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ヒューゴの不思議な発明

 ヒューゴの不思議な発明

      

 私にとってマーティン・スコセッシは危険な監督だ、2本ズッコケた作品がある。リュック・ベッソン森田芳光にも1本ずつコケたのがあるけれど、危険だとは思わなかった。ところがある法則(スターと監督)も覆してくれて侮れない。暴力方面(「グッドフェローズ」「ディパーテッド」)なら全く気にならないけれど、3Dファンタジーとなると未知数。で、小心者が頼りにしたのが“アカデミー賞”。こういう時は役に立って、媒体の露出頻度を上げればヒットするけれど、合衆国の映画好きをそう簡単には騙せない。内容が良いから「リアル・スティール」だってノミネートされていると信じる。

 

 冒頭の3D映像がまさに“映画は目くらまし”といった感じで素晴らしかった、一気に引き込まれた。21世紀の先進国ではなかなか信じられないけれど、1930年代のフランスでは親を亡くしたみなしごが、駅に住みついていたっておかしくない。ヒューゴを演じるエイサ・バターフィールドは賢そうで、ファンタジー向けの可愛らしさを兼ね備えている。でも孤児だけに、ポッキリ折れちゃいそうな細い足で心配になっちゃう。亡くした親と繋がるのがカギというのは「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」の少年も同様ながら、「縞模様のパジャマの少年」の主演だけにプロっぽさがある。彼の棲家はデッカイ時計の裏側で、「ルパン三世 カリオストロの城」「未来は今」よろしく映画らしくて嬉しくなる。もっとも映画の生き字引=マーティン・スコセッシにとっては、もっと映画史にとって重要な作品からイメージを持って来ているんだろうけれど。

 

 鉄道公安官に見つかったら孤児院に送られちゃうから、こそこそいろんな物を盗んできては生き延びているヒューゴ。ところがガラクタ屋(良く言ってオモチャ屋)からかっぱらおうとして、ジジイに捕まる。捕まえるのがベン・キングズレーで、ここから急展開。実はヒューゴの父が遺した機械人形と、ジジイには忘れられない過去があり、物語は感動的なものになっていきます。3Dファンタジーだから空想物語になるかと思いきや、映画好きにとってのファンタジーで涙が止まらなかった。だってジジイの正体がジュルジュ・メリエスで、リュミエールから始まる映画の歴史が物語にリンクしていく。映画検定のため映画の歴史を勉強して良かったと心底思った。更に山田宏一氏の何が映画を走らせるのか? に大感謝ですよ、P67の“アンリ・ラングロワとノアの方舟”で触れられているけれど、フィルム捨ててたんだもんね。図書館で偶然出会う映画学者ルネ・タバール(モロにアンリ・ラングロワと重なる)が引き出しから傑作だと言ってフィルムを取り出すところがたまらない。彼の一言一言は末端とはいえ、映画の周辺で仕事をしてきた映画好きにとっては涙ものでした。「トイストーリー3」 の時は拭いて返さなきゃなんなかったけれど、TOHOシネマズはエライ。

 

 もちろんチラリと出てくるクリストファー・リー(「戦場カメラマン 真実の証明」)も、すぐにワトスンを観ることになる父親役のジュード・ロウもキチンと印象を残し駒に徹している。「ブルーノ」の風情は微塵もなく、「スウィーニートッド」みたいな間抜け公安官のサシャ・バロン・コーエンとエミリー・モーティマーの部分は「ピンクパンサー」のシャレなんだろうか?映画が気に入ると出ている人たちは、残らず好きになってしまう。もちろんヒューゴの相棒=イザベル役のクロエ・グレース・モレッツちゃんはヒットガール吸血鬼と来て夢見る文学少女に変身。可愛らしさ全開で年相応、それにしても子供の成長は早い。そしてなんと言っても名優ベン・キングズレーはさすがだなぁ。「オリバー・ツイスト」とは真逆なんだけど、一言で映画狂=ルネ・タバールを世に生み出すジョルジュ・メリエスに化けた。

 

 すたれるのが映画の常かもしれないけれど、生き返ってくるのもまた映画で、もっと後の時代だと戦う批評家(「ふたりのヌーヴェル・ヴァーグ ゴダールとトリュフォー」)が出てきて復活させたりする。それまで人類が体験したことのない夢を提供できる発明は観ている人々だけでなく、作り手を虜にした。本作のメリエスもそうだし、「チャーリー」などを見ると、チャップリンも憑かれたように映画作りに没頭している。ヴェンダース(「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」)まで手をつけた技術にマーティン・スコセッシも挑み、映画の歴史を観客に観せてくれた。正直最新技術はスピルバーグ「タンタンの冒険」と同様やり過ぎてない。ここが肝心で見せ方を心得ているのが巨匠の証です。叶うことなら淀川長治氏のコメントをぜひ聞いてみたいですね。今年はあと「アーティスト」が待機しているわけだけど、越える越えないではなく、映画発祥の国がアカデミー賞を席巻したわけね。

 

現在(3/11/2012)公開中
オススメ★★★★★ 

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 ふたりのヌーヴェルヴァーグ

 

 フランソワ・トリュフォーの作品は「大人は判ってくれない」も「野生の少年」も「アデルの恋の物語」 も好きだけど、正直ジャン=リュック・ゴダールの作品は「勝手にしやがれ」と「気狂いピエロ」以外はピンと来ない。長いこと「未知との遭遇」にも出演しているトリュフォーに親しみを感じ、哲学的だし音楽の挿入の仕方とかついていけない最先端のゴダールはあっちの人という認識だった。そもそも蓮實重彦氏、山田宏一氏の著書で“知った気になった”ヌーヴェルヴァーグだけど、そのムーヴメントが起こったのは、ワシの生まれる前なんだから良く分かるわけがない。このドキュメンタリーも歴史の検証みたいな側面がある。

 

  ゴダールとトリュフォー、ともに旧態依然としたフランス映画界を批評で葬ったうえで、自ら製作して活性化させる。カンヌ映画祭を中止にしたり残された映像から察すると、激動の時代を生き抜いてきた偉人伝 みたい。ところがより政治的メッセージに傾斜していくゴダールと、映画製作を続けていくトリュフォーは文字通り袂を分かつ。大好きな「映画に愛をこめて アメリカの夜」をゴダールが酷評とは。もっともつい最近「ベトナムから遠く離れて」(ワシの生まれた年に製作されています)を見たら、他のベトナム戦争映画に意味が無くなってしまいそうな気がした。批評なら誰だって出来るけれど(またまた山田宏一氏の何が映画を走らせるのか?をご参照ください)、映画の真っ只中を生きたふたりの物語は映画好き必見。
オススメ★★★★☆

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