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だれもがクジラを愛してる。

  だれもがクジラを愛してる。

 

 生活費が逼迫しているので、なかなか劇場に足を運ぶこともままならない今日この頃。観たいなぁと思っていた2作品をなんとか劇場で拝むことができた。“ギリギリセーフの2本立て”の1本目で、もはや1日に1回の上映になってしまった(7/14から公開だからね)。レンタル屋ストレートになった「イルカと少年」と同じく、このネタは捕鯨の国=日本ではなかなか受け入れられないかもしれない。でもスクリーンでなければ、世界で最もでかい生き物=クジラを実感できませんよ(「ディープ・ブルー」 )。で、“捕鯨の何が悪い”と思っている日本人にも、抵抗なく観ることができる優れものの人間映画。実はクジラがダシで、人々の結集がメイン・テーマ。

 

 お涙頂戴ではない証拠に冒頭はクジラ捕りから始まる。銛を打ち込んでいるのが、元々アラスカに住んでいたイヌピアック族。クジラとの付き合いからすれば、北は彼らで、南はマオリ族(「クジラの島の少女」)が長く共に暮らしてきた。その地元でテレビ・レポーターをしているアダムがたまたま遭遇した“氷に閉じ込められたクジラ”、この映像がきっかけになって、大勢のいろんな人々を巻き込んでいく。最初はアダムの元彼女=自然環境保護活動家(グリーン・ピース)レイチェルで、石油採掘業者、ベンチャー企業、ホワイトハウスときて、ついにはソビエト連邦まで。さまざまな人が結集すると、それぞれの立場は違うから対立も含まれる。

 

 “水と油”のグリーン・ピースと石油採掘会社、自然保護活動家と地元民。この部分が大変興味深くて、全員“良かれ”と思って主張している。観ていてクジラに関しては“捕って何が悪い”と思っているからグリーン・ピースに腹が立つけれど、その問題が原子力発電だったら強力に否定する自然保護活動の連中と変わらない意識になるだろう。“立場的思考”と勝手に呼んでいるけれど、大人になれば“世の中嘘っぱちだらけ”が分かっているから、善し悪し以前に計算高くなる。つまりは主張していてもどこかに自己保身の匂いが漂う。善と悪の対立にしないで、地元の人々を収める長を持つイヌピアック族は幸せだ(残念ながら日本には不在)。

 

 もちろん対立する主要人物だけではなくて、脇の人々もキチンと描いている。話題になったから物見湯算の観光客だってやってくるし、売れるネタだからテレビ局だってリポーターを送り込んでくる。今(「恋とニュースのつくり方」)では古いけれど、88年には機能していたのだ(もっとも「俺たちニュースキャスター」が実態か?)。この辺は笑いの要素で町にはホテルが一軒しかないとか、ダンボール敷かないと寒くて凍えちゃうとか微笑ましい。それだけではなくて、−50℃だけに氷を砕いていないと、クジラが呼吸する穴が塞がっちゃうので、人力でやっているんだけど追いつかない。そこではるばるベンチャー企業の2人がやってきて発明品で何とかするんだけど、発電機を運ぶヘリのところは大爆笑。

 

 邦題のように出演者もクジラを愛する人々で、ドリュー・バリモアは頑として動かない活動家の役。監督作(「ローラーガールズ・ダイヤリー」)だと出過ぎだけど、人によっては毛嫌いされる活動家の役を真摯に演じている。彼女を中心に描かないことで、動物感動映画にはならないのだ。ただ彼女がクジラに対して漏らすセリフは泣かせます。石油採掘業者役のテッド・ダンソン(「プライベート・ライアン」)も熱心な環境保護活動家なんだって。奥さん役のキャシー・ベイカーは最近良く見かけるけれど(「マシンガン・プリーチャー」「テイク・シェルター」)、チラリ出演の美味しい部分をもっていく。

 

 無理めの作戦を押し付けられる大佐役のダーモット・マローニーは老けたけれど(「ベストフレンズ・ウェディング」からずいぶん経つな)、現場の軍人って感じがなかなかだ。ホワイトハウスの美人との部分が実話なんてホントでき過ぎに思える。美人を演じるヴィネッサ・ショウは「トゥー・ラバーズ」とはまるで違うバリバリの秘書官だね。もちろん地元テレビ・レポーターのアダムとイヌピアック族の少年ネイサンの部分がなければ。いろんな人が出てくるけれど、彼らの位置が一番観客にシックリくる。そこに時代記号が込められていて、ウォークマンでデフレパードとかガンズ&ローゼズを聴いていて、U2の「魂の叫び」もリリースされていたわけだ。

 

 監督は「ヒーセッド・シーセッド」以来ご無沙汰のケン・クワビス(「旅するジーンズと16歳の夏」、「そんな彼なら捨てちゃえば?」をスルーしちゃった)。特撮を効果的に使ってバランスよく描いている。ソ連の砕氷船が出動するクライマックスが凄くて、船長が「連絡くるぜ」といっているのがまた楽しい。厚い氷を砕くところは「宇宙戦艦ヤマト2199」の発進シーンに負けない迫力。

 

 東西冷戦下で「フェアウェル さらば、哀しみのスパイ」のようなことが進行していても、電話一本で人々を感動させられるんだから、お安い御用でしょう。ロナルド・レーガンがやる気になるのもうなづける。××とはさみは使いようなのです。クジラ救出ではあるけれど、自然に逆らう人々が集った部分がすがすがしい(だって本来は死んでいたわけだから)。「ソウル・サーファー」と同じでエンディングに実際の映像が使われますけれど、80年代が映ると確かに古臭いな。

 

現在(8/6/2012)公開中
オススメ★★★★☆
でももうすぐ終わってしまいます。リリースされたらぜひどうぞ。 

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オススメ★★★★★

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