17歳の肖像
男の子の純文学志向ラブストーリー「(500)日のサマー」と合わせてご覧になると、女性の強さが際立つ素晴らしい成長物語。「パイレーツロック」のちょっと前、お父さんの権威も学校の権威も失われていない時期の大英帝国。“良い学校”に行くことは“良いこと”な家庭の少女が主人公。ただこの作品は過ぎ去りし日々を描くのが目的ではなく、主人公のキャラを獲得するためこの時代設定にしたのでは?と思わせます。つまりこの時代にしか生存が多く確認されていない“絶滅危惧種=夢見る少女”が主人公。
「ハイ・フィデリティ」とか「アバウト・ア・ボーイ」 の脚本家ですから、地に足のついたイギリスの日常を描き出すのは得意。家々のたたずまいは「リトルダンサー」 の貧乏街よりワン・ランク上って感じ。しかし男の話はいまや情けない話の代名詞になりつつあるので、女性ジャーナリスト の回想録を元に映画にするのは正解。とても勇気をくれるし、明日への一歩を踏み出す元気が出ます。
成長する少女を演じたキャリー・マリガンはオスカー ・ノミネートも肯ける自然な変化を体現。「トワイライト初恋」のクリステン・スチュワートや「マイレージ・マイ・ライフ」のアナ・ケンドリックともども今世紀を引っ張っていく大器となるか。それにしても「JUNO/ジュノ」のエレン・ペイジ にしろ新人女優ってみんなかっこいいなぁ。
で、夢見る少女が憧れるのがピーター・サースガード演じる胡散臭い“世慣れた大人”なんですけれど、ハマッてました。キャラについての詳細は触れると台無しになっちゃうので割愛しますけれど、「ジャーヘッド」にしろ「エレジー」 にしろ出しゃばらない感じの独特な印象はさすがです。声はどことなくジョン・マルコヴィッチ を思わせて、いやらしくもインテリジェントな感じで悪くない。
男はドンドン情けなくなっていって、女の子は強く、美しく、背筋を伸ばして生きていかなくちゃなんない21世紀。彼女たちを主人公にすると「ベッカムに恋して」にしても「ブルークラッシュ」にしても「プラダを着た悪魔」 にしても明日へ踏み出す勇気が沸いてきます。確かに“夢見る少女”は絶滅したけれど、いつまで経っても浸っていられないのが夢。同じ日に観た「アリス・イン・ワンダーランド」 もしかりで、女性はとっくに今世紀を生きているのです。それにしても“不純異性交遊”はダメなのに“喫煙”はOKで女子高生がスパスパ吸っている、その辺はまさに時代記号。
現在(4/19/2010)公開中
オススメ★★★★☆
関連作
恥ずかしながら「ブラス!」は見ていないけれど、監督のマーク・ハーモンがなかなかに魅せてくれる英国の下町感動作。雰囲気としては「リトルダンサー」に近く、貧乏臭い街だけにしょぼい人間関係で展開。ヒステリックな母親にいびられているから、主人公LVは否応なく健気に映る。加えてその歌声が絶品だけに、物語の初めは無口な彼女。もちろんひょんなことで彼女が歌いだすと・・・、の展開はご覧になってご確認を。
無口な主人公に釣り合うように、ユアン・マクレガーも鳩飼ってるシャイで地味な青年に変身。いじらしい2人を引き立てるためにもマイケル・ケインとブレンダ・ブレシンが、しょーもない大人として張り切っている。下町だけにデビューはキャバレーのステージながら、主演のジーン・ホロックスの歌マネ込みの声は絶品。「マクロスF」みたいにパート(セリフ部分と歌部分)で分かれているのかと思いきや、全部彼女が演じてしまっている。そこんトコだけでも必聴の1本です。
オススメ★★★☆☆