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未来を生きる君たちへ

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 「ソウル・キッチン」のファティ・アキンが分かりやすいんですけれど、もういい加減評価が固まった頃の“余裕の1本”に出会い、ビックラこいて初期の作品を漁っている。「愛より強く」「そして私たちは愛に帰る」もとっくに売り場にあって、「あ〜あ、劇場で観たかったなぁ」などと嘆き、もっと情報収集を・・・、などと後悔することが日増しに多くなる昨今。信頼できるニュース・ソースを持たない証拠で、ホントにうかつでした。本作の監督スサンネ・ビアは一発で好きになった。

 

 さてイザベル・コイシェ(「ナイト・トーキョー・デイ」)とかニキ・カーロ(「約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語」)とかの作品はミニシアター系お楽しみで、もちろん我が国では荻上直子がいる。彼女たちの作風は独特で男の監督とはやはり視点が違うし、題材の選び方も角度が違って楽しみ。今回スサンネ・ビアが挑戦したのは“憎しみの連鎖”を真正面から描こうとしている。地雷処理を現地に行って真っ向から描いたのは「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグローでしたが、ビア監督は二つの世界を平行して描き“憎しみ、仕返し”を浮き彫りにしていく。一方がアフリカで、もう一方が監督の祖国デンマーク。

 

 デンマークの主役は少年2人で、母親を亡くしたばかりのクリスチャンといじめられっ子のエリアス。「メタルヘッド」と家族構成が同じなクリスチャンは“やられたらやり返す”思いつめるタイプで、父親も一歩引いて接してしまう。この父親役のウルリッヒ・トムセンは最近でも「デビルクエスト」に出ていましたが、何ヶ国語を話せるんでしょう?「マーサの幸せレシピ」ではドイツ語だったし、それだけでなく変幻自在の自然な芝居。転校したばかりのクリスチャンは友達になったエリアスのために、いじめっ子をやっつけてしまいますが、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」のようにそれだけでは何の解決にならない。

 

 そんな中でアフリカにボランティアの医師として赴いているエリアスの父親アントンは帰国時、子供たちに“勇気ある行動”を示すことで無意味な暴力にどう対抗していくかを教える。彼の行動は誰にでも出来るが、勇気を欠いては決して出来ない尊い行為、ぜひご覧になってご確認ください。これこそ女性ならではの冷静な視線で描かれた“男らしさ”。中年男性の皆様必見です、真似できたら本当の尊敬を集められます。吉田文和著「グリーン・エコノミー」などを読むとデンマークは進むべき道がハッキリしていて、未来は決して暗くないはずなのに、グローバル化した先進国の逃れられない運命(人々が分断される)があります。

 

 子供たちに勇気ある行動を示したアントンが、アフリカで体験するのは更に過酷な暴力の現実。「ホテルルワンダ」でも「ブラッド・ダイヤモンド」でもたびたび登場しますが、山賊みたいなのが人々に蛮行をはたらいている。医療班のいるキャンプに腹を裂かれた妊婦が運ばれてくるのには絶句。しかし医師の仕事に誇りのあるアントンは蛮行の張本人を治療する。周囲の反対にもかかわらず直してやった悪党はしかし・・・。人として許しがたい行為というものはあるし、誇り高く勇気ある行動をする者でも全てを受け入れたりはしない。このきわどいラインは21世紀の今、考えなければならない諸問題の幾つかに当てはまりそう。「完全なる報復」も良かったという人あり、納得いかないと言う人あり様々でしたから。それにしてもいじめっ子を演じた子役も、悪役の2人(アフリカの悪党と暴力的な自動車修理工)も素晴らしかった。彼らがいなかったらこの作品は成立しない。

 

 最後にクリスチャンが“起こしてしまう事件”をもって本作はエンディングをむかえる。もちろんあわやテロリストにすらなりかねない彼を救ったのは“家族の絆”。“憎しみ、仕返し”への回答ではなく、乗り越えていくしかないものだし、“家族の絆”があればなんとかなる。このメッセージは大きいです。合衆国の映画好きも迂闊どころか、アカデミー賞をちゃんとあげてる。「アレクサンドリア」のアレハンドロ・アメナーバルとか「ミックマック」のジャン・ピエール・ジュネと同じく合衆国で修行して(「悲しみが乾くまで」)、戻って磨きのかかった技を披露したスサンネ・ビアは今後も楽しみ。もっともその前に「しあわせな孤独」も「ある愛の風景」も「アフター・ウェディング」もあるから、しばらくはウキウキ。

 

現在(8/22/2011)公開中 
オススメ★★★★☆ 

 

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  悲しみが乾くまで

 

 「未来を生きる君たちへ」で惚れてしまった才能スサンネ・ビア。最新作から1本ずつさかのぼって見ることになってしまったけれど、素晴らしかった。この合衆国での1本で、ますますこの監督の才能は完全に好みだと確信。身近な人を失ってしまった人々の再生の物語。映像スタイルは新作にも引き継がれているし、テーマも“家族の絆”と一貫している映画作家ながら、映画の帝国でコレだけ自らを貫けるのだから肝が据わっている。「アレクサンドリア」のアレハンドロ・アメナーバル、「ミックマック」のジャン=ピェール・ジュネ、共に合衆国での作品はあるけれど役者もスタッフも自らに従わせるまでには至らなかった。

 

 主演の2人はさすが実力派だけに監督の作品世界に没入。ベニチオ・デル・トロはもうホントに変幻自在。カリスマ性たっぷりに自然なチェ・ゲバラも出来るし狼男も申し分ないんだけど「21g」のように日常的な役を任されると光ります。ごく普通なんだけど、体内に“異質さ”を宿している。またハル・ベリーも凄い、ボンドガールも「X-MEN」「ソードフィッシュ」もコマーシャルな美貌を披露できる彼女ですが、「チョコレート」の時とも違う生活感を出している。美人を隠すことは出来ませんが、日常の範囲内に止めている。

 

 更に合衆国の監督たちに役者の使い方をスサンネ・ビアが教えてあげているみたいなのがデヴィッド・ドゥカヴニー。モルダー捜査官のままでは気の毒な優しい感じのよく出来た夫で、出過ぎないのがミソ。更に出番が少ない割に印象的だったオマー・ベンソン・ミラーは「セントアンナの奇跡」のあの大男で、「グラントリノ」でチラッと出てくる床屋さん役のジョン・キャロル・リンチも適材適所。もちろん監督のテーマは一貫して家族だけれど、舞台が合衆国だけに作品世界に“銃とドラッグ”を盛り込んでいる。
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