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ツレがうつになりまして。

ツレがうつになりまして。   ツレがうつになりまして。

 

 誰に聞いても“うつ病”は知っている。でもその存在を知っているのと、“本当はどうなのか”を理解しているのには大きな隔たりがある。わたくしめがまさにその典型で、正直分かりませんでした。テレビの特集で見れば2,3日で忘れちゃうし、ドキュメンタリー映画だったら観に行かない。もちろん“身内にいないから”が最大の理由。ところが劇映画だと気楽に座って、どれどれってな感じで入っていける。不遜かもしれませんが、案外重要です。学校の先生だってナチス・ドイツの非道を子供にクドクド教えるより、映画見せた方が早い場合がある(「黄色い星の子供たち」)。

 

 さて「武士の家計簿」堺雅人のファンがプッシュしてくれたおかげで当って、本作もまた然り。この人の映画は「スキヤキウェスタン・ジャンゴ」を除いて、自主的に観に行ったことないんだけれど、だいたい勧められて当る。「壬生義士伝」以来、「南極料理人」「クヒオ大佐」も良いんだよねぇ。どの役も全然変わっていないようだけど、彼でなければ成立しない。「ココニイルコト」は明るい患者で「ジェネラルルージュの凱旋」は天才外科医。ただ今回はそうとうに入魂の役作りで凄かった。

 

 冒頭から堺雅人扮するツレは既に病を発症しているのかと心配になるくらい。“憔悴”という言葉が人間の形をしているかのよう。痩せてるだけじゃなく異常が見て取れる。几帳面に曜日別にネクタイをかけ、お弁当の食材もピタッと冷蔵庫内に設置。リハビリ過程から物語がスタートしているのかと思いきや、いちおう彼は平均的なサラリーマンとして暮らしている。もっとも職場は“ストレスのたまり場”みたいなところ。不良製品の苦情受付やったことがありますから(リコールのイン・バウンドって言ってごまかすんだぜ)、あれを日々やっていたら、どうなるかはだいたい想像がつく。痩せたり太ったり禿げたり、出てくる症状は様々なれど身体に異変が起こる。

 

 対して奥さん=ハルさんはマイペース。コミック・エッセイが何なのか知りませんでしたけれど、侮れないよなぁ。またまたまた内田樹著「街場のアメリカ論」の受け売りだけど、日本の漫画家はその製作過程も作品に取り込んでいるのだそう。マンガは吉田秋生を除いて読まなくなっちゃったけど、進化発展を続けているわけだ。ハルさんを演じる宮崎あおいという女優は、最近テレビ見ていないから映画でしか知りえないけれど、実力者。少なくとも肝心な日本映画にちゃんと出ている(と勝手に思ってる)。「闇の子供たち」「少年メリケンサック」も良かった。

 

 本作ではいかにも近所の可愛い奥さんが表面に出るけれど、この作品中もっとも恐い場面でその演技力を発揮。病人が家にいる場合、一緒に暮らしている家族はついやってしまう、「いま手が離せないから後にして、ちょっと静かにしていてよ!」は観ていてハラハラする。邪険にされて風呂桶の中で泣いているツレなんだけど、人は風呂の中でも自殺できる(「誰も守ってくれない」)。しかし全体的に救われるのは主演の2人が醸し出す雰囲気。演技力では説明のつかない相乗効果はなくてはならない。初共演だと思ったらとっくに大河ドラマで夫婦役なんだそうな、浦島太郎だねもはや。まともに見ていたのは「おんな太閤記」だからなぁ。

 

 主演の2人だけでなく実家の床屋さんを営む大杉漣と余貴美子、津田寛治のいかにもバリバリやってますという無神経な長男も、合間合間で登場する吹越満も素晴らしい。しかしラストに登場する梅沢冨美男のところには「度量がデカイなぁ」と心底感服。アレによって二極対立の構図をとらない、前向きさをこの作品は獲得している、ぜひご覧になってご確認を。

 

 監督も「半落ち」の人だからこの題材に臨むのは納得なれど、ずいぶんと描き方は違って風通しが良い。内容はホントに深刻で、描き方一つ間違えるとかなりキツイものになる。けれどCGアニメも朗らかな感じで挿入されて申し分なし(原作に敬意を払う意味もあるのかな?)。個人的なことながら、世に出してくれた原作者には大感謝ですね。ツレに同情ではなく、いつ誰の身に起こっても不思議じゃない病であることを理解させてくれて、どう向き合っていけばよいかのヒントをくれた。

 

 夫が妻を支える映画は見てきたけれど(「男が女を愛する時」とか「スリーデイズ」)、逆はあんまりない(当然過ぎるからか?)。ホントは夫婦だからどちらにその役回りがきてもおかしくない。中国(「海洋天堂」)も合衆国(「マイライフ、マイファミリー」)も“家族の絆”が大切だと描いたけれど、日本も負けていない。日常で目にする光景はややもすれば“狂ってる”ようにすら見える21世紀の日本。“長いものに巻かれろ”は正しい、しかし“巻かれる長いもの”が分からない大人はいっぱいいると思う。適応しているように見える人々はただ“やり過ごしている”だけなのでは?

 

現在(10/19/2011)公開中
オススメ★★★★☆

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 半落ち

 

 とにかく“素晴らしい出来”この一言に尽きます。推理小説が原作なので、事件の全貌は後になって徐々に明らかになっていきます。表層的には殺人事件と裁判が展開していきますが、命題はもっと今日的で、根源的なもの。それらは普遍的問題をはらみ、われわれの胸に迫ってくる。出演者それぞれが入魂の芝居を見せ、圧巻。元スーパー刑事役(「あぶない刑事」、「大都会PARTV」)の両主演、寺尾聡と柴田恭兵は歳を重ねて渋くて素晴らしい。マグナムぶっ放したり、飛んだり跳ねたりしていた頃が嘘みたい。助演の樹木希林と石橋蓮司がそれぞれ見せる芝居は映画好きにはたまらない、魅力的な1コマとなっております。公開された時、邦画が不作だなぁなどと思っていましたけれどとんでもない。日本映画の底力を見せつけた傑作です。あの「21g」 に負けてないテーマを真正面から扱ってるんだから。ぜひご覧になってご確認を。最後は涙が止まらなかった。
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