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ソハの地下水道

  ソハの地下水道

 

 「善き人」から観始めた2012年ですが、ナチを描く作品はホントに絶えない。侵略された国はまず忘れたりしないので、フランス(「黄色い星の子供たち」)でもオーストリア(「ミケランジェロの暗号」)でも作られて、今回はポーランド産。題材がナチに関することもあるけれど、本作鑑賞の理由は監督アニエスカ・ホランド(今回の表記はアグニェシュカ・ホランドだったな)が第一要因。予告編でも良さそうだったし、フランシス・フォード・コッポラ(「Virginiaヴァージニア」)のデータを漁っていって、彼が製作に携わっているホランド監督作「奇蹟の詩 サード・ミラクル」が好みだったことにもよる。間にレンタル屋ストレートの「バンディット」が入りますが、「敬愛なるベートーヴェン」 が2006年ですから6年ぶり。

 

 タイトルにもなっている主人公ソハは下水道を熟知している修理人で、欲から発して結果的に善を成した一例。パターンはオスカー・シンドラー氏と同じで、つくづく“善いコトしよう”と志す人はどうして悪夢に喰われてしまうんだろう?(「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」)と思わずにいられません。彼と相対する位置にナチに協力する将校が出てきますけれど、実は魂胆が同じ。目当てはユダヤ人が持っている金で、一方は権力を背景に奪おうとし、もう一方は命の代わりに金を請求。ただし運が良いのか悪いのか、ソハは底辺の人間だけにナチの家(奪取した屋敷)に空き巣に入ったりして、連中とは相容れない。ところが“ナチの大義を信じる努力”をしている(出世能力が高い)将校はせっせと鬼畜道(ユダヤ人殺害)を行く。

 

 金目当てのソハがいつユダヤ人を救おうと志したかは、人によって見解は分かれるかもしれません。悲惨な状況にあっても出産という出来事は人を啓発するから(「トゥモロー・ワールド」)、たぶん子供が生まれたあたりだとは思うけれど・・・。この作品の優れている点がココで、「シンドラーのリスト」もいつの間にか彼らを助けようと傾く(と感じました)。描こうとするポイントは他にもあって、実際に下水道に潜んでいるとはどうゆうことか?これは切実で、臭いに決まっているし、息苦しい、気を抜けない、恐ろしい。ただし極限状態のサスペンスフルな展開ではなく、日常として生き抜いた人達を生々しく描いている。ユダヤ人=差別されることが宿命の民族というのではなく、「ヒトラーの贋札」と近くて人間として仲間内ではいろいろな人生模様=ドラマがある。

 

 静かなラスト・シーンは素晴らしく、その後のソハ氏に訪れた皮肉な運命は考えさせられる。盲目的にユダヤ人に共感はできない(そもそも我が国はドイツの同盟国だったわけだし)、それは「ミラル」を観ていることもあるし、遠く離れた日本人には実感がわかない。「ホテル・ルワンダ」ホアキン・フェニックス扮するジャーナリストは、ツチ族とフツ族の見分けがつかないと言っていたけれど、もっと露骨にヨーロッパは漠然としすぎている。ただし同胞を見捨てない彼らには学ぶ点が多い。連帯、同胞という概念は資本主義にとっては邪魔。グローバル化して自由主義とやらが支配的だから、同胞どうしで食い合ってもらわなくちゃ活性化しない(「デイブレイカー」)。マイケル・サンデル先生の講義(「ハーバード白熱教室6」)を聞くとそんな風に思えてきます。

 

 手を変え品を変えナチを告発する映画は絶えることがないし、掘り起こせばいろいろ出てくるに違いない(「敵こそ我が友」)。韓国映画はやっていても(「マイウェイ12,000キロの真実」)、日本映画は難しいんでしょうか?嫌だろうけれど本作はドイツも一枚かんでいる。人々に韓国、中国を敵視させる報道が続いていますけれど、外国人労働者を排除したら都内の飲食店は営業が成り立たない。じっさい牛丼食ったら従業員は中国の人ばかり。大所高所(マクロ)で物事を見ないで、身の回り(ミクロ)をよく見る。善行を心がけるのではなく、身の丈にあった日々を生きる。この映画の立脚点もそこだった。「最強のふたり」がいまだ盛況なれど、こちらも大人の鑑賞に耐える1本なんだけどねぇ。

 

現在(9/24/2012)公開中
オススメ★★★☆☆

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関連作

 奇蹟の詩 ~サード・ミラクル~

 

 「敬愛なるベートーヴェン」エド・ハリスをアニエスカ・ホランドが起用していたのが納得の奇蹟、聖人にまつわる物語。聖職者を演じる場合、端正な顔立ちで誠実さを感じさせる俳優さんが起用されますが(「悪霊喰」「スティグマータ」)、本作のエドもまたしかり。庶民救済センターでくすぶっている男が、バチカンの任務で奇蹟が起こったとされる現場に赴く。実は彼には奇蹟調査で“いわくのある過去”があって、その部分が強調されると途端に「ザ・ライト エクソシストの真実」みたいになっていきますが、そこ(オカルト・テイスト)に特化せず、あくまで現実に沿った物語が展開。「セントアンナの奇跡」のように第二次世界大戦の頃にまでお話はさかのぼります。「バインパイア 最期の聖戦」とか「プリースト」だとホラで済ませられるけれど、ホントにバチカンが聖人を精査することってあるのかな?ま、悪魔退治があるくらいだから当然か。

 

 悪夢の時代=第二次世界大戦にいかなることが起きたのか?、本来は平和で豊かであるはずの現代に聖人はどんな奇蹟を起したのか?果たしてその奇蹟は認められるのか?・・・ぜひご覧になってご確認を。スチャラカな役は「ナイト・オン・ザ・プラネット」くらいしか拝んでいないけれど、アーミン・ミューラー=スタールは位の高い聖職者が似合います(「天使と悪魔」でも枢機卿だった)。また“奇跡の人”の娘役で出てくるアン・ヘッシュですけれど、もっと出演作が欲しい。「フェイク」「ワグ・ザ・ドッグ」も好きだけに。エド・ハリスをはじめとするメインのキャラクターは適材適所。そして「コッポラの胡蝶の夢」「Virginiaヴァージニア」のフランシス・フォード・コッポラがプロデューサーで納得。「ソハの地下水道」に合わせて漁ってみたら大当たり、完全に好みの1本を発見。
オススメ★★★★☆ 

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