インビクタス/負けざる者たち
年代によって見方はハッキリ分かれるでしょうが、40代以上の方でしたらまずネルソン・マンデラが大統領に就任するトコから始まる冒頭に唸ってしまうはず。「マンデラの名もなき看守」のラスト(ネルソン・マンデラ解放)と同じ瞬間からスタートすることになるこの作品、さすがクリント・イーストウッド、目の付け所が違います。実際“アパルトヘイト(=人種隔離政策 「遠い夜明け」は必見)は撤廃されたし、マンデラが大統領になったから”という認識で南アフリカ共和国に関心がなくなっちゃったのは事実(ニュースも途絶えた)。しかし肝心なのは制度が変わろうと、人々の意識が変わるのは話が別。世界中の注目が去った後の重要な部分がこの作品の根幹で、ネルソン・マンデラが偉人である事実が丁寧に描かれる。もちろんそれはご覧になってご確認を。
名優と呼ばれるモーガン・フリーマン、いつもだったら役の方から彼に近づいていくかの印象がありますけれど(「ダークナイト」しかり「最高の人生の見つけかた」しかり)、今回はマンデラ自身になりきろうとしている。まるで「太陽」のイッセー尾形や「クィーン」のヘレン・ミレンみたいに。やはり国家元首にして20世紀に傑出した実在の偉人 を演じるのですから、根性は入りまくり。
もちろんラグビー・チーム奇跡の××、コチラももう一方のテーマですから、こちらのキャストも責任重大でマット・デイモンが文句なし。「グッドウィル・ハンティング」の青年が成長した姿みたいに、たくましく爽やか。彼の場合体型はガッチリしていますからスパイ・エージェント(「ボーンアイデンティティー」 シリーズ)もラガーマンも無理なく決まって見える。ホント「インフォーマント!」のアホとはエライ違い。「オーシャンズ11、12、13」の中ではジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットに次ぐ感じだったけれど、いよいよ抜きん出てきたか。「ディパーテッド」で共演のレオナルド・ディカプリオといい勝負です。
それにしても通常の年齢の感覚だったらとっくに“晩年”なはずなのに、次から次へと作品を産みだしているクリント・イーストウッド はホントにスゴイ。もちろんただ作ってるんじゃなくて、クォリティが無駄のない本物の映画で素晴らしい。去年だけだって「チェンジリング」、「グラン・トリノ」を監督、「さよなら。いつか分かること」の音楽を担当、ポール・ハギスの「告発のとき」をバック・アップ。この人の晩年はまだまだ先みたいですね。
現在(2010年)も問題(「ナイロビの蜂」、「ブラッド・ダイアモンド」、「ホテル・ルワンダ」)は山積みのアフリカですけれど、あのガンジーを独立運動へと駆り立てた悪しき政策(アパルトヘイト)を忘れるのは早いし、それを撤廃し、新しい国家へと生まれ変わるために尽くした偉人の物語は深く深く感動させられてしまいます。
現在(2/7/2010)公開中
オススメ★★★★☆
関連作
ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマン の組み合わせでいくなら、サスペンスか重厚な歴史劇とか軍隊ものとか。そんな選択肢があるのに、あえて感動作を演じさせる茶目っ気が健在の監督ロブ・ライナー(「恋人たちの予感」 が一番だと思っている)。実は2人とも演技派スターだから、素に近い役をやったら面白いかもという目論みはけっこういいかも(実際はどうか分かりません)。で、嫌味な方は当然ニコルソンで、迷惑顔になってしまうのがフリーマン。原題はかなり生々しくて“THE
BUCKET
LIST=棺おけリスト”。洒落の分かる方ならOKだけど、アメリカのコメディはけっこう毒を含んでいるよな、セリフもかなりキツイこと平気で言っちゃうし。でも邦題のほうがソフトだし、内容的には近い。死ぬ前に好きなことやっておくのは実に健全。先に死ぬのがてっきり・・・、と思っていたら実は・・・、ぜひご覧になってご確認を。
オススメ★★★☆☆