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黄色い星の子供たち

黄色い星の子供たち   黄色い星の子供たち

 

 最近の映画情報取得は“足を運んだ劇場にて”の比率が増してきて、渋谷のシアターNと新宿の武蔵野館で観ることが多くなりました。「モンスターズ 地球外生命体」同様、劇場に掲示してある情報のおかげで見るはめになった1本。正直に言っちゃうと、最初はボサッとポスターを眺めて“なんだよまたナチの話かよ”と思ったけど、主演女優を見た途端に最優先事項に変更。だってメラニー・ロラン(「オーケストラ!」)が主演なんだもん。もちろんこの題材でこんな不純な動機で観に行く人はまずいないでしょうし、逆なら大問題。

 

 ただねぇ「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」も観てきて、「セントアンナの奇跡」にも描かれる“ナチスのユダヤ人に対する非人道的殺戮”は観賞後に無力感が襲ってくることは分かりきっていますから、ついつい敬遠。もちろんこの作品は“史実を忠実に”という注釈までついているだけに恐々でした。しかしなんと言っても看板娘=メラニー・ロランが拝みたいから・・・、スターの効用ですよ。オマケにジャン・レノまで出ている。2008年には「大いなる陰謀」「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」など合衆国のスターが意義ある内容に出演を熱望するケースが多々ありましたが、後にフランスを背負って立つかもしれない女優は何に惹かれたのか。

 

 人気実力共に上昇中の美人女優を出演させた作品の中身は、今まで見てきたナチスの非道を訴えたものとは少し趣が違いました。むしろ現実的にもっと突っ込んだ歴史の裏側を、出来れば伏せておきたい事実を露にしている。連中を悪者にしておけば、確かに占領された国は“被害者面”をしていられる。歴史の教科書に記しておけばより安全。しかし外国の軍隊が統治するには、その国の権力者が協力しなければとても不可能。ここが肝心なポイントで、為政者なんていつでもどんな時も自分の身が可愛い、みごと“民族浄化の共犯”になった。ま、ナチハンターが人生をかけて戦犯を追う時代を経て(「ブラジルから来た少年」)、21世紀はあまり時間を要することなく、戦犯を追うことが出来るようになった(「カルラのリスト」)。

 

 もちろんこの映画のテーマはそれだけではありません。為政者とその手先がせっせと総統の命令を実行している一方で、何とか彼らの力になりたいと奮闘する人々が描かれる。その先頭に立つのがメラニー・ロラン 演じる看護師で、根性入ってます。目の下に隈作って知事に会いに行ったり、白衣が灰色になるまでの看護。そして彼女だけでなく、「奇跡」と同じで“思い出し泣き”しそうになっちゃうんですけれど、消防士たちの勇敢な振る舞いは刻みつけられたなぁ。隊長さんのセリフ「諸君は明日休暇をとれ〜」は実に印象的、ぜひご覧になってご確認を。消防士(「タワーリングインフェルノ」にしても「炎のメモリアル」 にしても)は勇敢で、人助けを仕事にしている尊い人たち。空を飛んできて、悪漢をぶっ飛ばしたりしなしけれど、あれこそヒーローです。

 

 しかし彼らはこの作品の背景です。タイトルが示す通りナチスの民族浄化は“黄色い星を胸につけた子供たち”にも及び、当時のフランス政府はそれに加担した。映画はくっきりと対照的に描き出す。別荘の総統と裏取引する政治家と愛らしい子供たち。メラニー・ロランの美貌に負けない可愛らしい子供たちは「ニューシネマパラダイス」以来でしょうか?実際は「ちいさな哲学者たち」のように可愛いだけじゃないかもしれないけれど、どれだけ色づけしたってかまうもんか。あんな体育館に閉じ込めた後で死地に送りこんだんだから(最初は「ワールド・アパート」みたいに小さい作品かなと思ったけど、競輪場のシーンには慄然とした)。生き残った少年の証言を基にしているんだから動かせない事実。

 

 「太陽」で無礼千万にもダグラス・マッカーサーは天皇陛下に対して、「ヒトラーはあなたの親友」などと言っていたくらいだから、外国から見たら我々は連中の同盟国。知らぬ存ぜぬじゃあ通らない。さすがに年とりましたから一方的にナチを責めるのは・・・、とはならないんだよね。仏心を持つにはまだまだ程遠い。ホントに観ていてズシンときて、怖くて、ムカムカして、ポロポロ泣いて、でも頭の中にあったのは「イングロリアス・バスターズ」。もしアレがなかったら、また2〜3日頭を抱え込んだままだった。戦意高揚映画だけにこういう時には役に立ちます。

 

 ヨーロッパの人々が忌み嫌う“ナチスによるユダヤ人大量虐殺”、これは幾度となく繰り返し描かれることになるし、ドイツにとっては大きな代償。明るみになっていない事実はまだまだイヤッてほどある(ドキュメント「敵こそ、我が友 〜戦犯クラウス・バルビーの3つの人生〜」なんて凄かった)。繰り返さないために繰り返し観る、反戦映画としてだけで成立しないフランス発の勇気ある一本でした。劇場はけっこう年配の方が多かったですけれど、若い人にもオススメ。重い気分は「イングロリアス・バスターズ」が吹き飛ばしてくれます、あるいは総統の惨めな末路「ヒトラー最期の12日間」 でも。

 

現在(7/29/2011)公開中
オススメ★★★★☆

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  敵こそ、我が友~戦犯クラウス・バルビーの3つの人生~

 

 ナチの親衛隊員で、第二次世界大戦中フランスはリヨンにおいて大量のユダヤ人を拘束、収容所に送っただけでなく、レジスタンスを弾圧。しかし戦後は冷戦に突入しようとしている合衆国に取り入り、“情報網を持っている”というブラフで罪を免れる。21世紀の現代でも大国の思惑が絡んだ戦犯となると、逮捕は難しい(「カルラのリスト」)。はてはナチ残党が大量に逃げ込んだ南米(「ブラジルから来た少年」)で暗躍を始める。CIAと手を組み、チェ・ゲバラ殺害にも関与。アフリカに蛮行を輸出したのはベルギーだそうですけれど(「ブラッド・ダイヤモンド」などに出てくるナタで腕を切り落とす)、南米の指導者をたぶらかす手口は、ナチの専売特許だったようです。

 

 この人物の経歴を追うだけで、並みのスパイ映画を超えてしまう情報量があります。世界の暗部の歴史そのもの。さすが「消されたヘッドライン」の監督ケヴィン・マクドナルド、良くこの題材に挑んで明らかにしてくれたと大感謝。しかしネタ的にやばいから「ロード・オブ・ウォー」アンドリュー・ニコルみたいに干されなきゃいいけど・・・。忠実に非人間的任務を遂行してきた男はドキュメントだけに普通に見えます。もちろんここが最も怖いところで、どんなにひどいことでも、同じ人間が行うという動かしがたい事実が迫ってくる。
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