。

 

現在(3/22/2012)公開中
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 ロン・ハワードが正攻法で描くと、難なくアカデミー賞を獲得してしまう典型的な1本。描かれている人物はノーベル賞を受賞している天才数学者で、ラッセル・クロウは難役に挑戦したから、この作品あたりから評価が上がった。難役のワケは天才だけど統合失調症を患っているという部分で、現実か?妄想か?を映像として描いている。その部分に貢献しているエド・ハリス、ポール・ベタニーは他のロン・ハワード作品にも出演(「アポロ13」「ダヴィンチ・コード」)。さらに精神疾患の描写だけだと観客は疲れてしまうので、ジェニファー・コネリーの美貌が華を添えている。そういえば彼女も後にロン・ハワード裏稼業の「僕が結婚を決めたワケ」に出てました。「シャイン」 はデヴィッド・ヘルフゴッドが満場の喝采を浴びて涙するところだけど、天才数学者だけに教授陣が静かに万年筆を置くところが印象的。ぜひご覧になってご確認を。
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