ヤギと男と男と壁と
好きな題材に出るだけじゃなくて、製作も兼ねてしまう万年映画青年ジョージ・クルーニー。出るだけだったら「マイレージ、マイライフ」みたいに爽やか笑顔を振りまく演技のプロに徹しますが、プロデューサー兼任となればやる気満々でギャグを炸裂させようとします。「オー・ブラザー!」とか「バーンアフター・リーディング」と同じで無意味に“顔面に力を込めて”演じているのがその証拠。「オーシャンズ11,12,13」が一番分かりやすいですけれど、彼が製作するとキャストが人脈で成立、ジェフ・ブリッジス、ケヴィン・スペイシー、ユアン・マクレガーと実に豪華。
主要キャストは超大作では悪役経験者ですけれど、演技巧者だけにアホな笑いに真剣です。冒頭あの「アバター」で“悪役大佐”を演じたスティーヴン・ラングが思いっきり壁に突進したり、「ターミネーター2」の液体金属人間=ロバート・パトリックがイラクを喰いものにするセコイ商人で出てきたり、それぞれやりたい放題。偶然にも前日に「スターウォーズY ジェダイの帰還」を観ていたので、ジェダイ・マスター=ユアン・マクレガーを目の前にして“ジェダイの騎士が”とか“ジェダイの掟が”のベタなギャグで笑わせてもらいました。
それにしても「クレイジー・ハート」では素晴らしかったジェフ・ブリッジス、どういうわけか“ヒッピー”が似合ってしまって「ビッグ・リボウスキ」のラインへ。日常的にマリファナ吸ってる感じは彼ならではでしょう。ま、芸域は広いですから以前ケヴィン・スペイシーと共演した「K-PAX光の旅人」などは真面目な精神科医。またケヴィン・スペイシーもワルなんだけど、笑いとりたいもんだからやってましたね、無理に自分の見せ場を要求したみたいなシーンがあったりして・・・。
「実在した米超能力部隊を題材に、軍隊コメディを作り上げる」作品だから「M★A★S★H」とか「戦争のはじめかた」みたいなノリに終始するかと思いきや、ちゃんと知られざる“イラクの実態”にも切り込んでいる。実録モノ「グリーン・ゾーン」より“実話をダシ”にして「グアンタナモ 僕達が見た真実」でも描かれた“拷問装置”も出てくるし、“戦争の民間委託”の部分もこの作品ならではでしょう。その辺はご覧になってご確認を。
監督はなんと「トゥルーライズ」に役者として、“脇で良い味”を出していたグラント・ヘスロヴ。仲間うちの面白さを引き出しつつ、独自の味つけも忘れていなくて、それが彼の趣味だと思えるボストン。あの爽やかメントール系ギターの“more than feeling”が鳴り響くエンディングは良かったなぁ。サントラ売りたいために“ヒップ・ホップ”、“ヘヴィ・ロック”系のアーティストに新曲書かせて詰め込む図式ではなく、テーマに沿った曲を効果的に使うのは本道でしょう。
確かに“愛と平和”はアホらしいかもしれないけれど、「アクロス・ザ・ユニバース」ともども音楽は高らかに歌い上げてしまうわけです。大友克洋の傑作漫画「気分はもう戦争」の1シーンを思い出させるラストでしめ、ボストンを聴きながら劇場を後にできる。体裁は軍隊コメディかもしれないけれど、テーマは意外に鋭く深かったりする。映画青年ジョージ・クルーニー、またまた良品製作に成功です。アルバム“Walk
on” が好きだったボストン 、久しぶりに聴きたくなった。
現在(8/16/2010)公開中
オススメ ★★★★☆
関連作
公開当時は確か“ジェダイの復讐”だったような気がするんだけど、“return of
jedi”だから“帰還”が正解なんでしょう。高校生の時に観ましたが、ぶっ飛んじゃいましたね。エピソードV でスッキリしなかったTからのファンも、ここまでくれば納得の長大なスターウォーズ・サーガ完結編。見所はジャバ・ザ・ハットからソロ船長を救出するところから、デス・スター攻略まで満載。20年以上前の作品でもCG修正で今でも鑑賞可能になることを証明したSF映画 のマスター・ピース。
オススメ★★★★☆