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危険なメソッド

  危険なメソッド

 

 心理学で最初に思いつく名前はジークムント・フロイト、次いでカール・グスタフ・ユングが常識かどうかは分かりませんが、私にとってはこの2人くらい。フロイトと言えば“エディプス・コンブレックス”の人で、「存在の耐えられない軽さ」で問題になった論文がコレを題材にしていたような。そして確か学生時代授業で聞いた話だと、ユングはギリシャ神話などの“人類が共有する物語体系”から人の心理を読み解こうとした人だったような。実にいい加減で曖昧な知識しか持ち合わせがない故に、本作は楽しみだった。要は“いい加減な知識”を1時間30分で補正できて、楽しめるのが偉人伝のお得なところ。おかげ様でアウンサンスーチーさんのことも、マーガレット・サッチャーのことも、エドガー・フーバーのことも人様に「あの人はこんな感じだったみたいだよ」などと知った風な口が利けるようになった。フロイトとユングの名前は知っていても、2人が師弟関係にあったという事実すら知らない無教養者には実に有益な映画。

 

 もちろん題材が“無知からちょっとマシ”になるだけだったら、お金払いません。何より監督もキャストも文句なしだからの観賞。監督は「イースタン・プロミス」以来のデヴィッド・クローネンバーグで、主演は「ヒストリー・オブ・バイオレンス」以来3作で組んでいるヴィゴ・モーテンセンと、今年は出演作を拝むのが4本目になるマイケル・ファスベンダー「プロメテウス」)。ところが添え物と思っていたキーラ・ナイトレイが凄すぎた。彼女が演じるのはユングの患者ザビーナ・シュピーラインで、「エミリー・ローズ」かと思うくらいにその症状が激しい。ユングと話しているうちに、特撮でも使っているのか?というくらいアゴが突き出して錯乱状態を演じて見せる。「ベッカムに恋して」の女の子も女優根性の人ですよ、「宮廷画家ゴヤは見た」ナタリー・ポートマンに引けをとらない。文芸作品(「プライドと偏見」)に出たかと思えば、大ヒット超大作(「パイレーツ・オブ・カリビアン」)も経験して、着実にキャリアを築いている(「わたしを離さないで」)。映画がいじれない偉人伝 だけに、監督のグロテスクなテイストを彼女が一身に引き受けているみたい。

 

 21世紀の映画ですから、“動の女性”に対して“静の男性”としてヴィゴ・モーテンセンマイケル・ファスベンダーが背景に徹している。彼らの物語は歴史のお勉強になって、金を持っていて浮気性のユングと、子沢山でユダヤ人ゆえに世間からは叩かれやすいフロイト。恵まれているからユングが嫌いになったというわけではなく、やはり研究者同士で対立はあって当然、結局袂を分かつのはやむを得ないんですかねぇ。ゴダールとトリュフォーみたいに(「ふたりのヌーヴェルバーグ」)。ただ間に入るのがユングの患者だったザビーナで、患者だったのに医師になるということはユングが医師として優秀だったことの証明なのか?不倫関係(よく言って愛の関係)も寄与しているのか?まさかクローネンバーグの作品で、恋愛の要素に重点が置かれるとは新鮮でした。

 

 さらに「ザ・フライ」の監督らしからぬ部分は風景で、チューリッヒの景色は美しく切り取られている。スイスは最近だと「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」とかメラニー・ロラン「ラスト・アサシン」に出てきますけれど、「コッポラの胡蝶の夢」に負けず劣らず年期の違いを見せつけた。ストーリーの進行も緩やかで上品、現在御年69歳のデヴィッド・クローネンバーグ、“グロな映画ばかり撮ってるわけじゃないんだぜ”と若手に見せつけたのか?脚本に忠実だったのか?でもこの路線で行ってもらってもぜんぜんOKです。ラストのしめ方もアッサリで、クレジットされるのみ。ですけれど彼らの辿る運命までも描いてしまうと、どうしても歴史大作になるので切り上げ方としては上等。「ダイヤルМ」のころは実にギラギラした浮気相手だったヴィゴ・モーテンセン「善き人」)、渋くなったなぁ。

 

現在(10/31/2012)公開中
オススメ★★★☆☆

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   ダイヤルМ 

 

 もちろんアルフレッド・ヒッチコック「ダイヤルMを廻せ」のリメイク。ダイヤルどころか携帯電話を既に所有していて(「MATRIX」に出てきたのと似た形状)、小道具の通信機器が時代記号になる90年代のサスペンス。当時は「羊たちの沈黙」からの流れ(サイコ・サスペンス)があったから、名作のリメイクを持ってきて対抗する戦略だったのかもしれない。スタッフは手抜きなしの布陣で、音楽がジェームズ・ニュートン・ハワード、撮影が「セブン」のダリウス・コンジ。監督のアンドリュー・デイヴィスは「沈黙の戦艦」「逃亡者」など勢いがあった頃だけに見応えアリ。

 今(2012)では“元”が着くようになったマイケル・ダグラスなれど(「ソリタリーマン」)、生々しいヴィゴ・モーテンセンとセクシー対決だったわけだ。それにしてもブルックリンに住んでる画家の役がピタッとハマってしまうモーテンセンは「バスキア」に出てきてもおかしくないのに、裏アリでさすが。公開当初はただの浮気相手にしか見えなかったけれど、渋さを兼ね備えたフロイト(「危険なメソッド」)とは別人。

 そしてこの当時は“THEお嬢様”がホントに似合うグウィネス・パルトロー(「大いなる遺産」)、世間知らずで富豪の若奥様そのもの。ただ彼女がしている仕事が国際会議の通訳で、後にニコール・キッドマン「ザ・インタープリター」で演じるんだけど、その時の撮影がなんと本作と同じダリウスなんだよね、美人撮りまくりだ。また脇で中東出身に見えるから「エグゼクティブ・ディシジョン」ではテロリストを演じたデヴィッド・スーシエですけれど、この人は「名探偵ポワロ 」を長らく演じているので切れ者刑事がハマる。ゲッコー のキャラクターがモロに移植されているマイケルともども、この時期彼らに抱かれていたイメージが伺える。そんな中で際立つヴィゴ・モーテンセンは美味しいけれど、ラストは“どーしてもああなっちゃうのね”は「ルームメイト」や「ゆりかごを揺らす手」とご同様。
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