キャデラック・レコード
ビヨンセが出ているのに、あんまり話題にはならないけれど、実に肝心な音楽映画。“ロックというとビートルズとかローリング・ストーンズがオリジナルじゃなくて、チャック・ベリーなんだよな”という知識は持っていたけれど、実際に聴いたことはないし、まるで無知でした。ところがビートルズもストーンズも、初期はここで描かれている人々の曲をカヴァーして世に出てきた。
で、起源となる人々が在籍していたレーベルが“チェスレコード”。マディ・ウォーターズとかチャック・ベリー がせっせと“レコード”を製作して生活費を稼ぎ出していく。もちろんミュージシャンだけでは食えないから、堅実な商売上手が裏にいるわけで、それがポーランド移民でレーベルの社長レナード・チェス。黒人差別が当然の時代に、そんなことぜーんぜん気にしない有能なビジネスマンで、DJに金やって曲かけさせたりして“良い音楽”を広めてヒット・チャートの上位を獲得。
一見やっていたことは今の音楽業界とさほど変わらないようで、実はまるで違う。それは「少年メリケンサック」を観れば一目瞭然。ただ目立ちたい、売れたい、見返してやりたいという衝動のみで成立している“笑えるパンク時代”とはずいぶんと違っています。移民と差別されている人種が“生き残るすべ”として音楽を選んでいるので、それが新しい音楽を“結果的に”産み出していったんじゃないかな?などと思います。
レーベルの社長だってただミュージシャン騙して儲けるだけじゃなくて、売れたらキャデラック買ってやったり、家を世話してやったりするしね。「バード」 のチャーリー・パーカー にしても、「レイ/Ray」のレイ・チャールズにしても本物の音楽家だから、足を洗うってワケにはいかない、ある意味可哀想な人々なんだから。
レーベル会社社長チェスに扮したエイドリアン・ブロディは実にはまり役。「戦場のピアニスト」がもっとも有名ですけれど、「コミットメンツ」のマネージャーっぽく、インチキ臭さのなかにもどこか音楽を好きな感じが出ていて素晴らしい。また実在した人物マディ・ウォーターズを演じたジェフリー・ライト、「バスキア」でバスキア、「ブッシュ」で元国務長官コリン・パウエルをやったかと思えば、「007カジノロワイヤル」、「007慰めの報酬」で地味ながら信頼できるCIAエージェントとなかなかの芸達者ですな。
現在流通している大衆音楽の本当の起源、発生の瞬間を目にすることの出来る貴重な音楽映画、ロック好きは必見。
現在(8/20/2009)公開中
オススメ★★★☆☆
関連作
時が経つと恐ろしいくらいの豪華共演になっている、ミニシアター 系の典型的な秀作。バスキアを演じるジェフリー・ライトは、今(2011年)でこそ渋いオッサン役がはまっていますが(「007慰めの報酬」など)、キュートかつセクシーに悲しい天才画家になりきっている。またアンディ・ウォーホルをデヴィッド・ボウイがやっているんですけれど、異常に雰囲気が出ている。更にデニス・ホッパー、クリストファー・ウォーケンなどの年長組から、ウィレム・デフォー、ゲイリー・オールドマンなどがごく自然な感じなのが嬉しい。未だそれほど知られていないベニチオ・デル・トロや「ジョー・ブラックをよろしく」でも美貌全開になったクレア・フォラーニだけでなく、マイケル・ウィンコット(「トラブル・イン・ハリウッド」)なんて美味しすぎる。
1988年まで存命だった人だけに、関係者も多数いるでしょうから案外実像に近いのかも。画面の隅にチョロッとヴィンセント・ギャロが出ているなぁと思ったら、彼は監督ともども友人なんだそうで、やけに生々しい偉人伝です。80年代ですからマスコミがバスキアをエディ・マーフィにたとえたりしているんですけれど、ナンセンスそのもの。またマドンナとの関係も取りざたされている。なんとマドンナ役がコートニー・ラヴ(カート・コバーンの奥さん)なんだよね。画のことはサッパリ分かりませんが、無名の天才がカフェでウォーホルに売る作品は確かに惹きつけられる素晴らしいもの。ウォーホルとの関係によって作品を産み出した天才も、欠くべからざる相棒を失うと夭折してしまうのですね。
オススメ★★★★☆