マイレージ、マイライフ
ミニシアター系作品でヒットを飛ばしている(過去の「サンキュー・スモーキング｣、「ジュノ｣2本とも大好き)ジェイソン・ライトマン。ま、内容が良いからアカデミー賞にノミネートされたりする。ただ“わが道を行く”コーエン兄弟(よくまあ毎年撮るよな)とはやや傾向が違います。この人の魅力はこの“やや”の部分。“分からない人は、分からなくて良いんじゃない?”とういう造りではなく、可能な限り人々に分かりやすく、さりげなく“毒”を含んで、現代を軽やかに描写している、とでも言ったらよいでしょうか。シリアスな題材(喫煙、高校生の妊娠)なんだけど、観ていて深刻にはならず核心を突いている。
で、今回主演はスティーヴン・ソダーバーグ と組んで次々に好きな映画を量産している(「シリアナ」、「グッドナイト＆グッドラック」)ジョージ・クルーニー。コーエン兄弟の作品(「バーン・アフター・リーディング｣、「ディボースショウ」)にも出ている万年映画青年で、映画に対して貪欲なこの独身貴族は現代のかわいそうな“仕事人間”を爽やかなＣＦ向け笑顔を絶やさず演じている。彼が演じているのは“リストラ宣告請負人”。クビを言い渡せないだめな管理職の代わりに文句を言われる仕事。加えてコンサルタントみたいなこともしていて、前世紀のステイタス＝カードのランクを価値基準にしていて、出張先でのお楽しみ(キャリア女性との××××)を満喫。
しかし時代は確実に進んでいて、「消されたヘッドライン」と同じくネット環境が当たり前の21世紀を生きるピカピカの女の子が登場。賢い彼女発案のシステムを実践するため、仕事を共にすることに。この発案は実現しそうで怖い。スーツが似合う駆け出しの女の子、「トワイライト初恋｣では気がつかなかったけど、このアナ・ケンドリックちゃんは要注目。
新人の女の子に現場で仕事を教える過程で、合衆国の“今”が浮き彫りになるんだけど、この描写はなかなか。さすが21世紀の監督ジェイソン・ライトマン、パターンをことごとくスカしている。もし雇用問題を解決するなら彼の父親、アイヴァン・ライトマン監督作「デーブ｣を観ればいいんだし、問題提起はマイケル・ムーアの「キャピタリズム・マネーは踊る」でなされている。｢インフォーマント！」や「フィクサー｣とも違っているのは、本当のテーマが他にあるから。実は彼は一貫して“家族”を中心に描いてきた。ここが肝心で、深刻な現代の問題はあくまで“時代記号”に過ぎない。
で、新人の女の子に怒られて、家族とのふれあいを通じて人間らしさを取り戻していく“仕事大好き人間”。まるで「プロヴァンスの贈りもの｣みたいな展開だったんだけど、最後に爆弾が炸裂・・・ぜひご覧になってご確認を。この毒はさりげないだけに効くなぁ、爽やかなＣＦ向け笑顔が・・・。
「プラダを着た悪魔」っぽく21世紀の女の子たちはたくましく成長して、男は案の定「(500)日のサマー」のように純文学世界へ突入。ままならない現実なんだけど、全体が実に風通し良く、悲喜劇なんだけど後味はそれほど悪くない。素敵な空撮も一役買ってます。
現在(3/22/2010)公開中
オススメ★★★★☆
関連作
観た時は分からなくても(2001年)、時を経ると(2011年)分かってくるのがコーエン兄弟の作品なのかもしれない。劇場ではポマード塗って、顔面に力を込めて演じているジョージ・クルーニーに笑わせてもらったけど、それしか覚えていない。でも脱獄映画にしてロード・ムービー。合衆国の追跡劇は「パーフェクト・ワールド｣みたいに保安官がとことんやるみたい。更には音楽映画として全編に流れる曲は素晴らしく、当時の世相も盛り込んでいるぜいたく品。
銀行強盗ジョージ・ネルソンが爆笑で、金を撒き散らしながら車を走らせている。ＫＫＫも笑いのダシにして、徹底的にコケにする。ＫＫＫの中身が知事候補だってのは、絶対どこかからネタを拾ってきたに違いない。常連のジョン・グッドマンも、もちろん美味しいところをさらい、聖書売って歩いてる男。南部の風俗を意外にキチンと描いていて、マジだと「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド｣になるけれど、笑いの中に合衆国を描く手腕はたいしたものでしょう。撮影監督ロジャー・ディーキンスの手腕は全編に渡って発揮されており、素晴らしい。特に列車は後の「アイム・ノット・ゼア｣のエドワード・ラックマンと甲乙つけがたい。「カンパニー・メン」 にも参加で引っ張りだこ。
オススメ★★★★☆